マイスターです。
おぉ、と思う記述を、ニュースの中で見つけましたので、ご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「<微聞積聞>一線研究者を呼ぶ工夫」(中日新聞)
世界トップレベル国際研究拠点の一つ「数物連携宇宙研究機構(IPMU)」が発足して十カ月。どのように一流の研究者を集めているのか。宇宙の謎が解けるのか。自らも世界的な物理学者の村山斉機構長(44)に聞いた。
-ゼロからの機構づくりですが滑り出しはどうですか。
機構の発足前に研究者募集の電子メールをばらまきました。メールは世界中を駆け巡り「二十通も来た」と文句を言う人も。約六百人の応募のうち四百人以上が外国人。秋には専任研究者が四十一人になり、うち二十二人が海外から。最初の印象づけは成功した。既に着任した人も学術賞や学会賞を次々に受けるなど成果を挙げています。
-海外の一線研究者を呼ぶ工夫は。
日本に埋もれると心配する人も多いので、一年のうち最低一カ月は海外に行くというルールを設けました。海外の研究所に滞在して自分を売る。機構の名を売ることになり、国際的な人のつながりも保てます。
-給料もトップ級とか。
米のトップ級大学の平均給与は東大の倍以上。優秀な研究者を採るには同等の待遇が必要です。大学のウェブサイトには共済や住宅、医療費などを説明する英文ページがない。自分で英訳して“裏サイト”を作りました。家探しや家族の職探しの支援など給料以外の条件も重要です。
(上記記事より)
数物連携宇宙研究機構(IPMU)は、文部科学省の「世界トップレベル国際研究拠点形成促進プログラム」に採択されて平成19年度から発足した、研究機関。
「高いレベルの研究者を中核とした世界トップレベルの研究拠点の形成を目指す構想に対し集中的な支援を行い、システム改革の導入等の自主的な取組を促すことにより、研究水準の一層の向上を図るとともに、世界第一線の研究者が是非そこで研究したいとして集まってくるような、優れた研究環境と極めて高い研究水準を誇る『目に見える拠点』の形成を目指」すと、同プログラムのwebサイトにはあります。
このプログラムに採択された研究機関は全国でも5箇所しかなく、IPMUはそのひとつ。
相当な期待がかかったプロジェクトです。
そんな国を挙げての取り組みでまず求められるのは……そう、優秀な人材です。
予算や施設はあっても、優秀な研究者がそろっていなければ、研究成果は生まれませんよね。
そこでIPMUの村山斉機構長が「一線研究者を呼ぶ工夫」としてどんなことを実践したかを、冒頭の記事で語っているのです。
で、給与や待遇の設定であるとか、一定期間海外に滞在する仕組みだとかいった取り組みはもちろんなのですが、さらに、それらをメールやwebサイトでPRした、という点があげられているのです。
興味深いです。
というわけでさっそく、どれどれ……と見てみました。
↓こちらが、IPMUのwebサイトです。
ぱっと見は普通の研究機関のwebサイト……のように思えますが、よく見てみると、おや、と思う部分があります。
それは、サイト左隅の、ナビゲーション部分。
# 目的
# 機構案内
* 組織
* 研究者
* 事務職職員
# Activities
* Seminars & Conferences
* Publications
* Press Release
* IPMU News Letters
* Public Events
# 訪問者のために
* ビザ
* IPMUへの交通手段
* 両替
* 宿泊
* 旅費の精算
* 食事
* 移動手段
* 観光
# 職員のために
(access limited)
* 契約開始手続き
* 住居
* 給与
* 勤務時間と休日
* 義務
* 税金
* 健康保険
* 年金
* 銀行口座
* クレジットカード
* 出張手続
* 研究費
* 物品購入
* コンピューター
* 図書館
# 柏での生活
* 日本語
* 学校
* 病院
* 電話
* 運転
# Job Opportunities
* Scientific Staffs
* Administrative Staffs
(「数物連携宇宙研究機構(IPMU)」webサイトのナビゲーション部分(2008.8.11現在)を転載。強調部分はマイスターによる)
研究者のリクルーティングに直結する情報が、サイトのかなりを占めています。
「職員のために」の部分は、アクセスしようとするとパスワードを求められます。内部の関係者用コンテンツかなとも思えますが、それならば「契約開始手続き」や「給与」なんて項目をわざわざweb上にアップする必要はありません。
冒頭の記事で村山機構長が語っている、「裏サイト」とはおそらく、これのことでしょう。IPMUに興味を示した研究者には、メールなどで、アクセスのためのパスワードなどを知らせているのだと思います。
■「柏での生活」(IPMU)
↑こちらのコンテンツも、親切に作られています。
外国から、家族を連れてIPMUに移ってくる研究者のことを考え、外国人が不安に思う要素についての情報を掲載。
↓例えば、こんな感じです。
【日本語】
50万の中国人、5万人のアメリカ人が日本に居住していることを考えると、日本に住むことはさほど難しいことではないです。日本人は一般的に外国人に対して寛容かつ友好的です。
IPMUは、新規で着任した外国人研究者に合計40時間、1日2時間の日本語入門クラス集中コースを無料で提供しています。日本で生活する上で最低限必要な日常会話の習得ができます。
コース修了後、キャンパス内の日本語教室の上級クラスに無料で(テキスト代は有料)参加することもできます。
東京都内にでかけるとき、鉄道には英語の案内板があるので心配はいりません。ほとんどのレストランにはメニューのプラスティック製の見本がありますので、それを指差せば注文できます。
役所での外国人登録、銀行口座開設、賃貸契約のような難しい手続の際にはできるだけ英語のできる者が同行できるように取り計らいます。
【学校】
日本では、6歳から12歳までの小学校と12歳から15歳までの中学校を合わせて15歳までが義務教育です。ほとんど100%の子供たちがその後3年間の高校に進みます。半数以上の子供たちがなんらかの就学前教育(保育園、幼稚園など)を受けます。日本の学校年度は4月から始まります。
小学校や中学校に入学または編入を希望する場合、公立を選ぶか私立を選ぶかの選択肢があります。公立は基本的に無料(教科書以外の教材、給食、制服などは有料)です。公立を希望する場合はお住まいの市町村の役所で入学手続きをして、そこで指定された学校に入ることになります。原則として就学年齢相当の学年に入ることになりますが、日本語能力などの事情から一時的に下の学年から始めることもできます。多くの学校では日本語が不自由な子供に日本語の指導を行っています。詳しくは学校の先生か市町村の教育委員会に相談してみてください
(略)お子様の教育に関する柏市と流山市のホームページをご紹介します。英語のサイトはまだ詳細な情報が整理されていないので、もしもお子様を地域の学校に通学させることをお考えでしたら一度私どもにご相談ください。
(上記記事より)
必要な場合は英語ができる人間が同行します、お子様の学校についてもご相談ください、というこのメッセージ。
情報を掲載するだけに留まらず、webサイトを通じて、組織を挙げて研究生活をサポートしますという姿勢が発信されています。
もちろん、IPMUのサイトが、こういった詳細ページを含め、すべて日本語、英語版を用意しているのは言うまでもありません。
IPMUに興味を持った研究者にとっては、非常に充実したサイトです。
ちなみに海外の超一流大学には、こういった情報を積極的に発信しているところが少なくない、とよく言われます。
特に学生だけでなく、海外から優秀な研究者を招聘しようと考えている大学では、家族と一緒に住める職員寮を整備し、子どもの進学を含む、現地での生活をバックアップします。
研究者、教育者の方々は、自分の子どもに対する教育にも高い意識を持っているでしょうから、こういった点は、地味なようで、非常に好評なのでしょう。
語学や教養系を始め、配偶者の方を対象にしたクラスを大学で開講する、なんて大学もあると聞きます。
一家で外国に引っ越すとなれば、研究者本人だけで決められることではありません。家族にとっても極めて大きな冒険です。本人以外は現地の言葉がしゃべれない、なんてこともザラでしょう。
そういったことも含めて決断をしてもらわないと世界レベルの人材は集まらない……そんな意識があるからこそ、リクルーティングをする側の大学は、組織を挙げてこういったサポートを充実させるのではないでしょうか。
IPMUのサイトは、海外の大学のサイトを意識して制作されたのだと思います。
IPMUサイトでは、ちゃんと、「事務職職員(Administrative Division)」の連絡先アドレスも、日本語、英語のそれぞれで紹介されています。
日本の大学ですと、日本語版サイトには各部署の連絡先が載っていても、英語版になると代表アドレス1つしかなかったりします。英語が使えるスタッフが限られているから仕方がないのかも知れませんが、そんな点一つをとっても、海外の人材から見た場合、「ここのスタッフは自分をちゃんとサポートしてくれるのかな?」と不安に思うかも知れません。
「世界から優秀な人材を集めて、グルーバルな教育・研究環境を目指す」みたいなことを謳う大学は少なくありませんが、IPMUが行っている程度に情報を発信したら、効果はありそうです。
「本気」の姿勢を発信するだけでも、反応してくれる方は増えるんじゃないでしょうか。
豊富な資金を持つIPMUのように、高い水準の給与を出せる大学はあまりないかも知れませんが、それでも「世界から優秀な人材を集める」と謳っている大学なら、そういった方々を呼ぶための資金やポストが用意されているはず。それをストレートに掲載してみてはいかがでしょうか。
それで人が集まらないのなら、そもそも呼びたかった人材と、設定していた待遇がずれているということなのでしょうから、リクルーティング活動を見直すこともできますし。
海外から人材を呼びたい! と考えている大学や研究機関にとっては、IPMUのサイトは参考になると思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。