私大の寡占化が進む? ブラジル 

マイスターです。

■他大の経営破綻に備える放送大学

↑昨日、大学の経営破綻やら学生の移転やらに関する話題をご紹介したばかりですが、今日も似たようなニュースを。
ただし本日は、海外からの話題です。

【今日の大学関連ニュース】
■「私立大学の寡占化始まる 上場大手はエスターシオなど4校」(Sao Paulo – Shimbun)

教育界では私立大学の寡占化が始まった。大手コンサルタント会社KPMG調べによると、私立大学間の吸収・合併が他の産業界並みに増え昨年は一九件、業界別では三番目となった。
今年は上期だけで大手大学による買収が三〇件に達した。
同社によると、従来M&AはIT、食品、飲料、タバコなどのメーカー間でさかん、教育界はその他扱いだった。それが株式市場への上場開始いらい、資金的余裕をもった大手大学の買収が始まった。
有力な株式公開の私立大学はアニャンゲーラ、クロトン(ピターゴラスで知られる)、エスターシオ、及びブラジル教育システム(SEB)で、殆どの買収がこの四校による。
この一〇年間に大学の数は一八四%増えたが、大学志望者数はそれを下回り空席がふえ、小さな大学は閉校に追いやられた。サンパウロ大学アソシアドスがその一例。
反対に巨大化する大学はアニャンゲーラのように傘下の一七校が買収により四七校に増えた。向こう五年間で一〇〇校をめざすと鼻息が荒い。
(略)ちなみに現在の全国私大数は二〇二二校で、うち四三九校が非利益団体の経営。
上記四大学グループの学生数はSEB三七万八〇九三人、エスターシオ一九万七九七〇人、アニャンゲーラ一三万九〇〇〇人、クロトン二万六四〇四人。
(上記記事より)

日本でも、たまに

「日本の大学は多すぎる。人気のある有力ブランド大学が他の大学を吸収合併する形で、もっと数を減らしたらいいんじゃないか」

「そのうち、数校のブランド大学が、日本全国の大学を傘下におさめる日が来たりして」

……みたいなことを言う方を見かけます。

確かに日本でも、大学同士の合併が少しずつ、行われ始めました。中にはほとんどM&Aと言ってしまって差し支えないような吸収・合併もあるようです。
しかし実際には、扱う学問分野や学校の理念、教職員の扱いなど、乗り越えなければならないハードルも多く、(政策的な意味合いの強い一部国公立大学の合併を除けば)大学同士の合併は、そんなにばんばん進んでいるわけではありません。

で、「大学が大学を買収する」なんてことがばんばん起きているのが、ブラジルです。

一体、何が起きているのでしょうか。

冒頭の記事にもあるように、ブラジルではここ十年ほどの間、大学および学部の数が急増しています。
以下の2つは2006年9月頃のニュースですが、その驚くべき急拡大ぶりを報じています。

■「86学部設立要請:各州立大学から殺到」(サンパウロ新聞)
■「10年間に650%:大学教育課程が急成長」(サンパウロ新聞)

最近、高度発展を遂げた分野に高等教育がある。大学生の数が激増し、94年には学部数は633学部であったのが10年後には1789学部と約3倍、学生数は官立69・0万人が97・0万人と40%増、公立大学では69・0万人が117・8万人となり、69%増に過ぎないが、私立大学では97・0万人が298・5万人と3・1倍と大幅の増加を見た。
この内訳を調べてみる。文化系では人文学および美術関係が525科から571科へと8・7%の増加に対し、数学および電算機の分野では621科から1484科へと2・4倍、法学は354%、経営学が544%、社会学566%の伸びを示した。農業関係および獣医のコースは少なく僅かに172コース。これでも94年と比較すれば42コースと4倍に増加している。健康厚生の学部は94年の354コースから1603コースへと約4倍に増え、この中で医学関係は112%の増加率であった。
教育学部は94年308コースから2891コースへの8倍、サービス業関係の学部ではホテル業が1706%、観光業が1806%、モーダ業が1000%増と選ぶコースによっては急激な増加を呼んでいる場合もある。工学部、生産工学、建築学は94年155コースに対し、04年は786コースであった。
「10年間に650%:大学教育課程が急成長」(サンパウロ新聞)記事より)

ホテル業について学ぶ学部学科が1,706 %の増加(17倍!)など、すさまじい増え方。
そして、大学で学ぶ学生も、

官立大学 69.0万人 → 97.0万人
公立大学 69.0万人 → 117.8万人
私立大学 97.0万人 → 298.5万人

……と、増加の一途を辿っています。

ブラジルでは80~90年代に、国の教育政策によって初等中等教育が拡大。就学者数、就学率が倍増しました。
大学ががこのように学部学科を増設し多くの学生を受け入れた背景には、こうした社会の変化があります。

しかし冒頭の記事によれば、こうした大学側の急拡大に対して、肝心な進学志望者数の方は追いついていない模様。つまり供給過多です。
こうして大学間の競争が激化する中で、冒頭の記事にあるように、資金力のある大手の私立大学がそれ以外の大学を買収・拡大するという動きが起きているというわけです。

(※正確には、記事では「株式公開の私立大学」と書かれています。日本の学校システムとは、この辺りに制度上の違いがあるかもしれません。ここらへんに、「買収による急拡大」を可能にしている大きなポイントがあると思います)

スケールメリットを持つので地方都市も含めて三〇〇のコースに増え、授業料は月平均R$四〇〇と他に比べて安い。
出版社とも契約し、学生が市価よりも二割安く本を購入できるようにした。目標は本類の一〇〇万部販売。
優れた教授をやとい、図書館を、研究所を充実できる。
「私立大学の寡占化始まる 上場大手はエスターシオなど4校」(Sao Paulo – Shimbun)記事より)

……など、他大学にとってはなかなか厳しい状況の様子。

ちなみに、最新の正確な数字は分からなかったので、あくまでも参考なのですが、さきほどの2006年の記事によれば官立大学の学生数は97.0万人、公立大学117.8万人、私立大学298.5万人で、合わせるとざっと500万人ほどになります。
そして、冒頭の記事で紹介されている4つの大学グループの学生数は、合計で64万人ほど。
2006年と2008年の最新の数字ですから、時期がずれていますし、この間にも学生数は増えていると思いますが、それでも、ざっと1割前後の学生が、この4大学によって占められているのかな……という感じはします。

日本の大学生数は、平成19年度の学校基本調査によれば、2,828,708人。
日本で、4つの私立大学が28万人の学生を抱えている様子を想像していただくと、ブラジルで「寡占」が進んでいる雰囲気をリアルにイメージしていただけるのかなと思います。

……と書いて、実際に日本の私立大学のうち、「学生数」上位4校の合計を足してみたら、ざっと16万人ほどでした。
現状、何ともコメントしがたい微妙な数字です。

以上、マイスターでした。

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※数字関係(特にブラジルのもの)は、あくまでもイメージを知るための目安としてご覧下さい。
より正確な値をご存じの方は、ご指摘いただければ幸いです。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。