マイスターです。
最近は大学の間で、入学後に特別な教育を施すことを謳った少人数制選抜コースの設置が流行っているようです。
海外への留学が組み込まれていたり、教員による少人数制のゼミなどが用意されていたりと、他の学生は参加できない教育体験がウリ。
大企業のエグゼクティブによる講義や、各種のインターンシップなど、豪華な内容で、大学の目玉としてPRする大学もあるようです。
地元を活性化させる人材を、地域を挙げて育成しようという試みも増えています。
(過去の関連記事)
■地元の紙産業を担う人材を大学院で育成 四国の産学連携事業
さて、大学が満を持して打ち出す豪華なプログラムの数々。
入学希望者が殺到……かと思いきや、意外に苦戦しているところもあるようです。
【今日の大学関連ニュース】
■「山梨大:地域産業リーダー養成枠、想定外の定員割れでがっかり /山梨」(毎日jp)
山梨大学(甲府市、貫井英明学長)が、地元の産業界を担う人材を育てようと、09年度から工学部に新設する「地域産業リーダー養成特別枠」の募集が10日、締め切られた。
ところが、枠を設けた2学科のうち電気電子システム工学科の定員2人に1人しか応募がなかった。推薦入試での定員割れは異例のこと。入試担当の吉岡正人・工学部教授は「想定外だった」と落胆を隠しきれず、「原因を探って、来年に向けて改善策を検討したい」と語った。
特別枠は、県内の高校の卒業生を対象に、同学科と機械システム工学科で各2人を募集した。企業経営者と交流を図る特別インターンシップや約1カ月の海外派遣などを予定している。
同大が事前に県内の約20高校で特別枠の説明会を開いた際には、教員や生徒から「海外派遣の費用負担はどうなるのか」「卒業後に県外の企業に就職できないのではないか」などの不安の声が上がっていたという。
海外派遣の費用については現在も検討中。こうした不確定要素があるために受験生から敬遠された可能性もあると同大はみている。
機械システム工学科には8人の応募があった。
(上記記事より)
山梨大学の取り組みに関する話題です。
同大では今回の入試から、工学部に「地域産業リーダー養成特別枠」を新設。
ねらいは、地元の産業界を担う人材の育成です。
■「工学部推薦入試(地域産業リーダー養成特別枠)の紹介」(山梨大学)
山梨大学は、「地域の中核,世界の人材」の理念を学士課程教育においても強力に推進するために、平成21年度から工学部に、将来山梨県産業界のリーダーとして活躍しようという強い意欲と資質を
持った学生を対象として、大学・山梨県・産業界が協力して地域産業リーダーを養成する特別枠を設けました。
平成21年度は、機械システム工学科及び電気電子システム工学科が、特別枠での教育プログラムを
スタートします。
なお、本特別枠の学生には奨学一時金を支給します。さらに、3年次に予定している海外派遣の機会を
提供することを計画中です。
(1)目的
山梨県の工業・経済が、地域の福祉と環境に配慮しつつ、将来にわたってさらなる発展をとげるためには、高度な研究・技術開発能力を持って知識基盤社会を支えるとともに、地域の文化、歴史、社
会構造、経済問題等を熟知した上で、世界全体を俯瞰的に見てリードできる人材を育てることが最大
の課題です。そのために、入学時から将来山梨県産業界のリーダーとして活躍しようという強い意欲
と資質を持つ学生を選抜し、大学・山梨県・産業界が協力した教育プログラムによって、山梨県の将
来を託しうる「地域の中核、世界の人材」を養成します。
(3)カリキュラム
専門科目、共通教育科目についてのカリキュラムは専攻学科の学生と一緒に履修し、人間力と専門
分野の問題発見・解決能力を磨きます。
さらに、リーダー養成特別教育プログラムとして、次のカリキュラムが用意されています。1)各年次において企業の現場から経営層まで交流することができる特別インターンシップを実施し
ます。
2)1,2年次では、特別演習「山梨の魅力を探る」、「リーダー力養成講座」において、山梨県産業界の経営層、各分野のスペシャリスト、卒業生を講師に招いた講義と演習を履修し、企画、交渉、異分野・異文化理解、コミュニケーション、プレゼンテーションのスキルを学びます。さらに,3年次に予定している海外派遣のための語学力を鍛えます。
3)3年次では、自発的教養科目の「企画力実践講座」において、1,2年次の成果を生かした企画立案と交渉を実践するとともに、短期の海外派遣の経験が行えるよう計画中です。
4)4年次では卒業論文の研究成果を地域に報告する会を開き、プレゼンテーション力を鍛えます.(上記ページ掲載のPDFより)
大学による説明を読む限り、なかなか充実したカリキュラムのようです。
地元産業人なども協力するリーダー力養成講座など、普通の大学生ではなかなか味わえない体験もできる様子。
実践的な学びができそうで、マイスターも、個人的に興味があります。
しかし、このカリキュラムを実施する機械システム工学科、および電気電子システム工学科のうち、電気電子システム工学科に1名しか応募がなく、定員割れを起こしているとのことなのです。
山梨大学では、ワイン人材育成で地域密着カリキュラムを展開する実績があるだけに、今回の結果はショックかも知れません。
(過去の関連記事)
■「山梨大学 ユニークなワイン人材育成事業」
この原因について、冒頭の記事では、海外派遣の費用負担や、卒業後の就職に関する不安要素が解消されていないためではないか、という大学側のコメントを紹介しています。
実際、「海外派遣の費用については現在も検討中」とあります。
就職についても、同大のサイトを見る限り、詳細は不明です。
プログラムを運営する側としては、なるべく地元の企業に就職して欲しいでしょう。
地元の産業界に協力をあおぐこともありますから、地元が手応えを感じてくれないと、プログラム自体の存続にも関わります。
しかし、あまり進路を制限してしまうと、募集に影響を与える可能性もあります。そのあたりを考え、大学側も敢えて、情報を明記しなかったのかも知れません。
ただ、出願する側にとっては費用も進路も、非常に大きな問題です。
こういった部分に対し、明確な情報が出ていないことで、出願に踏み切れなかった受験生だって、いないとは限りません。
せっかく充実したカリキュラムなのに、もったいないところです。
そして、情報が明確になっていたら受験生が大挙して訪れたかというと、それもわかりません。
こういった少人数対象コースは、様々な特別カリキュラムが盛り込まれているケースが多いと思いますが、それは裏を返せば、学生側に選択の自由が少ないということでもあります。
履修する授業も、授業後の時間の使い方も、夏休みの計画も、卒業後の進路も、なるべく大学入学後に自分で学びながら考えていきたい。これは、多くの学生の共通認識でしょう。
大学側が様々な想いをかけ、豪華で盛りだくさんなカリキュラムにすればするほど、逆に敬遠する向きもあるでしょう。
難しいところです。
ところで、迷うことなくこのプログラムのメリットを享受できる受験生が鋳るとしたら例えば、地元で家業を継ぐことが決まっている方などではないでしょうか。
今回、電気電子システム工学科は定員割れを起こしていますが、機械システム工学科の枠には8名の応募者があるとのこと。
この8人の方が、どんなご家庭の方で、どのような将来像を抱いているかを分析すると、次年度以降のプロモーション戦略に活かせるのではないか、という気もします。
もしかしたら、商工会議所やロータリークラブなどを経由して応募者を集めた方が学生が集まる、なんてこともあるかも知れませんよ。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。