「難関法科大学院」進学コースを開設? 山梨学院大学法学部

マイスターです。

■平成20年新司法試験の結果が明らかに 各法科大学院の合格率は?

新司法試験に対応し、新しい法曹を育成する法科大学院。
しかし先日お伝えしたように、既に大学院によって、司法試験の合格率に大きな差が出てきています。
合格率の高い大学院は人気を集め、今後も優秀な学生を集めることが予想されますが、合格率が伸び悩む大学院は、受験生集めに苦戦することも考えられます。

法務省の当初の予定によれば、法科大学院の総定員数は最初「15~20校で4000人程度」。「司法試験合格者を年3000人に増やす」という方針と、「合格率7~8割」というのは、この前提に基づいたものです。
しかし実際には、法学部を持つ大学がこぞって法科大学院を設立。74校にまで増えました。その結果が現在のこの状況を作り出しています。

「法学部を持っているのだから、法科大学院がないと大学の沽券に関わる」
……という考えで法科大学院を設立した結果、行き詰まっている大学もあると思います。
今後、法科大学院を廃止する大学も出てくるでしょう。大学によって判断が分かれるところです。

さて、今日はこんな話題をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「山学大法学部が難関法科大学合格目標コース」(読売オンライン)

山梨学院大学は25日、来年4月から法学部に法科大学院進学に特化した「特進コース」を開設すると発表した。学生は学部授業とは別に特別プログラムを学習し、さらに学費も全額免除。東大や一橋、慶応などの難関法科大学院を目指す学生を養成する。
新司法試験を経て法曹人を輩出し、将来的には学部全体のレベルアップを図りたい考えだ。
講義は司法試験の有名講師を招き、少人数で行う。1、2年次で法科大学院入試に必要な法律知識の習得を終え、3、4年次で過去問演習や試験対策に取り組むという。
(略)同大は県内唯一の法科大学院を設置している。
(上記記事より)

そんなわけで、山梨学院大学が、「東大や一橋、慶応などの難関法科大学院」進学を目指すコースを、法学部内に開設すると発表しました。
これは、今までになかった動きです。

大学院レベルのプロフェッショナル・スクールが高度に役割分化したアメリカには、
「ハーバード・クラスの大学院に多くの学生を進学させる、リベラルアーツ・カレッジ」
のように、学部段階の教育に力を注ぐ大学があります。

学部のリベラルアーツの段階では、アイビー・リーグに負けない、というかむしろ上回るくらいの教育を行い、思考力や判断力、豊かな教養、リーダーシップなどを備えた優秀な学生を育てる。
そして、各分野の専門に特化する大学院段階の教育は、それぞれの分野に秀でている他の大規模大学の方が優れているから、そちらに任せる……というわけです。

法学部を持ちながら、他大学の難関法科大学院に学生を送り込むことを打ち出した山梨学院大学の発表には、そんなアメリカ式の大学のあり方を思い起こさせるものがあります。

というかそもそも、日本の法科大学院の構想自体、元はこのような想定のシステムだったのではないかとマイスターは思います。
色々な大学で様々な分野の学習を積んだ学生が、厳選されたいくつかの法科大学院に集って法曹を目指す、というイメージです。
それが、どこもかしこも、学部から大学院まで自前で学生を育てるという発想にこだわったから、今のような状態になってしまったのではないでしょうか。

今後、法学部を持ちながら法科大学院を持っていない大学には、この山梨学院大学に倣った進学コースが増えてくるのではないかと想像します。

もっと言えば、法学部以外の学生にこそ、「法科大学院進学コース」という選択肢があるといいのではないかと思ったりします。

例えば最近では、危機管理やリスク・マネジメントを学ぶ学部などが増えています。そういった内容を学んだ学生が法科大学院に進学したら、学部で学んだことを法律という形で活かすことができます。
危機管理の知識を持ち、法律にも通じた弁護士になれるかもしれません。

理工系学部の学生であれば、特許などの知的財産権に強い法曹になれるかもしれません。
商学部や経済学部出身の学生なら、企業活動を法的にバックアップできる法律家になれるかも知れません。
このような学生達のために、共通課程のような位置づけで、「法科大学院進学課程」の科目を置く大学が合っても良さそうです。
そもそも、法科大学院制度の狙いは、そのような人材を育てることにあったのですから。

ただ記事にもありますが、今回紹介されている山梨学院大学は、実は自前の法科大学院も、持っているのですよね。
優秀な学部生には、自分のところの大学院に進学してもらって、司法試験の合格率を上げたいと考えるのが普通。それを、敢えて外部に送り出すというのですから、そこはさすがに、ちょっと驚きです。
このニュースを見て、「山梨学院大学は、自前の法科大学院を廃止するつもりなのではないか……」と勘ぐる向きもあるでしょう。

学部は学部、大学院は大学院というわけで完全に切り離して考え、それぞれにできるベストを考えた結果なのだとしたら、大胆で、とても興味深いです。
あるいは、これまたアメリカのように、同じメンバーが学部から大学院にそのまま進学するのを嫌い、敢えて人員の入れ替えを行おうと考えたのであれば、意味のあることです。

実際には、どのような議論の末にこのような方針にたどり着いたのか、気になります。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。