マイスターです。
ここしばらくは、AO入試、推薦入試の本番真っ最中です。
一般入試のときのように、全教職員が試験運営にかり出されることはあまりないので、大学関係者でも入試に直接関わらない限りは気づかないかも知れません。
こういった入試では、その大学が求める人材・入学後に活躍できそうな人材を、大学独自の方法で評価するのが目的。各大学とも、工夫を凝らした入試を用意しています。
ここ数年、話題になっているのは、東京工業大学の「第1類(理学部)特別入学資格試験」。
センター試験などは課されず、そのかわり大学が用意した数学の超難問4題を、5時間かけて解くという異色の入試です。
↓こちらで「想定問題」が公開されていますので、自信のある方はどうぞ。
■「第1類(理学部)特別入学資格試験」(東京工業大学)
「こういった問題に挑戦できる知的体力を備えた学生なら、東工大の教育に耐えられる。入学後に活躍し、優れたエンジニアや研究者になる可能性がある」ということでしょう。東工大らしい選抜方法だと思います。
通常、大学入試では、何科目かの学力が評価対象になるもの。
しかし東工大のように研究活動を重視する大学の場合、バランスの良さよりも、特定分野に対して高い能力(知的体力、発想力や知的好奇心、集中力等々)を持っていることが大事なこともあるわけです。
「何かひとつのことに対して夢中になってきた人」
「特定分野に関して高い能力を発揮する人」
……を選抜する入試方法は、研究大学には向いているように思います。
というわけで、今日はこんな大学入試をご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「科学五輪枠 筑波大で6人合格 『ノーベル賞受賞者育てる』」(東京新聞)
筑波大は二十三日、来年四月入学者の選考から導入した「国際科学オリンピック特別選抜」の合格者を発表した。生物学類五人と物理学類一人で、今年のノーベル賞受賞を決めた日本人科学者と同じ分野。大学は「将来の受賞者に育てたい」と意気込んでいる。
同選抜は高校生以下が出場できる数学、物理、化学、生物、情報の科学五輪で、過去三年間の日本代表や国内一次選考を通過していることなどが条件。生物学類に十人、物理学類に一人が出願し、計六人が書類選考と面接試験を突破した。
合格者には国際生物学五輪の日本代表二人が含まれ、いずれも物理と生物が大好き。学力も突出し、入学後は幅広く勉強し、専門分野を見極める意向を持っているという。
(上記記事より)
そんなわけで、筑波大学が実施している「国際科学オリンピック特別選抜」についての記事です。
↓こちらに、大学による募集要項(PDF)がありますので、ご興味のある方はどうぞ。
■「平成21年度国際科学オリンピック特別選抜:PDF」(筑波大学)
【出願要件】
■生物学類
過去3年間に国際生物学オリンピック日本代表として選抜された者又は国際生物学オリンピック日本委員会国内選考の第1次選考通過者
■数学類
過去3年間に国際数学オリンピックに日本代表として選抜された者又は日本数学オリンピック本選でAAランク(IMO日本代表選手候補)の者
■物理学類
過去3年間に国際物理オリンピックに日本代表として選抜された者又は「物理チャレンジの第2チャレンジ」の金賞,銀賞,銅賞,優良賞を受賞した者
■化学類
過去3年間に国際化学オリンピックに日本代表として選抜された者又は全国高校化学グランプリの1次選考通過者
■情報科学類
過去3年間に,日本情報オリンピック本選でAランクとなった者又は情報処理推進機構が主催する未踏ソフトウェア創造事業の未踏ユースに採択されたテーマの開発代表者
■情報メディア創成学類
過去3年間に,日本情報オリンピック本選でAランクとなった者又は情報処理推進機構が主催する未踏ソフトウェア創造事業の未踏ユースに採択されたテーマの開発代表者
【選抜方法等】
エントリーシートの内容に基づいて,15分程度の個別面接により行います。ただし,生物学類のみ書類審査による第1次選考を行います。
・合否判定に関して
明確な目標を持って学ぶ意欲や計画的に学ぶ意欲を重視し,志願する学類での学習に必要な適応性(学習能力,知識,意欲等)について,個別面接(15分程度)を行い,提出資料等の内容を含めて総合的に判定します。生物学類の第1次選考では,国際生物学オリンピック日本委員会国内選考の成績を重視します。
(上記PDFより)
科学オリンピックの出場者であれば、冒頭でご紹介した東工大の特別入学資格試験のように、特定分野の研究者として活躍できる人材を探すのにはぴったりです。
「ノーベル賞受賞者育てる」というのは、筑波大学の方針というよりも、記者の方が強調して取り上げた言葉なのではないかと思います。
でも確かに、これまで埋もれていた研究者のタマゴを集める中で、とんでもない逸材に出会うこともあるかもしれません。
ちなみに国際科学オリンピックの日本代表に選ばれる人数は、以下のように毎年、ごく少数です。
数学 6名
物理 5名
化学 4名
情報 4名
生物学 4名
(「科学オリンピックとは」(日本科学オリンピック推進委員会)より)
実際には、「国際科学オリンピック特別選抜」という名称ではありますが、日本代表ではなくとも国内選考で優れた成績をあげた人は選抜対象にするようですので、該当する方はお気を付け下さい。
そして、実はこの国際科学オリンピックを入試に利用している大学は、筑波大学だけではありません。
■「大学入試特典 ~平成21年度 科学オリンピック成績優秀者へのAO入試対応状況について~(平成20年8月現在)」(日本科学オリンピック推進委員会)
大阪大学、お茶の水女子大学、慶應義塾大学湘南藤澤キャンパス、首都大学東京、中央大学、東京女子大学、東邦大学、東洋大学、立命館大学、早稲田大学と、国公私立大学の自然科学系学科が入試に採り入れはじめているようです。
出願要件として課されているレベルは各大学で異なりますので、出願をお考えの方は、上記のページおよび大学のwebサイトでチェックしてみてください。
大学の皆様は、せっかくの研究者のタマゴですから、大事に育てていっていただければと思います。
AO入試などでもそうですが、こういった入試では、「特定分野を強く評価する」一方で、「現時点の能力には目をつぶる」部分もあると思います。数学力が突出していれば、英語の不出来は問わない、といったように。
それをわかって入学させたにもかかわらず、入学直後に英語のプレースメントテストなどを行い、「科学オリンピック入試で入学した学生は学力が低い!」なんて学内で問題にするケースがないことを祈ります。
冗談に聞こえるかも知れませんが、AO入試では、実際にこの手の議論が行われているのです。
選抜で「目をつぶった」部分がその後の学習に不可欠なのであれば、それをしっかり教育するのは大学の役割です。
入試での評価軸を決めたのも大学なら、受け入れたタマゴを育てる責任を持っているのも大学。
こうした特別入試では、教育を行う大学側にも覚悟が必要なのだということを、ご承知おきいただければと思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。