マイスターです。
現在、自民党内で「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」というものが発足しています。
自民党の無駄遣い撲滅プロジェクトチーム(PT)は28日、マッサージチェア購入などが明るみに出て批判を受けたレクリエーション経費(約3.7億円)の原則廃止などを盛り込んだ報告書をまとめた。このほか、タクシー利用の大幅制限▽国や独立行政法人などから公益法人への支出の3割削減▽公共事業費の見直し――などが柱。来年度予算編成で社会保障費や成長力強化に振り分けられる「重点化枠」(3300億円)に相当する金額は、こうした無駄の廃止からひねり出す考えだ。
(「省庁の娯楽費廃止を 自民の無駄ゼロPTが報告書」(Asahi.com)記事より)
予算の無駄遣いがしばしば報じられる中、こういった動きが起きることに反対する人は、全体的にはあまりいないと思います。
ただそうは言っても、「自分が関わっている物事」の予算だけは削ってくれるな、と考えてしまうのが人の常。「総論賛成、各論反対」で、「私のプロジェクトは社会に必要なのだから手をつけるな。他から削れ」という主張があふれがちです。
リソースが限られている中で、政策を評価したり、優先順位をつけたりする行為は、簡単ではありません。
さて、この「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」の予算削減ターゲットとして、しばらく前から「ある大学」の名前が報じられてきています。
【今日の大学関連ニュース】
■「大学院大見直し提言検討/自民無駄撲滅班/沖振委反発 振興対応を決議」(沖縄タイムス)
政府の政策を点検している自民党無駄遣い撲滅プロジェクトチーム(園田博之座長)が、沖縄大学院大学構想について「事業コストに対する効果が不明確」とするなど、沖縄政策の見直しを求める提言を検討していることが分かった。反発した同党沖縄振興委員会は二十七日、沖縄の振興に支障を生じない対応を求める決議を採択。仲井真弘多知事とともに保利耕輔政調会長らに申し入れた。
同チームは二十八日の全体会議で、沖縄政策を含めて各省庁施策に対する点検結果を取りまとめる予定。作業班が園田座長に提出した報告書では「沖縄の特殊性に配慮しながらも、より効率的な資本投下となるよう達成目標を定め、公表するなど、抜本的に見直すべきだ」と指摘している。
(上記記事より)
2002年3月に成立した「沖縄振興特別措置法」には、以下のような条文があります。
【沖縄振興特別措置法】
第八十五条 国及び地方公共団体は、沖縄における科学技術の振興を図るため、沖縄における研究開発の推進及びその成果の普及等必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、沖縄において、国際的に卓越した教育研究を行う大学院を置く大学その他の教育研究機関の整備、充実等必要な措置を講ずることにより、国際的視点に立った科学技術の水準の向上に努めるものとする。
この条文に基づいて計画が進んでいるのが、「沖縄科学技術大学院大学」構想です。
■「沖縄科学技術大学院大学」(独立行政法人 沖縄科学技術研究基盤整備機構)
■「沖縄科学技術大学院大学概要(PDF)」(沖縄県)
上記の「沖縄科学技術大学院大学概要」には、この大学院大学の特徴が以下のように記載されています。
■1:大学院大学の目的
○沖縄に、自然科学系の世界最高の研究・教育水準を有し、国際的で柔軟性を持った大学院大学を設置することにより、
・ 世界の科学技術の発展に寄与する
・ 沖縄をアジア・太平洋地域の先端的頭脳集積地域として発展させ、
その経済的自立を図る
等を目的としている。
■2:基本コンセプト
○主な特徴
・ 世界最高水準(Best in the world)
・ 国際性(International)
・ 柔軟性(Flexible)
・ 世界的連携(Global networking)
・ 産学連携(Collaboration with industry)
○教育・研究分野
生命システムを中心的な課題とし、生物学、物理学、化学、コンピューティング、ナノテクノロジーなどを融合した領域とする。
■3:特別なしくみ
○新しい大学法人形態
・ 日本政府が大学院大学を財政的に支援する。
・ 国設民営型の運営を目指す。
○国際的運営
・ 講義・会議等は英語で行われる。
・ 学長は外国から迎え、教授陣および学生は半数以上を諸外国から受け入れる。
■4:国際的連携と産学連携
○海外の一流の大学、研究機関やアジア・太平洋地域の大学、研究機関との連携関係を構築する。
○ 内外の企業との魅力的な産学連携の仕組みを構築する。
○大学院大学の周辺に国内外の研究所や、ベンチャー企業を誘致することで、知的・産業クラスターを形成する。
■5:魅力的な環境整備
○広く快適な住宅や寮の提供
○教授や職員の子弟のための教育環境整備
○学生への十分な奨学金や財政援助制度
(以上、「沖縄科学技術大学院大学概要」より抜粋)
このように、「自然科学系で、研究中心」だと謳われている大学院大学です。
こうした構想が発表されたときには、非常に革新的だという評価もありました。
実際、こうして改めて見てみても、もしこんな大学院大学ができたら日本の他の大学にとっても刺激になるだろうな、と思わせる内容です。
そして、きちんと法で規定された計画であり、そのための準備も着々と進められています。
それが今回、深夜タクシーやマッサージチェア購入と並んで「無駄」扱いされてしまったということで、地元の関係者やメディアは一斉に批判を展開しました。
■「無駄遣い論議 沖縄が標的なら筋違い」(琉球新報)
■「[無駄遣い報告案] どうにも納得しかねる」(沖縄タイムス)
■「県と内閣府 再燃を警戒 自民PT「大学院大不要論」」(琉球新報)
■「自民の無駄撲滅プロジェクトチーム報告書に「族議員」反発」(MSN産経ニュース)
確かに、マッサージチェアなどと一緒にされたら、怒るのも分かります。
「もっとちゃんと精査して考えてくれ」という意見も出るでしょう。
政府の沖縄予算には歴史的経緯と特殊事情がある。何のために沖縄担当相を置き、歴代政権が沖縄問題を最重要課題の一つとしてきたのか。経緯や背景をよく知らず、一律にやり玉に挙げているとしたら、あまりに悲しい。
(「無駄遣い論議 沖縄が標的なら筋違い」(琉球新報)記事より)
……なんて意見もあるようです。
ただ、この大学院大学は「沖縄振興」を出発点にしてスタートした計画であり、そのあたりで、これまでにも色々と議論を巻き起こしているのも確かです。
●実際にこの通りの大学ができれば素晴らしいが、果たして本当に、ゼロのところからここまでの計画が実現できるのか。世界トップ水準の研究者を集めることはできるのか。
●構想が本当に実現するとしたらそれは何年後で、それまでにどのくらいの投資を続ける必要があるのか。政府が予算をつぎ込み続けないと、構想通りにはならないのではないか。
国立大学までが法人化し、各大学で生き残りの努力を続けている中での「特別扱い」は適切なのか。
●「まずハコモノ」という発想。研究を行うために大学をつくるのではなく、大学をつくるために研究者を集めるという発想で、果たして成功するのか。
●そもそもこの大学が、大学として持つ目的は何なのか。
……等々。
(この他にも、学長候補者が辞任を表明して数日後に撤回したり、国による科学技術施策の「格付け」作業において沖縄科学技術大学院大学が最高の「S」評価を受けるよう圧力がかけられたのではないか、という疑惑が報じられるなど、これまでにも様々な報道がなされています)
実際、これだけの構想をゼロから実現させるとしたら、10年、20年単位の計画で、かなり気の長い投資を続ける必要があるように思われます。
しかも「世界トップ水準」の研究者を多数招聘し、その家族のための住まいや教育環境までもを整備するとのことですから、毎年、人件費だけでも相当のコストがかかるでしょう。
(コストがかかるから振興策になるのだ、とも言えますが)
息の長い計画である、ということへの理解を社会に求め続けていかなければならないところですが、上記のように、既に批判は起きています。
研究の成果というのは、必ずしも費用対効果で評価できるものではありません。だからこそ、やるなら本気でやり続ける必要があると思いますが、今からこの様子では、それも心配になってきます。
また、そもそも沖縄の振興が目的であるなら、「大学院大学」の設置という案自体、適切ではないのではないか、という声もあります。同じように投資を行うなら、学術研究ではなく他の事業に回した方が、沖縄の振興に繋がるのではないか、という意見です。
沖縄振興を抜きにして考えた場合、「大学院大学」としてなぜこの大学が沖縄に必要なのか。何をミッションとする大学なのか。その辺りを明確にし、大学として成果を求め続けていかなければ確かに、単なるハコモノ投資で終わってしまうかもしれません。
個人的には、こんな大学ができたら刺激的だろうな、とは思います。
■「採用・調達情報」(独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構)
↑このように、英語でスタッフを募るなど、これまでにない動きも感じます。
沖縄の地理的な特性を活かし、アジア太平洋地域できらりと光る研究機関になったら、国の宝にもなるでしょう。
ただ、そのために解決しなければならない課題や、(大学の目的など)明快にしなければならない部分も多いように感じます。
今回、「無駄」としてやり玉に挙げられてしまったのも、そのあたりがすっきりしていないからでしょう。
もし本当に実現させるのであれば、まず曖昧な部分は極力除き、憂いを無くしてからの方がいいのではと思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
沖縄科学技術大学院大学は、現在最先端の研究設備の導入を進めています。中でも目玉となるのが卓上型放射光装置です。卓上型放射光装置は、立命館大学の山田廣成教授が世界に先がけて開発を進めた装置であり、日本のお家芸です。沖縄科学技術大学院大学は日本の予算を使って、日本で研究するのですから、日本の産業に貢献しなくては成りません。日本の産業を育成すると言う使命もあります。従って、装置は日本の企業から優先的に購入すべきであり、外国企業の製品を導入すべきではありません。外国の装置を導入して外国人が研究するのでは一体何のためにこの大学は日本にあるのでしょうか?予算の使い方を厳しくチェックすべきであると考えます。