マイスターです。
■辞めないで、新入生 様々な工夫を凝らす大学
↑昨日の記事で、高校の内容を補習する教育(リメディアル教育)を、7割の大学が実施しているというニュースをご紹介しました。
ところで、こうした補習科目を履修した学生に対し、「卒業に必要な単位」としての単位を与えている大学は、どのくらいあるのでしょうか?
【今日の大学関連ニュース】
■「帯畜大 『高校の復習』新入生殺到 推薦入学向け『楽に単位』と」(北海道新聞)
帯広畜産大が本年度、新入生の学力不足対策として、高校の学習内容を指導する授業を正規科目として開設したところ、受講者が学生の二割を超える人気となっている。教官からは「こんなに多くの学生が高校の勉強をやり直すのか」と、戸惑いの声も聞かれる。
高校の内容を指導するのは数学、物理、化学、生物、英語の五科目。新入生二百五十人のうち、畜産科学科二百十人が受講できる。数学、物理、化学は、高校で十分に履修していない推薦入学の十五人を対象に予定していた。しかし、一般の新入生からも希望が相次ぎ、三科目とも五十-六十人が登録した。
(上記記事より)
国立大学法人・帯広畜産大学に関する記事です。
ここで出ている5科目のシラバスは、↓こちらから閲覧できます。
■「シラバス:入門数学(BASIC MATHEMATICS)」(帯広畜産大学)
■「シラバス:入門物理学(BASIC PHYSICS)」(帯広畜産大学)
■「シラバス:入門化学(BASIC CHEMISTRY)」(帯広畜産大学)
■「シラバス:入門生物学(BASIC BIOLOGY)」(帯広畜産大学)
■「シラバス:BASIC ENGLISH」(帯広畜産大学)
この5科目、いずれも「1単位」に該当します。
例えば「入門物理学」のシラバスには、
【授業概要・目標】
高等学校での物理の学習が不十分だった学生を対象に,大学で物理学を学ぶ上で最小限必要な基礎知識を講義することを通じて,高校教育から大学教育への移行を支援する。
【履修にあたっての留意事項】
大学が指定した対象者と「物理学概論」の担当教員が指定した者のみ履修できる。
……と明記されています。
「入門化学」を除けばいずれも、このように受講対象者が制限されている……のですが、冒頭の記事には、
受講者が学生の二割を超える人気となっている
(冒頭記事より)
新入生二百五十人のうち、畜産科学科二百十人が受講できる。数学、物理、化学は、高校で十分に履修していない推薦入学の十五人を対象に予定していた。しかし、一般の新入生からも希望が相次ぎ、三科目とも五十-六十人が登録した。
(冒頭記事より)
……とあります。
思いの外、「指定した対象者」が多くなってしまったか、それともこうした受講者制限が形骸化していて、実際には学生が希望すれば履修できてしまうことが多いのか、どちらでしょうか。
昨日の記事の「7割」という数字を考えるに、帯広畜産大学だけではなく、他にも同じようなことが起きている大学は少なからずあるのではないかと思われます。
ただ、こうした補習科目が本来の目的・意図に沿って機能しているのかは、問題です。
例えば冒頭の記事には、↓このような記述も。
受講理由は「高校の学習内容なら単位取得が楽」「二年後半からの専門教育で、人気分野を専攻するには好成績が必要。入門講座なら高得点が期待できる」などが多いという。
生物と英語は、入試後の試験で基準を下回った約五十人に受講を義務づけた。
ある教官は「大学の勉強についていくための学力の下支えという、本来の狙いとは異なる受講が広がっている。新しい知識などを身に付けてほしいのに、高校と同じことを繰り返そうとするとは…」と苦り切っている。
(「帯畜大 『高校の復習』新入生殺到 推薦入学向け『楽に単位』と」(北海道新聞)記事より。強調部分はマイスターによる)
「大学の勉強についていくための学力の下支えという、本来の狙いとは異なる受講が広がっている。」という教官のコメントが紹介されていますが、個人的には、それ自体はそれほど大きな問題とは思いません。
むしろ、この大学ユニバーサル・アクセス時代においては、必要に応じて下支えができるような体制を用意しておくことも場合によっては必要だと考えます。
例えばAO入試などで、将来性や発想力、リーダーシップに富んだ学生を合格させたときに、
「君の将来の伸び率に私達は期待している。でも、化学の学習成果がいまひとつ十分でないようだから、化学については補習教育で学びなおしなさい」
……なんて指導もできますよね。これ、ものすごくまっとうな選抜&教育の関係の在り方だと思うのですが。
少なくとも、自分達が作成した試験で選抜したのに、「学力が足りないじゃないか」といって放置するよりはましです。
ただ、
「高校の学習内容なら単位取得が楽」
「二年後半からの専門教育で、人気分野を専攻するには好成績が必要」
なんて理由は、どうだろう? と思います。
こうした学生達は、別に補習が必要だから履修しているのではないのですね。
補習教育が、補習として機能していません。
大学によっては、こういった補習科目を、卒業に必要な単位として認めていません。
「この学生は、これだけの学習を修めましたので、○○の学位を与えます」という、卒業までの学習の量と質を保証するのが、単位。
補習科目の学習は、こうした学位のための単位にはあたらないと考える大学もあります。
あるいは、プレースメント・テストで基準点以下だった学生には、1単位と引き替えに補習科目の履修を義務づけるが、それ以外の学生は、希望者の聴講のみ認める、なんて折衷案もあるでしょう。
いずれにしても、帯広畜産大学は、何らかの手だてで現状を変えた方が良さそうです。
補習科目の運用には、大学によっても差があると思います。
7割の大学が補習科目を設置しているとのことですが、それがどのような学生層に履修され、どの程度の効果をもたらしているのか、定期的に検証してみるのも大事ですね。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
多くの方がコメントしているかと思いますが,念のために.
【引用】
「大学の勉強についていくための学力の下支えという、本来の狙いとは異なる受講が広がっている。」という教官のコメントが紹介されていますが、個人的には、それ自体はそれほど大きな問題とは思いません。
むしろ、この大学ユニバーサル・アクセス時代においては、必要に応じて下支えができるような体制を用意しておくことも場合によっては必要だと考えます。
【引用終わり】
これは解釈が単に間違っているだけでしょう.大学の勉強についていくための学力の下支え=本来の狙い,という意味と解釈すべきと思います.
丁寧に情報を収集されており、いつも興味深く拝見しています。
ただ、この記事に関しては、より複雑な構造が隠れているようです。新聞を元情報にしているだけに、仕方のないことだと思いますが、一面的な理解にならないようにしなければと改めて感じました。既にご存知であれば失礼しました。では、これからも楽しみにしております。
>> http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/3974/1212361858/48