サブプライム・ローン問題が大学に与えた影響

マイスターです。

サブプライム・ローン問題により、経済に様々な影響が出てきている……というのは、皆様もご存じの通りです。

ちなみに、サブプライム・ローン問題についてよくご存じでない方は、↓こちらにわかりやすい解説がありますので、よろしければどうぞ。

■「サブプライムローン危機とは①」
■「サブプライムローン問題②」

さてアメリカに端を発するこの金融不況により、大学も様々な形で影響を受けているわけです。

今回は、その辺りのニュースをご紹介していきたいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「金融危機で学生の就職に失速感 担当者ら当惑『先行きは不透明』」(中日新聞)

世界的な金融危機に伴い、日本でも経済情勢の悪化が鮮明化する中、売り手市場が続いていた学生の就職に影響が出そうな情勢になっている。県内の大学でも10月から3年生の就職活動が本格化、担当者や学生からは当惑の声も聞こえ始めている。
「厳しくなるのは間違いない。3年生には、『今の4年生とは状況が様変わりする』と言った」。福井工業大就職支援課の畑佳秀主任は、10月に開いた就職セミナーで学生に現状を伝えた。
畑主任は「志望者が多く景気の良かった自動車業界でさえ先行きが不透明となり、もはや追い風はない。毎年採用しているのに、ことしは控える中小企業も出てきた」と説明する。
福井労働局によると、大学や短大、高専などを対象に調査する就職内定率は、近年90%を超える高水準で推移してきた。「特に最近は売り手市場だったが、先行きは不透明感が高まっている」と分析する。
福井大就職支援室の青山伝治室長は「現段階での聞き取りでは採用を減らす話は聞かない」としながらも、「右肩上がりは今の4年生で最後」との見方。公務員志望者も増える傾向にあるという。
(上記記事より)

すぐにわかりやすい影響が出るのは、学生の就職でしょう。

毎年、常に安定した就職口があればいいのですが、実際にはそうもいきません。
企業は、経済が好調なときには活発に採用を行い、不況の時には採用を控えるものです。
好景気の時と不景気の時で、同じ大学の学生でも就職環境に大きな差が出るのは、経済の仕組み上、ある程度は避けられません。
ここしばらく景気が回復気味で、就職も売り手市場と言われていましたが、サブプライム・ローンによる金融不況の影響で、それが失速する可能性が高いです。

すでに、現・大学3年生の就職にも影響が現れているという話を聞きます。
特に金融業界は、計画を大幅に見直しているため、従来よりも採用計画の確定が遅れているとか。

そして企業が採用を控えているような時期には、企業で働く皆様の家計にも影響が出ているものです。
不況の時には企業は支出を減らす、つまり社員への給与やボーナスを減らしたり、リストラを行ったりします。
そうなってくると、家計にとって大きな支出である、学費の支払いが問題になってきます。

■「明治学院大:『緊急奨学金』 金融市場混乱でも学生守る」(毎日jp)

明治学院大(東京都港区)は23日、米低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題に伴う市場の混乱で保護者の収入が減り、学業継続が難しくなった学生向けに、緊急奨学金を出すと発表した。
対象の保護者は、経営破綻(はたん)した大和(やまと)生命保険の関係者や、金融機関の貸し渋りで経営が厳しい製造業関係者などを想定。奨学金は無利子で給付し、1人最大50万円で、収入減の額に応じて支給額を決める。原資は4000万円で過去最大級だという。
(上記記事より)

■「今般の金融危機に対する緊急奨学金の設置-サブプライム・ローン問題の影響により修学困難な学生を救済します-」(明治学院大学)

米国のサブプライム・ローン問題に端を発する、今般の金融危機状況に鑑み、明治学院大学では、保護者がその被害を受けたことにより学業の継続が困難になった学生に対し、緊急奨学金を設置して救済いたします。
対象は、本学学部学生で、その保護者が今般の金融危機による被害を受けたために今期学納金の納付が困難となり、今後あきらかに修学が不可能な状況にある者、あるいは同等の事情が認められる者となります。
当奨学金は最大、本年度秋学期の学納金と同額を給付することとし、大学と校友会が拠出する総額4000万円を原資とします。これにより、60名から70名の学生の救済が可能となる見込みです。
(上記記事より)

↑この明治学院大学のように、収入が減った家庭に対して、「緊急奨学金」を用意するケースも出てきています。

マイスターもかつて大学に勤めていたから実感があるのですが、経済的な理由で学業をあきらめる学生というのは、世間が思っている以上に多いです。
日本学生支援機構の奨学金だけでは不十分で、退学と同時に奨学金ストップの手続きも同時に行っていく学生が少なくないと思います。
こういった奨学金のシステムは、少しずつ全体を最適化していかなければ抜本的には解決しないと思いますが、この明治学院大学のように、緊急避難的な対応が求められる場合もあるでしょう。

ところで一般的に、大学が持っている奨学金の多くは、株式などの金融商品を運用することで捻出されていたりします。
明治学院がどうかは分かりませんが、大学の財政自体も、金融不況によって少なからず影響を受けているのではないか……と、ちょっと心配です。

実際、アメリカでは、↓こんな事態も起きているようです。

■「米金融危機、大学にも余波 =運用投信が引き出し制限=」(時事ドットコム)

米金融危機の余波が大学にも波及し始めた。大学の学費などを運用していた大手投信が、資金繰り難から換金制限を行ったためで、職員への給与支払いに影響が出るなど混乱が広がっている。
問題の投信は、米銀大手ワコビアが運営していたもので、全米約1000の大学から委託されていた総額93億ドル(約9800億円)の資金を運用していた。大学の中には、運転資金の半分を同投信で運用しているところもあったという。
しかし、ワコビアは先月29日、経営不安を背景に資金流出が加速し、連邦預金保険公社(FDIC)の仲介で銀行事業の売却先を模索するとともに、同投信からの引き出し制限を発表した。
資金繰りが逼迫(ひっぱく)する9月末に突然、換金制限を通告されて大学側は混乱。他の銀行から融資を求めるなど、資金繰りに奔走させられた。ボストン大学のように今後の資金繰りに万全を期すため、新規採用や建設計画の凍結を決めた大学もある。
各大学が今後、同様の事態を回避するため、投信の解約を進めれば、健全な投信まで資金繰り難に陥る可能性があるとみられ、信用不安に拍車を掛けそうだ。
(上記記事より)

大学の財務がぐらつけば、学生を支援するゆとりもなくなります。
日本とアメリカでは、金融商品の運用に対する大学財務の依存度は違うと思いますが、参考までに。

ちなみにアメリカでは、↓政府によってこんな政策が打ち出されているようです。

■「サブプライム問題の余波を受ける米国学生ローン市場」(野村資本市場研究所)

昨年来のサブプライム問題や金融市場混乱の余波は、米国学生ローン市場にも及んでいる。学生ローンを取扱う金融機関は、学生ローン債権を市場で売却することで融資資金を調達するが、学生ローン債権を担保とした証券化商品の組成額が急減し、資金調達が難しくなっているのである。
(略)事態の解決に向け、米国政府は2008年5月に2つの施策を発表した。第一に、FRBが5月2日、TAFの適格預金取扱機関への入札額の増額と、 TSLFオークションの担保の拡大を発表し、金融機関が学生ローン債権を担保に資金を調達できるようにした。第二に、5月7日に新たな法案「Ensuring Continued Access to Student Loans Act of 2008」が成立した。これにより、学生やその家族が連邦政府の学生ローンを利用しやすくなった。また、教育省長官の権限が強化され、連邦政府保証学生ローン債権を金融機関から政府資金で購入できるようになった他、「最後の貸し手(LLR)ローンプログラム」の実施条件も明らかになった。(上記記事より)

詳細はリンク元の記事をご覧ください。
もともとアメリカの金融商品が原因で起きた不況ですが、それに対する金融的な解決策の打ち出しも早いというのが、アメリカらしいところでしょうか。

学費のローンというのは、金融市場の中でもそれなりに大きな位置を占めるはず。その学費ローンへの信用が揺らげば、金融全体にも影響が出るでしょう。そんな考えがあっての施策だと思います。
金融システムへの信頼を守るというのは国家の最重要ミッションの一つですが、そんなところに、大学が絡んでいたりするわけです。

以上、日米のニュースをご紹介しましたが、他の国でも、学生の就職などにサブプライム・ローンの影響が出てきているようです。
これからしばらく、様々なところで注意が必要になりそうです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。