地元の紙産業を担う人材を大学院で育成 四国の産学連携事業

マイスターです。

■山梨大学 ユニークなワイン人材育成事業

↑先日、山梨大学が地元を中心に展開している、ワイン人材育成事業をご紹介しました。

地方の国立大学では、その地域の特徴的な課題解決に取り組んだり、地元の産業活性化を学術面から支えたりするユニークな教育・研究が行われていることが少なくありません。
山梨大学のケースは、その典型的な例です。

今日も、地元の産業と密接に結びついた取り組みをご紹介したいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「紙産業担い手大学院で育成」(読売オンライン)

愛媛大学は、全国屈指の紙産業集積地である四国の紙産業の担い手を養成する全国初の紙産業大学院修士コースを2010年4月に開設する。経済産業省の「産学連携人材育成事業」の採択を受け、地元の製紙企業や、松山、香川、高知の3大学などから講師を迎え、業界で中核的な人材となり得る若手育成を目指す。
平地の少ない四国では、江戸時代から紙の原料となるコウゾ、ミツマタの栽培が盛んで、和紙の産地として知られた。明治以降、瀬戸内を中心に近代的な製紙業が発展した。
2006年工業統計によると、四国にはパルプ製造業や伝統的和紙製造業など紙関係の435社があり、製造品出荷額は8402億円。そのうち、四国中央市は4810億円を占め、全国一の紙産業集積地となっている。
業界では、大量退職する団塊世代からの技術継承や海外需要に対応した新製品開発が可能な人材確保が課題で、同市や四国中央商工会議所は愛媛大に対し、紙産業に特化した教育課程の設置を要望。同大は、事業委託料として3年間で数千万円を受け取ることができる経産省の制度を活用し、大学院に専門コースを設けることにした。
(上記記事より)

四国中央市や四国中央商工会議所の要望に大学側が応える形で設立される、紙産業の大学院です。

愛媛大学を中心に、香川大学、高知大学、松山大学といった四国の大学が連携。四国中央商工会議所などの地元産業ともつながり、地域をあげて、紙産業の専門家を育てようという試みです。

記事にもあるように、経済産業省が進める産学連携事業の採択を受けて始まった取り組みです。

■「平成20年度産学連携人材育成事業(産学人材育成パートナーシップ等プログラム開発・実証事業)の採択について ~四国からは1プロジェクトが採択される~」(経済産業省 四国経済産業局)

↑詳細はこちらに記載されています。
四国では唯一の採択事例ということで、地元の期待も高いのでしょう。

地元が総力を挙げてこういった取り組みを行うということは、逆に言えば現在は、紙産業を支える人材の育成に悩んでいるということなのかな、と想像します。
後継者不足や市場の変化によって、地元の産業が衰退していくということはしばしばありますが、四国の紙産業関係者にも、そんな危機感があるのかもしれません。

ちなみに、この大学院ではどのようなことを学ぶのでしょうか。
↓こちらの記事に、科目名がいくつか紹介されていました。

同コースでは、技術・技能の継承力▽新しい紙機能と紙市場の開発力▽マネジメント力-の修得が目標。紙産業原論、市場価値創造論、和紙製造論、インターンシップ-など31単位の科目が予定されている。
「愛媛大学、紙産業の大学院修士コース創設へ」(MSN産経ニュース)記事より)

新設するコースは、愛媛大が管理法人となり、四国中央商工会議所のほか、松山、香川、高知の各大学とで共同事業体を設立。企業や4大学の研究者から13人の講師を募る。
08、09年度中にカリキュラム策定や教材開発などを進め、10年度から年間6人の院生を募集する。1年目は紙産業原論や、紙産業技術史論などの座学を中心とし、2年目に企業や研究施設での現地実習を行って、即戦力となる人材を育てる。
「紙産業担い手大学院で育成」(読売オンライン)記事より)

前述の各大学から計13名の講師が派遣され、経営・マネジメントに関する授業や、紙産業・紙市場に関する授業、さらに製造に関する授業やインターンシップなどを行うようです。
「即戦力となる人材を育てる」とありますが、この場合の即戦力というのは、経営や市場開発、生産管理などの場でリーダーとなれる人材のようなイメージでしょうか。

初年度の募集定員は6名。
この6名にかかる期待は大きいと思います。

学部を卒業したばかりの学生の他、地元の製紙業や、公的機関などから幹部候補生が集まるような想定なのかなと思います。
いずれにしても、集まった皆さんは地元の紙産業を支える人材になるのでしょうから、学んだ内容と同じくらい、大学院でできる人と人とのネットワークも重要になってくると思います。

冒頭の記事には、

事業委託料として3年間で数千万円を受け取ることができる経産省の制度を活用し、大学院に専門コースを設けることにした。

とあります。
この3年間が過ぎた後、この教育体制を存続させられるかどうかが大きなポイントでしょう。
寄付講座のような形など、地元の産業界が大学を支える仕組みをつくることが必要になるのではないでしょうか。

今後、特に地方の国立大学においては、このような形での人材育成事業が重要になってくると思います。
大学が産業振興のネットワークの中心として機能し、産業界が大学を支える、そんな形が、全国各地でできあがれば、地域産業も大学も、元気になるかも知れません。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。