研修医を大学に戻す施策

マイスターです。

■研修医の大学離れが進んでいる?

↑「新臨床研修制度」のもと、研修医の大学離れが起きていることを先日ご紹介しました。
研修医が大学に来なくなった結果、大学の「医局」や大学病院の医師数が減少。医師を必要とする地域に、大学から医師を派遣できなくなり、地方の医療が崩壊している……というのが、関係者の見立てです。

このままでは医療は行き詰まる。さてどうするの……ということで、国がこんな一手を繰り出しました。

【今日の大学関連ニュース】
■「医師研修の工夫解禁 大学限定、地方に誘導 厚生労働省」(Asahi.com)

医師の臨床研修制度をめぐり、厚生労働省は、大学病院に限って研修プログラムの変更を認める方針を固めた。地方の大学病院の研修医の少なさが、地方の医師不足の一因になっているとの指摘を踏まえた。今後、各大学がどれだけ魅力的なプログラムをつくるかがカギとなる。
識者らが研修制度について話し合う18日の厚労省医道審議会に提案される。了承されれば、各大学病院は来春のプログラムの変更作業に着手。毎年10月にある医学部卒業予定者(約8千人)と、臨床研修ができる病院(約1100施設)の希望すり合わせに間に合うようにする。
今回の措置は、モデル事業として実施。現在、「内科6カ月以上、外科3カ月以上」などと示されている研修内容の取り決めを、全国80の大学病院に限って弾力化する。
具体的には、各大学病院の研修医募集の定員数をもとに算定した枠内で、特定の診療科に集中して臨床トレーニングを行う「特別プログラム」の策定を認める。
対象となる特定の診療科は、「地域医療に影響がある分野」を想定。実質的には、地域医療で不足感の強い産婦人科や小児科、救急などが軸になるとみられる。
逆に特別プログラムで特定の診療科で長期間研修すると、内科、外科などでの研修期間が短くなる欠点がある。だが厚労省は、「人材が豊富な大学病院では、教育担当の指導医の充実により、初期診療に必要な総合力を育てられる態勢がとれる」(幹部)と判断。医師が卒後2年間で備えるべき基本的な診療能力の水準維持を引き続き求める。
(略)厚労省は「魅力のある研修プログラムをつくってもらい、地方の拠点になる大学病院に人材が集まるよう期待したい」(幹部)としている。
(上記記事より)

そんなわけで、厚生労働省が素早く動き始めました。
大学に限って、研修プログラムを弾力的に組むことを認め、「大学病院への人材誘導」をはっきりと打ち出しています。

確かに、これくらいはしなければ、大学には戻ってこないのかも知れません。
すぐに手を打ったことは、評価されると思います。

ただ、医療のことは素人のマイスターでも、すぐに気づく矛盾があります。

【新臨床研修制度の基本設計】
(新医師臨床研修制度検討ワーキンググループ全体会) 9月4日
I)  研修プログラム
研修プログラムは2年間をプライマリイケアにおける基本的な診療能力を修得する期間とするとともに、研修目標を達成できるプログラムでなければならない
1) 当初の12ヶ月は、内科、外科、救急部門(麻酔科を含む)を基本研修科目として研修すること なお内科研修は6ヶ月以上が望ましい
2) 小児科、産婦人科、精神科及び地域保健・医療を必修科目として、それぞれを1ヶ月以上研修すること
3) 基本研修科目と必修科目以外の研修期間は、1) 2)で不十分であった研修部分を修得するとともに、研修医が研修プログラムを選択し、積極的に研修に取り組むことができるように研修プログラムの特色づけやさらなる研修の充実のために活用すること
4) マッチングとは、研修プログラムと研修医の希望との最適の組み合わせを実現するためのシステムであり、研修医の強制的な再配置に用いないこと
5) 研修プログラムに参加する研修医の出身校による片寄りがなるべく少なくなるように努めること
「(新医師臨床研修制度検討ワーキンググループ全体会) 9月4日:新臨床研修制度の基本設計」(厚生労働省医政局医事課)ページより)

(2) 必修化の背景
・地域医療との接点が少なく、専門の診療科に偏った研修が行われ、「病気を診るが、人は診ない」と評されていた。
・多くの研修医について、処遇が不十分で、アルバイトをせざるを得ず、研修に専念できない状況であった。
・出身大学やその関連病院での研修が中心で、研修内容や研修成果の評価が十分に行われてこなかった。
「医師臨床研修制度の変遷」(厚生労働省)ページより)

もともと、新臨床研修制度には、

・研修プログラムに参加する研修医が、出身校などで片寄らないようにすること

・(高度な医療を受ける入院患者が多い)大学病院だけではなく、地域医療との接点も重視し、「コモンディジーズ」と呼ばれるような、基本的で患者数の多い病気についても経験を積むこと

・大学病院では専門の診療科に偏った研修が行われ、「病気を診るが、人は診ない」と評されていたので、それを改めること

……といった狙いがあったのではなかったでしょうか。

そのために具体的な期間を設定し、多くの診療科での研修を必修にしたわけですし、大学病院以外で研修を受けられるようにしたのだったと思います。
むしろ、「大学以外にも行きなさい!」くらいのコンセプトだったように思います。
(マイスターはそう理解しています。間違っていたらご指摘下さい)

今回の厚生労働省の施策は、そんなコンセプトをひっくり返す内容であるように思えます。

厚労省は「魅力のある研修プログラムをつくってもらい、地方の拠点になる大学病院に人材が集まるよう期待したい」(幹部)としている。
(冒頭記事より)

……って今さら言われても。

逆に特別プログラムで特定の診療科で長期間研修すると、内科、外科などでの研修期間が短くなる欠点がある。だが厚労省は、「人材が豊富な大学病院では、教育担当の指導医の充実により、初期診療に必要な総合力を育てられる態勢がとれる」(幹部)と判断。医師が卒後2年間で備えるべき基本的な診療能力の水準維持を引き続き求める。
(冒頭記事より)

これも何だか、強引です。
大学病院だけでは難しいから、新臨床研修制度を始めたのではなかったのでしょうか。
大学病院の環境だけで「初期診療に必要な総合力を育てられる態勢がとれる」のなら、マッチングの仕組みは必要なかったのでは。

今からこういった施策の準備を進め、10月のマッチングに間に合わせるとのこと。
すぐに問題解決に乗り出した点は素晴らしいと思うのですが、一方で、ちょっと対処療法的な感じは否めません。
新臨床研修制度の迷走ぶりを、さらに際だたせる発表のように感じられました。

個人的には、どういう方法で問題を解決しても良いと思います。

新臨床研修制度に問題があったなら、制度自体を見直すのも手です。
あるいは、地方に医師が供給されないのが最終的な問題であるのなら、大学を経由せずに医師を行き渡らせる手だてを考えるのも、一つの方法でしょう。

ただいずれにしても、矛盾をはらんでいる制度は後に必ず混乱を招きますから、コンセプトを整理し、全体の流れを一度、すっきりさせた方が良いように思います。

もっとも、これは医療の素人であるマイスターの意見ですので、医療系の大学にお勤めの方や、学生の方々は、また違ったご意見をお持ちかも知れません。
メディアでは報道されていない事実もあるかも知れませんし。
関係者の方のご意見も、お待ちしています。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • はじめまして。大変興味深く拝読しました。
    地方での医師不足は、新臨床研修制度の導入によって拍車がかかったことは否めないと思います。
    導入前は、新臨床研修制度のメリットもあると考えられていたと思いますが、メリット以上にデメリットが大きかったということだと思います。
    なお、マスコミでは、産科、小児科の医師不足が強調されていますが、地方での内科医師不足も深刻です。このままでは、内科医すらいない地域が拡大していくのではないかと懸念しています。
    これからも拝読させていただきます。
    ありがとうございました。