マイスターです。
首相が交代すると、「新内閣の顔ぶれ」が新聞などで報じられます。
その際、必ず掲載されているのが「出身大学」です。
閣僚の皆さんがどの大学の出身なのか、まったく気にならないと言ったら嘘になりますが、しかし考えてみれば別に大臣の仕事と出身大学は関係ありません。
むしろ、大学時代の専攻分野でも掲載してくれた方が、国民にとっては有用な気がします。「科学技術に明るい人材が多い内閣」とか、「国際関係学を専攻した人が1人もいない内閣」とか、参考になりそうな気がしませんか?
さて、今日は海外の話題を2つ、ご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「フランス:進まぬ大学改革 支配層輩出「グランゼコール」が厚い壁」(毎日jp)
同世代の2~3%のみが進むグランゼコール(高等専門教育機関)の出身者が社会の上層部を実質支配するフランスで、サルコジ大統領が大学改革を推進している。自治権強化と企業資本導入により一般大学を再生させ、グランゼコールとの格差是正を図る。ただ、グランゼコール卒業者は政財官界の要所を占め、強固な利益集団を形成しているうえ、改革への社会的な支持も弱い。格差是正は容易ではなさそうだ。
フランスでは、一般大学には主に中産層が入り、エリートは大学でなく、専門の予備コースに2年間通った後グランゼコールに進む。グランゼコールは200余あるがいずれも定員が数十~200人の難関だ。大学教育は学問的理論中心で企業との接点が薄いが、グランゼコールは実務を教える場で、企業の採用先はグランゼコール卒業者に集中する。
(略)仏政界は文系官僚を養成するグランゼコール・国立行政学院(ENA)出身者が主流を占める。シラク前大統領、ドビルパン前首相、ロワイヤル前大統領候補らがその例だ。サルコジ大統領は珍しく非ENA出身者で、パリ政治学院を中退し弁護士となった。大学改革を推進しやすい立場にあるが、周囲はENA卒業者が固めており、抜本改革には時間がかかりそうだ。パリ第1大のドレフュス教授(政治学)は「グランゼコールはエリート主義の象徴となっている一方、大衆は尊敬もしている。大学は改革できてもグランゼコール改革は容易ではない」と話す。
(上記記事より)
フランスの話題です。
記事にあるように、フランスには大学の他、「グランゼコール」と呼ばれる教育機関があります。
学術研究というよりは専門教育に重心を置いた学校で、入学するためには、かなりの難関を突破することが必要。正真正銘の、エリート養成機関です。
日本でも知名度が高いソルボンヌ大学(パリ第4大学)なども、フランス国内での評価は、こうしたグランゼコールに遠く及ばないのだとか。
政・財・官界も、大学よりグランゼコールの方と強く結びついているようです。
そんなフランスで、大学改革を行おうと考える、サルコジ大統領。大学を強化し、グランゼコールとの「格差」を是正していこうとしています。
しかしそれはつまり、社会における、グランゼコールの圧倒的な優位を崩すということでもあります。
それに対して、社会の中で指導的な地位を占めているグランゼコール出身者達が反発をするだろう、と予想されているわけです。
一度できあがったエリート生産のシステムを解体するのは、容易ではない、ということです。
そして、もう一本の記事はこちら。
【今日の大学関連ニュース】
■「国家人材の‘SKY偏重’深刻…政府DB登録大卒者の37%」(中央日報)
政府の国家人材データベース(DB)に登録された人のうち大卒者の36.9%はSKY大学(ソウル大・高麗大・延世大)出身であることが分かった。また10人に6人は首都圏出身で、嶺南(ヨンナム・慶尚道)圏が湖南(ホナム・全羅道)圏に比べ2倍以上多いなど、地域偏重が目立った。
国会行政安全委員会の金裕貞(キム・ユジョン)議員(民主党)は26日、こうした内容の「国家人材DB」分析結果を出した。DBに登録された人は今年8月末現在15万8992人で、うち大卒者は11万8591人(74.5%)。大学別にはソウル大(2万5953人)、高麗(コリョ)大(9374人)、延世(ヨンセ)大(8418人)が多く、計4万3745人となった。
(上記記事より)
韓国には、「国家人材DB」というデータベースがあるそうです。
「公共機関の機関長と役員、政府委員会委員、大学助教授以上または研究機関責任研究員級以上、上場法人役員と中小企業経営者、専門職、5級以上の国家公務員と4級以上の地方公務員、言論人と法人・協会・団体役員など」が登録されているとのこと。
政治家こそ含まれていないものの、行政や経済、学術、言論などで国を引っ張っていく指導者層を集めたデータベースのようですね。
(一体、どんな用途のために使われるのでしょうか……?)
そんなデータベースの登録者を調べたところ、大卒者の36.9%が「ソウル大・高麗大・延世大」という、いわゆる韓国のエリート大学の出身者だったということです。
この3大学に通うのは、国全体から見たらごくわずかな、限られた人数に過ぎません。
でも、社会のリーダー層のうち3割くらいは、それらの大学出身者が占めているということです。
おそらくこうした傾向は、フランスや韓国に限らず、多くの国で見られる現象ではないかと思います。
特定の1大学がエリートを生みだしている国もあれば、数校の大学がそれを担っている国もあるでしょう。
ちなみに日本はどうでしょうか。
朝日新聞社『2009年度版 大学ランキング』によると、国会議員の21,7%が東京大学の出身者だそうです。続いて早稲田大学12.8%、慶應義塾大学11.7%ということで、この3大学だけで45%程度を占めてしまいます。(2007年12月現在)
国家公務員 I 種の合格者で言うと、732人の合格者のうち、東京大学卒が229人。東大出身者だけで31.3%を占めてしまいます。
東京大学をはじめとする一部の大学が、国のエリートを養成する機関として機能している部分はあるでしょう。
こういった傾向は、それだけでは良いとも悪いとも言えません。
ある程度は、当然の部分もあるでしょう。
例えばフランスのグランゼコールは、そもそもが「社会の指導者層を育成するための機関」なのですから、そこの出身者がリーダー候補生として様々な場面で活躍していくのは、自然と言えば自然。
グランゼコールが目的通り正常に機能しているということですから、ある意味、正しいことです。
他の国でも、似たようなことは当てはまると思います。
また、たまたま特定の大学に偏ったのは「実力」の結果なのだ、ということで、優秀な人であればどの大学出身であろうと関係はないと考えることもできます。
(大学卒業後の人材登用用の仕組みが100%公平に機能していれば、という前提ですが)
ただ、弊害もあるでしょう。
どれだけ優秀な人がそろっていたとしても、同じ学校で、同じ教育を受けた人ばかりが集まれば、考え方は偏ります。社会を先導する層から多様な視点や考え方が失われてしまうと、社会のバランスが失われてしまいかねません。
(日本でも2世議員が増えているので、こうしたことがよく指摘されていますね)
また、冒頭の記事では、「企業の採用先はグランゼコール卒業者に集中する」という現象が指摘されています。このように、「特定の学校の出身者でなければ、それから先は上に上がれない」というところまで階層が固定化されてしまうと、社会は活性化しません。
これが行き過ぎてしまい、特定の学校の出身者だけでトップが固められてしまうようになると、無条件で後輩達が優遇されてしまう社会にもなりかねません。
そして強固な権益集団が一度できてしまうと、柔軟な改革が難しくなるということもあります。
こういったデメリットを解消するための工夫は大切です。
教育と社会の関係を考える上で、これは非常に難しいテーマです。
絶対の正解というのは、どうやらなさそうですから、その国の人達がどう考えるか次第かもしれません。
フランスの例のように、役割が固定化されたままなのを良しとせず、教育機関の活性化に乗り出す国もあるでしょう。逆に、より役割分担を明確にさせ、高度な教育を施そうと考える国があっても、おかしくはありません。
大学卒業後の人材登用の仕組みを変えるなどして、様々な能力を持った人材を発掘できるシステムを模索するという方向性もあります。
さて、日本はどういう道を歩むのでしょうか。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
フランスの場合、グランゼコールでもENA(フランス国立行政学院)の卒業生(通称エナルク)は政界・官界で強力な力を持つようです。
グランゼコールと一括りにするよりも、ENAによる支配といってもいいのかも知れません。