マイスターです。
大学キャンパスは、<教員、職員、学生>の三者が成立させている空間です。
これらのうち、どれか一つが欠けても大学は機能停止します。
逆にこの三者がうまく関わり合えば、大学は活性化します。
しかしこれまでは、世間の感覚としては大学の主役は「教員と学生」であり、職員にはあまりスポットがあたっていなかったように思います。
職員は、教員が決めたことを実行するだけの部隊だとか、雑務を担当する役割だとか、そういった意識が大学内にあったことは否めません。
結果、日本の中で一流と呼ばれる大学であっても、職員組織の改革や、職員一人一人のキャリアの高度専門化を十分に進めていると言える大学は、あまりありませんでした。
国立大学や公立大学の場合は、さらに公務員であるという制約も加わり、長い間、大学独自の採用や、戦略的な配属・キャリア構築が難しい状況にありました。
しかし国立大学の法人化や、18歳人口の減少、国際的な人材開発競争の激化などに伴い、その状況は徐々に変わりつつあります。
大学職員を中心とした学会、「大学行政管理学会」が設立されたほか、高度な知識とスキルを備え、大学の管理行政において活躍するアメリカ式の「大学アドミニストレーター」のあり方に注目が集まり、その養成のための大学院も開設されています。
広い視野と知識・スキルを持ち、大学の戦略に関わったり、大学の現場を活性化させたりする役割が、期待されているのです。「事務職員」という呼び名は今後、実態に合わなくなってくるでしょう。
そんな中、大学職員に対する学生達の目も、徐々に変わってきているようです。
【今日の大学関連ニュース】
■「東大、阪大生、末は博士か『職員』か 就職は母校の大学が人気」(MSN産経ニュース)
国立大学の職員採用は、平成16年度の大学法人化に伴い、国家公務員試験から全国を7つのブロックに分けて統一試験を行う方式に変更。さらに、それぞれの大学が独自試験を行うことも可能になった。
この結果、求人情報サービスのエン・ジャパンが、来年卒業する学生を対象に調査した人気企業ランキング調査でも、国立大学法人グループは前年の303位から82位に急浮上した。
東京大学では、これまで以上に企画運営能力の高いスタッフを育成する目的で、17年度に大学独自の採用試験を導入。この結果、大学院修了者も含めて17年度4人▽18年度15人▽19年度5人の東大出身者が、職員として採用された。特に18年度は独自試験による採用者33人の半分近くを東大出身者が占めた。
統一試験組を合わせれば、3年間だけで27人が母校に就職。現在働いている職員のうち、平成15年度以前の母校出身者計3人に比べて急増している。
(略)大学職員人気は、独自採用を行っていない他大学にも徐々に広がっている。大阪大学の人事担当者は「統計をとっていないが、感触として阪大卒業者の阪大就職は確実に増えている」と話す。九州大学でも、平成20年度に採用した職員に占める母校出身者の割合は30%に達した。
(上記記事より)
東大職員になる東大生が急増しているというニュースは、2006年10月13日の読売新聞に掲載された「教育ルネサンス」で取り上げられ、業界で話題になりました。
■「教育ルネサンス
:東大解剖(13) 就職先は『母校の職員』」(読売オンライン)
腰が重い組織の象徴のように思われがちな東京大学ですが、研究組織に関して言えば、実際にはそうでもありません。先端的な取り組みをいち早く行うことが多く、「やっぱりすごい」と思わせる大胆さも持っています。
それに加えて、ここ数年は、大学改革についても意欲的に取り組んでいます。
民間企業から次々と人材をスカウトしたり、広報機能を強化したり。財務強化のために基金を設立し、寄付を募ったり。ずっと存在していなかった、全学的な同窓会組織の整備に乗り出してもいます。
個々の教員が活躍するのはもちろんですが、それを支える「組織」を戦略的に強化し、大学の総合力を世界レベルまで持って行こうという意識。世界各国の大学と競争しなければならない、という危機感もあるのかもしれません。
実際、他の有名大学が旧来の方針を変えない中、国立大学でいち早く独自採用を始めたのも東大でした。
「東大だから優秀な学生が集まる」という部分もないとは言えませんが、自ら戦略的に人材を確保しキャリアを積ませるという点で、東大が他の国立大学より一歩先に行動したという点に注目したいところです。
既得権益に慢心するどころか、むしろ他のどの国立大学よりもどん欲でした。
そんな東大がブームを作ったのかどうかはわかりませんが、冒頭の記事によれば、他の国立大学でも母校の職員を目指す方が増えてきているとのこと。
九州大学でも、平成20年度に採用した職員に占める母校出身者の割合は30%に達した。
(冒頭記事より)
……とありますから、かなりのものです。
■「国立大学法人グループ」(リクナビ2009)
↑既に採用は終了しましたが、こちらはリクナビに掲載された「国立大学法人グループ」の採用情報。
全国に存在する国立大学法人の他、各種の研究所なども多く、変わったところでは、おなじみセンター試験を取り仕切る「大学入試センター」もあります。
これらを、自分の「職場候補」として眺めるというのは、なかなか新鮮でしょう。
冒頭の記事で、以下のようなコメントが紹介されています。
辰野裕一・東大理事は「法人化された国公立大学は、民間企業と公的機関のちょうど間に位置する。法人化により自由度が増した大学の前には、大きなビジネスチャンスが広がっている。公務員の安定性をもちながら、変化に富む職場として、新卒者にとって魅力が増しているのだろう」と分析。「研究をはじめ、大学の実情を把握しているので、アカデミックスタッフとして活躍してくれるだろう」と期待をかける。
(冒頭記事より)
昨今の学生さんは、安定した職場を求める傾向にあると聞きます。しかし同時に、自分のキャリアアップについても強く関心を持っていることと思います。
そんな中で、確かに大学というのは、安定志向とチャレンジ精神の両方を満たす職場と言えるのかも知れません。
この動き、他大学にもひろがって欲しいです。
大学の教職員は、就職先の選び方やキャリアの考え方について、学生に色々と意見を伝え、考えさせているはず。その大学が、母校の卒業生達をどのように活かし、どのようにスタッフとして育てていくのか、興味があります。
ところで東大には、大学職員を意識した大学院があります。
■「東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策コース」(東京大学)
就活生の皆さんは、自らのキャリアアップのことを意識してか、「御社は人材育成に関して、どのような仕組みや制度を整備しておられますか?」という質問をよくされます。
学内にこのような大学院を持っているというのは、もしかすると、キャリアアップと安定志向、そして学術活動にも関心を持っている学生の皆さんにとって、大きなメリットとして認識されるかも知れません。
学術活動の面でも様々な面で教員をサポートできる、高度専門職としてのアカデミックスタッフを目指して、東大で働こうと考える人もそのうち出てくるのかな、と思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。