行き詰まっている? 日本の大学生の就職活動

マイスターです。

突然ですが、「日本の大学生の就職活動は、行き詰まっている」と思っています。

BtoCの企業を中心とした、テレビでCMを流しているような知名度の高い企業や、就職人気ランキングの上位の企業に皆が殺到する現状。
大学を卒業する前から始まる、「新卒一斉採用」というシステム。一斉に同じ格好(リクルートスーツ)をして、SPIの試験勉強(つるかめ算とか……)をして、大学の授業をさぼって出かける会社説明会。
その影響で成立しなくなる、大学の教育研究。
そんな苦労をした割に、「想像していたのと違う!」……と、すぐ辞めてしまう新入社員。

企業の方は企業の方で、某○クルート社の言うまま、早くから社員を動員し、イベントやらDMやら、○クナビ上に表示されるバナーやらに膨大な金額をつぎこみ続けないと、もはや採用が成立しない。そういうシステムができあがっているからです。

この現状、一体、誰が幸せだというのか。
○クルート社を初めとする就職関連企業や、人材紹介会社、派遣会社などを除いて、みんなが不幸になっているんじゃないかと思うのですが。

今日も、こんな話題が報じられました。

【今日の大学関連ニュース】
■「授業にならない! 『青田買い』是正を 大学3団体、企業側に要請」(MSN産経ニュース)

大学生の就職活動の時期が早すぎるとして国立大学協会(小宮山宏会長)などの3大学団体は9日、日本経団連や全国銀行協会、リクルートなど137団体・企業に対し、「青田買い」とも呼ばれる採用活動早期化の是正を求める要請書を提出した。近年の早期化傾向を踏まえ、3団体が足並みをそろえた。
企業の採用活動をめぐっては、経団連が平成9年度から「倫理憲章」を定めている。だが、近年は外資系の青田買いも影響して早期化傾向に拍車がかかり、大学生は3年時の夏ごろから就職活動を始めているという。国大協の平野真一教育研究委員長は「貴重な学びの時間が奪われている。十分な教育を受けずに学生が社会に出るのは国家の損失だ」と話している。
要望したのは国大協のほか、公立大学協会と日本私立大学団体連合会。書面では、(1)卒業学年当初や3年以下の学生に対する実質的な採用選考活動を慎む(2)採用活動は可能な限り祝休日や長期休暇に行う(3)正式内定日は卒業学年の10月1日以降-の3点を求めた。

(上記記事より)

国公私立それぞれの大学団体が共同で、経済団体などに対して、早期の採用活動の自粛を呼びかけたとのことです。

↓いや、もう少し強いトーンで、「企業サイドの行動を批判した」という感じでしょうか。

文部科学省の調査では、就職活動が早まっていると感じている国公私立の大学はこの3年で倍増し、全体の6割以上に上る。学生の求めに応じる形で大学も3年生から就職ガイダンスなどを開催しているが、発表の当番の学生がゼミを欠席するなど、教育に支障が出ているという。
(略)国大協理事の平野真一・名古屋大学長は「採用活動は4年の7月以降にしてほしい」としたうえで「企業が求める人間像として挙げるのは明るさや協調性。こういう学力を、というのはない。大学関係者として悔しい」と話している。
「採用活動早期化、是正を 大学側が経団連などに要請」(中日新聞)記事より)

大学側によりますと、企業が行う採用活動は年々早まっていて、大学3年や修士の1年生が既にこの時期、就職活動に入っており、学生が自らの専門や適正を考える時間もないまま、就職活動に忙殺されるという現状があるということです。
また、いわゆる就職関連企業に対しては、企業側・学生側の双方に対し、早期に活動を始めないといけないとあおっていると批判しました。
この数年、企業に入った新入社員について、すぐ辞めてしまう、質が落ちている、なとの問題が指摘されていますが、大学側は、採用活動が早すぎることもその大きな原因の一つではないかと指摘、そうしたことを改めるよう求めたものです。
「早まる採用活動、大学側が自粛を要請」(TBS NEWS)記事より。(リンク元には動画もあり))

大学院に入学し、修士1年の秋頃に「え? 入学したばかりなのに、もう就活しなきゃいけないの!?」……とびっくりした経験のあるマイスターには、実感のわく内容です。
上記の話は、大学関係者、特に教員の方にとっては、切実な問題でしょう。

で、冒頭でも述べましたが、じゃあ企業の側は現状の採用活動をどう考えているかというと、↓こんな感じです。

■「企業から見た就活学生 『採用に満足』半数以下」(MSN産経ニュース)

企業が今年の就活学生をどう見たか。当社が5月に調査した「採用動向調査」によると、今年の学生に対して「質に満足」という評価は44.4%(昨年40.2%)。昨年に比べて上昇したものの半数以上の企業は、相変わらず学生の質には満足していない。
この「採用満足度の低下に繋がる学生への不満」とはどのような理由によるものだろうか。同調査は、不満要因について「コミュニケーション能力不足」「自己理解不足」などを指摘しているが、ここ数年、「競争心が薄い」「一般常識がない」という項目がじわじわと増加しているのが気になる。大学が懸命に取り組んでいるキャリア教育の成果が出ていないといえよう。
さらに企業から学生への感想を聞いてみると、「何回接触しても本音を見せない」「受け身の姿勢でおとなしい」「大手中心の就活にこだわる」「第1志望を持たない」などの不満が多い。採用したい学生と採用したくない学生との差が広がり、中間層がいないというデバイド化(市場の二極分化)現象が08年卒採用の流れを引き継ぐ形で拡大したのである。
(上記記事より)

卒業まで1年以上ある学生を採用しておいて、「自己理解不足」だの、「第1志望を持たない」だの、それはないだろうと、大学側の視点で思ってしまうマイスターです。

ただ、このように企業側も採用の結果に満足しているかというと、していないわけで、なんだか残念な現状です。
このちぐはぐな感じ。一体なぜこんなことに? と思ってしまいます。

今回の報道で、↓こんな記述もありました。

国立大学協会は「優秀な学生を取り込もうとする企業の競争が激化している。通年で採用活動することが多い外資系企業にあおられている面もある」としている。
「青田買い:是正求める要請書 国公私立大組織が提出」(毎日jp)記事より)

これを読む限り、あたかも外資系企業のせいで、日本の企業も採用を早めざるを得ないのだ、と思えてきますが、本当でしょうか。
外資系企業は、日本以外では、そもそも「新卒一斉採用」なんてことをやっていないとしばしば耳にします。アメリカあたりですと、大学生は「卒業した後」に就職活動を本格化させることも多いとか。

「外資系の通年採用」というのは本来、「新卒一斉採用」とは真逆の発想であり、それが日本的な「4年生の夏くらいまでには、4/1からの行き先を確保しておかないとダメ!」という民族的習慣(?)の中につっこまれた結果、このようにお互いが煽り煽られ、不幸なことになっているんじゃないかなぁという気が、個人的にはちょっとします。

個人的には、「採用の時期」の問題ではなく、横並びな「新卒一斉採用」の発想自体に根本的な問題があるんじゃないか、という気がしないでもありません。
もちろん、それを利用して大学と企業の双方を煽る構造を作り出している就職関連産業のありようも、見直すべき時期だと思います。

(時期の問題に関して言うと、大学側も1年生のうちから「就職活動に力を入れなさい」と指導し、学生の就活を早める原因のひとつを作っていたりしますので、企業のことばかりは言えません)

以前は有効に機能していたかも知れませんが、こういったシステム、そろそろ制度疲労を起こし始めているんじゃないでしょうか。

「新卒一斉採用」のシステムは、企業が研修で新人を自社色の『社員』に育てるという企業の人材開発観や、終身雇用・年功序列で若いうちは安く雑用ばかりをさせる仕組みなどとも連動しています。
そういった、日本の企業の人事システムすべてをひっくるめて、そろそろ新しい仕組みを作るべきときなのではと、個人的には思うのです。
すぐには無理だとしても、そういう方向性で考えていかないと、採用の問題は、いつまで経っても根本的には解決しないのではないか、という気がします。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

3 件のコメント

  • マイスターさん
    いつも楽しくブログ拝見させてもらっています。
    >この現状、一体、誰が幸せだというのか。
    ○クルート社を初めとする就職関連企業や、人材紹介会社、派遣会社などを除いて、みんなが不幸になっているんじゃないかと思うのですが。
    就職戦線における「真の勝ち組」は、
    大手の第一志望に内定した学生でもなく、
    求めていた人材を採用できた企業でもなく、
    就職戦線を「巨大ビジネスチャンス」と捉え、早くから企業戦略を進めていった○クルート社です。
    その理解さえできればいいんですけどね。。。
    学生もなかなかその理解ができておらず、
    某社の言うとおり、
    「自己分析」したり「エントリーシート書き方講座」を受けたりするんですよね。。。
    少し可哀そうです。

  • いつもマイスターさんの意見にケチばかりつけている私ですが、何もコメントしていないときは大いに賛同しているのです。今回もまさにご意見の通りだと思います。

  • 大学生を二人持つ親として4年間大学に通わせて授業料毎年100万も出して就職は氷河期なので大変で就職活動に精出して本来の勉強がおろそかになるなら・・・
    短大みたいに4年間分の内容を2年間で終わらせて3年は就職活動に専念して4年目は内定もらった会社で働くための準備と体験をしていくようにしたらいいかと・・・そうなると日本の大学教育は何のためにあるのか・・そのために小学生の時から塾に通いいい大学に入るためにテストの点数を取るための勉強をして人をどこかで蹴落とすための心しか持たない人の集まりで世の中うまくいくとは思えません。そこに到達していない人は負け組みのレッテルを貼られ国が決めたゆとり教育を受けた子たちは更にゆとり教育の不作物と言われどこに何を持っていけばいいのでしょうか?