平成20年新司法試験の結果が明らかに 各法科大学院の合格率は?

マイスターです。

法務省は毎年、法科大学院ごとの司法試験受験者、および合格者の人数を公表しています。

従来の司法試験のあり方を見直し、実践的な教育によって優れた法曹を養成するためにつくられた法科大学院制度ですが、大学院修了後、やはり新司法試験に合格する必要はあります。
したがって、司法試験の合格者を多く出している法科大学院には学生が集まるでしょうし、そうでない大学院は人気を落としていくわけです。

↓以前の記事でもご紹介しました。

(過去の関連記事)
■受験者減 揺れる法科大学院

さて先日、平成20年度新司法試験の合格結果が発表されました。
色々な数字が今年も、注目を集めているようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「新司法試験、合格率33% 3校では合格者ゼロ」(Asahi.com)

法務省は11日、法科大学院(ロースクール)修了者を対象とした08年の「新司法試験」の結果を発表した。3回目の今年は、74校の6261人が受験し、2065人が合格。合格率は33%で前年の40.2%を下回り、2回連続して下がった。3校では合格者がゼロ。法務省が設定した合格者数の目安(2500~2100人)も下回った。
「法曹の質の低下」に対する懸念が相次ぐなか、10年までに合格者を毎年3千人に増やす政府の計画をめぐる議論にも影響を与えそうだ。
大学の法学部で学んだ経験がない人向けの「未修者コース」(3年制)の合格率は前年の32.4%から約10ポイント下がり、22.5%。「既修者コース」(2年制)の44.3%との差が広がり、社会人ら多様な人材を受け入れるという当初の理念から離れていく形になった。
(上記記事より)

■「司法試験合格ゼロ3校に 合格率も33%にダウン」(MSN産経ニュース)

大学院別の合格者数は東大が200人でトップ。中大(196人)、慶大(165人)、早大(130人)、京大(100人)と続いたが、愛知学院大、信州大、姫路独協大の3校は合格者がいなかった。昨年は合格者なしの法科大学院はなかった。
合格者数の目安は、これまで2回の試験で下限を下回ったことがなかった上、合格者ゼロの法科大学院が複数校にのぼるなど、一部の法科大学院の教育が、法曹界の求めるレベルに達していないことを示した。
法曹関係者は「都市部や名門大学の法科大学院に優秀な生徒も教員も集中している。合格率の低い学校の中には、生徒数の減少で大学経営が先細っているため、授業料目当てに設置したとしか思えない法科大学院すらある」と指摘する。
保岡興治法相はすでに、司法試験の合格実績の低い法科大学院の統廃合を進めるべきだという考えを示しているほか、中教審の法科大学院特別委員会も質の高い教員確保が困難な学校の統廃合の促進を検討するよう求める改革案を提示。改革を求める声は高まっており、今回の結果によって論議に拍車がかかりそうだ。
2年コースと3年コースの合格率の差が開いたことも深刻な問題だ。法学部以外を卒業した社会人を、社会経験を生かせる法律家に養成することが法科大学院制度の大きな目的の1つだが、3年コースの低迷ぶりで、社会人の司法試験離れが進むことも懸念される。

(上記記事より)

各紙とも、合格率の低迷をあげ、法学既修者と法学未修者との合格率の差が開き、様々な社会経験を持った人材を広く集めて法曹に育てるという当初の理念が揺らぎ始めていることを、指摘しています。

また合格者が少ない、あるいはゼロの大学院があることから、「一部の法科大学院の教育が、法曹界の求めるレベルに達していない」と、厳しく評価。
法科大学院の教育レベルに疑問を投げかけています

各紙とも、合格者数を大きく取り上げていますが、法曹を目指す方にとって気になるのはむしろ「合格率」ではないでしょうか。
特に社会人の方には、職を辞して大学院に通う方もいることと思います。どの大学院に入れば法曹になれる可能性が高まるのか、関心を持っておられることと思います。

では、実際の合格者率はどのようになっているのでしょうか。
今年は、

■平成17年度に法科大学院を修了した法学既修者
■平成18年度に法科大学院を修了した法学既修者
■平成18年度に法科大学院を修了した法学未修者
■平成19年度に法科大学院を修了した法学既修者
■平成19年度に法科大学院を修了した法学未修者

の5パターンに分けて、データが公開されています。

■「平成20年新司法試験の結果について」(法務省)

そこで上記の法務省の公表データを元に、この5パターンそれぞれについて、平成20年度司法試験合格率を計算してみました。

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↑クリックで拡大します。

5パターンの平均で、合格率が高い大学院から順に並べています。

見てみると、74校ある法科大学院のうち、平均値を上回る合格率を出している法科大学院は、わずか19校しかありません。

MSN産経ニュースの記事で、「都市部や名門大学の法科大学院に優秀な生徒も教員も集中している」という法曹関係者のコメントが取り上げられていますが、一部の法科大学院に合格実績が集中しているのは確かのようです。

ちなみにオレンジ色のマスは、全体の合格率平均を上回っている部分。ブルーのマスは逆に、平均を下回っている部分です。

それぞれの年度の修了生の合格率を見ても、ほとんどで平均を上回っているところと、そうでないところにはっきりわかれているようです。各大学院の評価が、そろそろ固定化されてくる頃かと思います。
今後、毎年のように高い合格率を出している大学院に学生は集中し、毎年、平均を下回っている大学院は敬遠されてくるでしょう。

さらに、平成17年に法科大学院を修了した方の合格率がゼロパーセント、という例が少なからず存在します。ここは、大きなポイントです。

というのも現在の新しい司法試験には、「法科大学院修了後、5年以内に3回」という受験回数制限が存在するのです。この間に合格できないと、司法試験は受験できません。

実際には、再度受験する方法もあるので「二度と受けられない」わけではありません。しかしかなりの回り道になるため、そこまでして法曹を目指そうという方はかなり少ないでしょう。

■「新司法試験Q&A 図解:『5年間に3回』の制限を超えた場合には,受験は認められないのですか?」(法務省)

法科大学院の修了生に与えられる学位「法務博士(専門職)」は持っていても、法曹ではないということで、俗にこういった方を「三振博士」と呼ぶそうです。
法科大学院の制度がスタートするときから、この「三振博士」が出ることは予想されていたのですが、一部の大学院で、それがいよいよ現実味を帯びてきました。

法曹になれなかったとしても、法科大学院で学んだ法律知識を活かす場は社会にはたくさんあると思いますが、「どうしても法曹になってやる!」と決意して法科大学院に通った方にとっては、三振はショックでしょう。
今後、そんなニュースが出てくれば、いっそう受験生は合格率の高い大学院に流れるのではないかと思います。

ここしばらくで、法科大学院を廃止する大学も、増えてくるのではないかと思います。
競争と淘汰によって法科大学院全体の定員が減り、もともと法務省が想定していたような合格率に近づいていくというわけです。

すでにその動きはあります。

■「法科大学院:司法試験の合格率低迷、統廃合も検討…法相」(毎日jp)

11日に合格発表のあった3回目の新司法試験の合格率が33%と低迷したことについて、保岡興治法相は12日の閣議後会見で「法科大学院生を大切に考え、統廃合を進めることも考えなければならない状況にあると思う」と述べ、法科大学院の定員見直しが必要との考えを示した。
保岡法相は「数年にわたって合格者が出ない大学院は、教授陣の体制など構造的な問題を抱えているかもしれない。単に合格者数に着目するのでなく、法科大学院の質の向上をとらえた努力が必要」と話した。
(上記記事より)

この通り、法務大臣が法科大学院の統廃合について言及。

大学側からも、そういった動きを危惧する声が出ているようです。

■「新司法試験 低合格率 大学院側、統廃合を警戒」(東京新聞)

約3割にまで合格率が落ち込んだ新司法試験。11日の合格発表を受け、法科大学院関係者には「合格率の低い大学院には退場を迫るのか」と統廃合を警戒する声が広がった。2010年に司法試験合格者を年3000人に増やす政府方針の実現が危ぶまれるとの見方も。少数精鋭で合格率アップを目指し、既に定員削減に踏み切った法科大学院もある。 
法曹資格を得られない法曹志望者が増え続ける中、関東学院大法科大学院は本年度から法学部卒業者以外の人向けの未修者コースに絞り、定員を三十人に半減した。同大学は今回は四十二人が受験し、合格者は四人。松原哲研究科長は「こんなに合格が少ないとはショック。国立私立を問わず、統廃合を進める一歩にされるのでは」と不安を漏らす。
十六人が受験し、合格者ゼロの愛知学院大法科大学院の芹田健太郎研究科長は「カリキュラムや教育内容を改善する。即、統廃合を決める議論は地方切り捨てにつながりかねない」と懸念を示した。
(上記記事より)

しかし一方で、今回の合格者発表の前に行われた、法科大学院へのアンケートでは、↓こんな結果も出てきます。

■「法科大学院:4割が「定員削減必要」 司法試験合格率低く」(毎日jp)

全国の法科大学院74校の4割が、現在の総定員約5800人の削減が必要と考えていることが、毎日新聞のアンケートで分かった。目標の合格率(8~7割)を大幅に下回り、法曹資格を手にできない志望者が増えているためで、既に3校が定員の削減を決め、5校が定数減を検討している。地方の法科大学院には「首都圏への偏重を解消すべきだ」との意見が多く、首都圏に乱立する法科大学院を軸に再編論議も起きそうだ。
アンケートは3回目の新司法試験合格発表となる11日を前に、法科大学院全74校を対象に8月下旬~9月上旬に行い、55校(74%)が回答した。
総定員について「整理(削減)が必要」と回答した法科大学院は22校(40%)。「必要ない」が25校(45%)でほぼ同じ割合となった。無回答か「どちらとも言えない」は8校あった。
「整理が必要」と回答した大学院には、都市部に集中した大学院の定数を減らすべきだとの声が多く、「首都圏一極集中の配置は避けるべきだ」(鹿児島大)、「大規模な法科大学院の定数を削減し、入学者を地方に分散させるのが良い」(久留米大)など、偏在の解消を求める意見が目立った。
関東学院大が法科大学院の定員を今年度、30人削減した。来年度は福岡大が20人、姫路独協大が10人削減する。
(上記記事より)

廃止したくないと思いつつも、実際には定員の削減や、廃止を現実的に検討し始めている大学院が少なからずあるのではないでしょうか。

当初の予定によれば、法科大学院の総定員数は最初「15~20校で4000人程度」。それで、「司法試験合格者を年3000人に増やす」という方針と、「合格率7~8割」が達成できるはずでした。
しかし実際には、法学部を持つ大学がこぞって法科大学院を設立。74校にまで増えました。その結果が現在のこの状況を作り出しています。

個人的には、まだしばらくはこうした淘汰が続きそうな気がします。
実績を出せない大学院は、判断が迫られるときです。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。