マイスターです。
当たり前ですが、学校の存在は、学びの機会を提供することです。
大学であれば、「高等教育を受ける機会」を、「あらゆる年代、属性の方々」に提供するということになるでしょう。社会の中で、大学は非常に重要な役割を果たしていると言えます。
さて、今日はこんな話題をご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「大阪市立大2部廃止反対 陳情書を市長に提出」(MSN産経ニュース)
大阪市立大学が2部(夜間部)の学生募集を平成22年度で取りやめる問題で、同大2部の学生やOBらのグループ「市大2部廃止問題を考える会」が11日、存続を求める陳情書を2000人を超える廃止反対の署名とともに平松邦夫市長と多賀谷俊史議長に提出した。代表の法学部2部5年、泉谷亨輔さん(25)は「学費が安い2部は、経済的な問題で進学が難しい若者の数少ない希望。廃止を撤回してほしい」と訴えた。
同大は商学部、経済学部、法学部、文学部の2部について、学生の有職率が5%程度になったことや、志願者も10年で半減している-などを理由に、22年度から学生募集を停止することを10月末に決めた。
泉谷さんらは「現役学生に全く説明がない」として考える会を立ち上げ、2部学生全員の976人中305人にアンケートを実施。この結果、69・5%が廃止に反対だった。
また、アンケートで全体の79・7%が週平均4日、1日6時間以上働いているとの結果が出ており、同会は、「大学側の勤労学生が5%程度という説明は事実誤認」としている。また、志願者減は17年度に学生募集定員が180人から120人に減ったのが原因とし「大学側の示す廃止理由に納得はできない」と訴えた。
(上記記事より)
■「大阪市立大:2部存続を 「廃止」に学生2570人分の署名 /大阪」(毎日jp)
大学によると、10年度から学生募集を停止。在籍する学生976人と09年度の入学生が卒業した後に廃止する。入学時に有職者が占める割合が約20年前の約40%から5%前後に減り、働く人に高等教育の機会を提供するという設置趣旨から離れているとしている。
一方、学生やOBでつくる「市大2部廃止問題を考える会」は、独自アンケートや大学の調査を基に、「在学中はフルタイムに近い非正社員や正社員として働く学生が半数を超え、昼間課程に比べて低所得者層が多い」と指摘。学費を自分で支払っている学生が半数を超しており、「学費が1部の半額である2部がなくなれば、高等教育の機会が失われ、教育格差が生じる」と訴えた。
(上記記事より)
大阪市立大学の2部(夜間部)に関する報道です。
上記の通り、大阪市立大学は、2部に入学する学生に有職者がほとんどいないこと、および志願者数の減少を理由に、2部の廃止を発表しました。
以下が、大学の公式なリリースです。
■「学部第2部の学生募集の停止について」(大阪市立大学)
今度の春に行われる入試を最後に募集を停止。
来年4月に入学する学生が卒業するまでは、教育環境は維持するとのことです。
大学側が発表したこれらの方針に対し、2部の学生、およびOBなどの間から、2部存続の要望が出ているとのこと。
「大阪市立大学二部廃止問題を考える会」を結成し、署名を集めたり、大学経営陣に意見を伝えるなどの活動を展開しています。
冒頭の記事は、そんな大学側と学生側の現状を報じたものです。
大阪市立大学に限らず、大学夜間部、いわゆる「夜学」を巡る状況は決して穏やかなものではありません。
かつて存在した夜間部の多くが現在、廃止されています。
(過去の関連記事)
■「早大・社会科学部 夜間の授業を停止」
↑夜学が消える理由については、過去の記事で詳しくご紹介しましたので、よろしければこちらをご覧ください。
なお多くの大学はで今、1部(昼間部)の存続すら大変な状況。大学内のリソースを、生き残りのために投入しようと必死です。
2部を廃止することで、学生の定員や指導教員などのリソースを1部にまわし、新学部・新学科を設置するなどの動きを見せる大学が少なくありません。
2部を巡る状況だけでなく、1部も含めた「大学生き残り」への思惑が、2部廃止には絡んでいます。
さらに言えば、現在の大阪市の財政状況は、決して安泰とは言えません。
市から予算を得ている公立大学法人として、そんな現状も関係ないとは言えないでしょう。
2部を維持存続させるのは大変かと言われれば、「とても大変」という状況だと思います。
ただ、だから廃止しなければならないかというと、それは大学や大阪市の考え方次第。
「大変だけど、大阪市として、これはやらなければならない」という判断だってあり得ます。
現在、経済は悪化の一途を辿っています。大学の学費を捻出するのが困難な家庭は増えるでしょう。
そんなときだからこそ公立大学が必要なのだ、という声もあると思います。
大阪市立大学のリリースを見ると、
新たな社会人教育の展開については、平成22年度から第1部における新たな社会人特別選抜の実施を含む第1部の学生定員増や3年次編入の定員化及び定員増、法に基づく履修証明書が交付できる新たな社会人向けの履修コースの設置等の社会的ニーズに応じた新しい社会人教育を実施する予定です。
……といった文章が載っています。
社会人が学ぶ場はある、とのことですが、経済的な面には触れられていません。
極端な話、2部に回っていたお金を、経済的に苦しい学生を対象にした独自の奨学金などに振り替え、別の形で学生を支援するといったことも考えられそうですが、どうなのでしょうか。
ちなみに今回の、2部廃止の理由についてですが、「大阪市立大学二部廃止問題を考える会」のブログに興味深い指摘が掲載されています。
■「大学側がホームページに2部廃止の理由を載せました!」(大阪市立大学二部廃止問題を考える会)
「募集停止」の理由は、(1)入学時点での有職率が5%と減っており「夜間のみでしか大学で学ぶことのできない環境にある者の入学が希少」ということと、(2)志願者数が約600名から700名と減っているという二つのことをあげて「設置当初の基本理念から乖離した状況が続いてい」るから「募集停止」を決定したとしています。
11月に政府が発表した青少年白書をみると、15歳から19歳の非正規雇用者は72%にもなっていました。そもそも高校を卒業して正社員になれる人が少ないのに、入学時の有職者数だけを見て「夜間のみでしか大学で学ぶことのできない環境にある者の入学が希少」といわれても困ります。だから私たちも在学生にアンケートを取り、実際に働きながら通学している人はどれぐらいいるのかを調べました。305人分の集計では、約8割の2部生が正社員・非正社員として働いています。
市大2部の定数の合計は現在120名です。今年度の倍率は6.5倍もありました。志願者数が減ったというよりも、今の社会状況のもとで市大2部を必要としている人が600人から700人もいて、そのごく一部の人しか市大で学ぶことができないということなんじゃないでしょうか。ちなみに今年度の市大1部の倍率は5.0倍です。
(上記記事より)
大学側のリリースにもありますが、大学が廃止の根拠にしているのは、「入学時の学生からの届出に基づく調査による入学生の有職率」です。
しかし考えてみれば、そもそも高校を卒業してすぐに正社員になれる人が少ない状況。2部に入学してから職を得る人だって、実際には相当数、いるのでしょう。
考える会がアンケートで調査した「約8割の2部生が正社員・非正社員として働いています」という結果が実情なのだとしたら、大学側の判断は、現状認識の段階で、そもそも見直す必要があるかもしれません。
また、「定員に対する志願倍率は、1部を上回っている」という指摘も、興味深いです。
この2つの指摘は、大学側が発表した現状認識と正反対の内容。
少なくともこれらの点については、大学側はちゃんと回答しなければならないのではないかと、個人的には思います。
夜間部の廃止が相次いでいる現状であり、現状が厳しい事実は変わりません。
ただ、最終的な判断を下すのは当事者である大学(この場合は大阪市も)です。
公立大学ですし、どのような答えを出すにせよ、説明責任は問われるところだと思います。
以上、記事を見てそんなことを考えたマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。