コピー・ペーストでつくった教育理念?

マイスターです。

大学にとって、憲法と言えるのが、「建学の精神」や「教育理念」です。
特に私立大学にとっては、自分達の存在理由であり、アイデンティティーそのもの。学園の歴史の中で継承されてきた関係者の想いが、短い言葉の中に込められています。

例えば、玉川学園の「12の教育信条」などは、よく知られています。

今日は、この「教育理念」をめぐる報道をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「前橋工科大、『教育理念』引き写し 岡山大から」(Asahi.com)

前橋市立前橋工科大学(江守克彦学長)が07年4月の学科改編時に新たに掲げた「教育理念」が、岡山大学(千葉喬三学長)の「教育理念」の引き写しだったことが分かった。今年6月ごろ、学内からの指摘で発覚し、前橋工科大はホームページから削除するとともに江守学長らが岡山大を訪れて謝罪。現在、新しい「理念」作りを検討しているという。同学長は「近く学生に経緯を説明し、謝罪する」と言っている。
岡山大の教育理念は「自然と人間の共生を希求する」などの3項目。前橋工科大の教育理念は、この文末を「ですます調」に変え、順番を一部入れ替えただけだった。
同大によると、この教育理念の検討や承認は学内の委員会が行ったが、その中心的な役割を担った教員は06年度末で辞めており、詳しい経緯は分からないという。
(上記記事より)

■「群馬・前橋工科大、岡山大学の「教育理念」を学生便覧に無断引用」(FNNニュース)
※映像有り

■「前橋工科大が『教育理念』を拝借」(読売オンライン)

前橋工科大の「教育理念」は、岡山大の「自然と人間の共生を希求する」など3項目を順番を変え、ですます調にしただけだった。工学部の「育成のための教育理念」5項目もほぼそのまま使っていた。
(略)江守学長は「(理念作成で)他大学の例を参考にすることがあるが、作成者が忙しさから引用してしまったと認識している。学生に申し訳ない」と話した。岡山大総務課の菅原康宏課長は「同じ文言は適当ではない。(前橋工科大が)適切に対処すると考えている」としている。
(上記記事より)

前橋工科大学は、1997年に、前身である前橋市立工業短期大学が四年制になる形で開学した、若い大学。
その前橋工科大学が定めた「教育理念」が、実は岡山大学の引き写しだったという報道です。

■「大学総合案内」(前橋工科大学)

↑現在、前橋工科大学のサイトでは、「大学の目的」が閲覧できない状態になっています。

■「岡山大学の理念・目的・目標」(岡山大学)

↑一方、こちらが「引用元」となった岡山大学のサイト。

報道によると、両校の教育理念は、それぞれ以下の通りであったとのことです。

【岡山大学・教育理念】
・自然と人間の共生を希求する。
・多様な文化・価値観を尊重する。
・地域と世界の発展に寄与する。

【前橋工科大学・教育理念】
・自然と人間の共生を希求します。
・地域と世界の発展に寄与します。
・多様な文化・価値観を尊重します。

大学の教育理念というのは、普遍的な内容を盛り込んでいる例が多く、結果的に似たようなものに落ち着くことはあると思います。
また、他大学の様々な例を参考にしながら、議論を深め、自分達の理念をまとめ上げていくということも、普通に行われていると思います。
それは、別に悪いことでもなんでもありません。

ただ上記は、明らかにコピー・ペーストの結果でしょう。
工学部の「育成のための教育理念」5項目も、岡山大学のものをほぼそのまま使っていたとのことですから、偶然の一致というわけではなさそうです。

順番を入れ替え、「ですます調」に直すなどの処理を加えるあたりは、レポートでコピー・ペースト行為を行う際、ばれないようにと細工をする学生の発想そのもの。
内容以前に、研究者・教育者として、あまり感心できる行為ではなさそうです。

もしかすると作成にあたった方は、「教育理念」をあまり重要なものと考えていなかったのかもしれません。

また本来、教育理念やミッションをまとめる作業というのは、学内で「自分達はどんな教育をしたいのか」という議論を行う絶好のチャンスでもあるでしょう。
根本的なところから話をして、あれこれと意見をぶつけあい、学内の意識を一つにしていく作業というのは、こういった時くらいしかできません。
前身である短大の四年制化ということもあったと思いますが、あまりそうした議論を、大事だと考えなかったのかもしれません。

引き写していた内容そのものよりも、そういった大事なプロセスが踏まれなかったことの方が、大学や学生にとって、不幸なことなのではないかと個人的には思います。

「どうせ大学の教育理念なんて似たようなものだ」とか、「普段、こんな理念を意識することはない」とかいったご意見をお持ちの方も、大学関係者の中には、いらっしゃるかもしれません。
(受験生向けの「アドミッションポリシー」でも同様のご意見がありそうです)

ただ、やはり「自分達が決めたミッション」を、お仕着せでない「自分達の言葉」で語るということは、大事なことだとマイスターは思うのです。
マイスターは普段、多くの大学関係者の方々とお話をする機会を得ているのですが、おおっ……と心動かされるのはやはり、大学の理念や目的が語られたときです。
理念の内容もそうですが、そうやってなにがしかの高い理念を持ち、信念を持って教育にあたっているということに、感動させられるのかもしれません。マイスターに限らず、そういう部分に触発される方は、少なくないと思うのです。

そんな「信念のある学園」をつくるチャンスを、せっかくですからぜひ、活かしていただければと思います。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • 教育理念の上に学校があるのではなく、
    学校をつくったから、理念をつくる、またつくらされていると読めるのですが。
    高等教育も大競争時代ですから、「違い」を出すのに困っているんでしょうね。