マイスターです。
■読売調査「大学の実力」(1):大学の教育方針を知るには、卒業率や退学率の数字が必要
↑昨日の記事で、読売新聞が行った調査についてご紹介しました。
この調査では、各大学の標準修業年限卒業率や退学率が明らかにされています。
見てみると、目を惹く数字もあります。
退学率が4割を超えるということで、読売新聞の記事でも「退学率41% 立て直し懸命」「1年生全員と面談」などと触れられているのが、宇都宮共和大学。
大学によれば、経済的事情による退学が8割を占めるとのことですが、いずれにしても卒業率がそれだけ低いという事実は、大学のサイトなどからは想像もできません。
明示されているのは、「就職内定率98%」という数字のみですが、退学率とあわせて考えると、この数字もかなり印象が違ってきます。
大学側は、読売新聞の取材に対し、
「正確な数字を出すことで学内の危機感を高め、努力を重ねたい」
(「『退学率41%』 立て直し懸命」(読売新聞2008.7.20)記事より)
……というコメントを出されています。
この姿勢は、評価されるものだと思います。
この他にも、退学率が2割を超える大学は少なくありません。5人に1人は卒業できないということです。
2割という数字の感じ方は人によるでしょうが、「入学さえできれば、4年後には卒業が約束されている」というイメージをなんとなく持っている人にとっては、意外な実態かもしれません。
標準修業年限での卒業率が4割台という大学も散見されました。
社会的責任を守るためにも進級・卒業時のハードルを高くしているという大学もあれば、海外留学をする学生が多いことを理由に挙げた大学もありました。
(詳しくは、元の記事をご覧下さい)
昨日の記事でも書かせていただいたのですが、この辺りの数字は、総合的に見ないと判断できません。
従来、日本の大学は「入るのは難しく、出るのは簡単」と揶揄されてきましたが、中には「卒業が難しい」ことを良しとしてきた大学もあります。
首都圏だと、東京理科大学が以前からそういったイメージを打ち出している大学の代表でしょうか。進級・卒業は難しいが、その代わりみっちり鍛え上げて、優秀な技術者や研究者、教員などを社会に送り出すという評価を得ている大学です。
理科大の他、産業界からの高い評価を誇る理工系大学の中にも、標準修業年限卒業率が低い大学がいくつかありました。
(※ちなみに、そんな東京理科大学の標準修業年限卒業率は71.6%。4年間での退学率は10.7%で、今回の調査では、思ったほど突出した数字というわけではありませんでした。というのも、この数字も理科大の「厳しさ」を表すものではあるのですが、これ以上に退学率の高い大学が多すぎて、全体の中では目立たないのです。これは先日の記事の例とは逆に、就職先や進学先など、教育の成果と合わせて伝えないと、大学の高い評価が正しく伝わらない例かも知れません)
「4年(6年)で卒業できない学生が多い」という事実そのものだけでは、良いか悪いかという評価はできません。安易に卒業率だけを並べて比較しても、教育の本質に関わる部分はわからないのですね。
これは、今回の調査結果を活用する側、つまり高校の進路指導担当者や、マイスターのような塾・予備校関係者が気をつけなければならないところです。
また、退学率が高い大学の場合、教育の問題というより、経済的な事情の影響が大きいというケースもあるでしょう。
退学率だけからでは、その辺りを読み解くことは困難です。
そこで読売の調査では、「入学から1年での退学者の割合」も合わせて調べています。
この数字もあまりに高いようですと、経済的な事情だけでは説明できない部分もあるのかな、という推測もできるのかなと思います。
それに、「経済的な事情」が退学の理由になるかどうかも、ある程度は大学次第。
同じような立地環境、同じような入試難易度、同じような学問分野でも、退学率は大学によって大きく異なるのですから、学費の設定や、奨学金の充実度も含めて、大学の対応の違いが差を生んでいる部分はあるのではないでしょうか。
「経済的に大変でも卒業できる大学」と、「経済的に余裕がないと卒業できない大学」というのは、学生にとっては、かなり大きな違いです。
それすらも、これまでは比較検討できなかったわけで、やはり大学の情報公開には大きな意味があると個人的には思います。
また今回、退学率が公開されたことで、奨学金など経済的なサポートの充実を図る大学が出てくるかもしれません。学力以外の理由で卒業できない学生が多いと、全体の退学率が上昇し、大学にとって不利な情報になるからです。
情報をつまびらかにすることによって、こういった支援体制の整備も加速するかも知れません。
4年をこえて在学した場合でも、1年ごとの学費ではなく、不足単位分だけの学費で学び続けられるように学費を改定する動きも、これを機に進むことを期待します。
ところで、非常に画期的な今回の調査ですが、今後に向けて、個人的には要望もあります。
【「退学理由」は?】
上述したような経済的なことも含めて、やはり、退学率が高い場合、「なぜ退学者が多いのか」を受験生側は気にすると思います。
退学理由について、大学全体を対象にした色々な調査結果はありますが、実際には大学ごとに理由は違うでしょう。
もし各大学が、自校の退学率と、退学理由を併記して公開したら、受験生側にとっては非常に有意義な情報になると思うのですが、いかがでしょうか。
こうした数字を明示しながら、
「本学は退学者が多いように思われていますが、奨学金を整備し、学費も低く抑えているため、経済的な事情で辞める学生はほとんどいません。
学力が不足している学生を鍛えるために、進級のハードルを高くしているのが理由なのです。この主旨に賛同される方をお待ちしています」
……と、うまく大学のPRに使うことだって可能だと思います。
(もし、電車の中吊り広告でこんなメッセージが発信されていたら、自分の子どもを入れたいと思う保護者も出てくるのではと思うのですが)
【「学科単位」の情報公開が望まれる】
今回のデータはすべて、「大学」単位での集計。
しかし、標準修業年限卒業率や退学率といった数字は、学部学科ごとに違っているはずです。
以前、ある大学関係者と話していて驚いたのですが、その大学の標準修業年限卒業率は、学科によって最大30%以上の開きがあるそうです。
8割の学生が4年間で卒業する学科もあれば、5割の学生しか4年間では卒業できないという学科もある、というのです。
考えてみれば、必修・選択の組み立てを始めとするカリキュラム構成から、卒業判定会議の厳しさまで、実際の教育指導方針は学科単位で決められていることが少なくありません。
そうなると、大学の教育の実態を正確に知るには、大学単位での集計では不十分だということになります。
通信制や、昼夜開講制の学部が含まれている場合、さらにやっかいになります。
こういったコースでは、じっくり時間をかけて学びたいという学生も一定数いるでしょう。ある程度単位を集めた段階で卒業を見送る人もいると思います。
こういったコースの数字と、他の学部の数字とは、同じように扱うわけにはいかないでしょう。
そうなってくると、学部ごと、学科ごとに卒業率や標準修業年限卒業率を公開しないと、本当の意味での実態は掴めないということになります。
しかしそこまでいくと、もう外部メディアの調査に期待できる範囲ではありません。各大学が、自主的に情報を公開してくれるのを願うのみです。
というわけで、今回の読売新聞の調査をひとつのきっかけにし、大学業界が情報公開を進めてくれることを、個人的には期待します。
色々と書きましたが、これらの数字だけで何かを語ることはできないと思います。
ただ、大学が普段から主張・アピールしていることの裏付けとして、こういった数字が出てきたら、説得力を持って受験生や社会にも伝わるのではないかと思うのです。
以上、マイスターでした。
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※韓国のメディアが、この読売の調査に、いち早く反応していました。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。