辞めないで、新入生 様々な工夫を凝らす大学

マイスターです。

大学では1年生もすっかりキャンパスに馴染み、関係者も平穏な日々を過ごして……いるかというと、そうでもありません。
4月の入学直後から、ゴールデンウィーク明け、そして夏休み前後くらいまで、大学関係者にとっては気の休まらない時期が続きます。

新入生が「辞めない」ように、ケアをするためです。

周囲に馴染めず、あるいは学業につまづいて、大学を去る学生は少なくありません。
昨今では、大学側はそんな学生を減らすべく、様々な工夫を凝らしています。

【今日の大学関連ニュース】
■「初年次教育で、やる気」(Asahi.com)

大学の勉学は自発的にするもの。それなのに高校までの受け身体質を引きずったまま、立ちすくむ1年生が増えている。そんな中、米国発の「初年次教育」が日本でも広がり、「やる気学生」への改造作戦が進み始めた。この教育で知られる関西国際大(兵庫県三木市)で実践を見た。
(略)ノートの取り方やリポート作成法。こうした技術はひと昔前の学生なら、先輩から聞くなどして自分なりに体得した。だが少子化に伴う「大学全入時代」は、入試が多様になっているため、学科試験を受けずに入る学生も多い。「学習目的なし、学習意欲なし、学習習慣なし、学力なし、といった人も交じってしまう。中退を防ぎ、一緒に引っ張っていくには、1年生のときの初年次教育でみずから学ぶ技術を教え、自信とやる気をかき立ててやる必要がある」と、浜名篤学長は言う。
4年制の関西国際大は98年、短大を基盤にできた約1700人の小規模校。浜名さんが教授だった01年から試行錯誤で初年次教育を改善してきた。
まず学生は、卒業までの到達目標として「学習ベンチマーク」を示される。情報収集力、意見交換力といった15の能力をつけるよう要求され、授業はいずれかの目標に沿うよう組み立てられている。
(略)さらに関西国際大には二重、三重の支援態勢がある。
優秀な上級生が「メンター(助言者)」として1年生の力になる制度。教職員らが進学、留学、資格取得といったあらゆる相談にのる「学習支援センター」など。
「進路再考・不適応を理由にした中退者は、10年前から大幅に減った。それに1年生で自学習慣を身につけた学生は一貫して成績がいい。初年次教育の効果は大きい」と、浜名学長は自信を深めている。
(上記記事より)

■「(1)意欲引き出す 授業や行事」(読売オンライン)

学生のやる気を奮い起こすため、大学が知恵を絞る。
「おめでとう」「ようこそ」--。えんじ色のアカデミックガウンを着た浜名篤学長(51)が新入生を1人ずつ壇上に招き、手を握っては声をかけていた。4月2日、満開の桜に彩られた関西国際大学(兵庫県三木市)の入学式。学長に就任した3年前に始めた握手を、今年は427人と交わした。30分以上もかかる歓迎の儀式に、新入生たちは戸惑いながらも笑顔を見せる。
入学式後も「歓迎」は続く。学長や上級生らが南京町など神戸市内の観光地を1日がかりで案内する「神戸ウオーカー」、キャンパス内でのバーベキュー大会……。「本学生として、自信を持って一緒に学ぼうと伝えたい。そのための活動だ」と浜名学長は強調する。
同大が一貫して重点施策に掲げるのが「鉄は熱いうちに打て」だ。10年前の開学当時、無気力な学生が目立ち、退学率の高さにも悩んだ。4年間で一つでも「これならできる」という自信をつけて社会に送り出すには、入学直後からの戦略が欠かせない。次々と編み出された歓迎行事は、その第1弾だった。
開学の翌年には、成績優秀者の授業料の5~10%を免除する奨励金制度を創設。4年前には学習や資格取得、課外活動に力を入れるとポイントがたまるマイレージシステムも始めた。資格取得5~10ポイント、大学祭での活躍10ポイントといった具合だ。1000ポイントたまると米国研修旅行を贈る。その達成者はまだ1人だが、奨励金対象者は全体の2割前後を占める。
入学後の意欲を高めるこうした工夫で「面倒見のいい大学」という世評が広まり、昨年度の退学率は約4%と、3年前に比べて半減した。
(略)大学生に学ぶ意欲やコミュニケーション力を持たせるため、新入生を集中的に教育する「初年次教育」がここ数年、全国的な広がりを見せている。大学教育の質の保証が厳しく問われているからだ。学ぶ意欲を欠いたままでは中退者増にもつながり、学校経営を圧迫するという面もある。
(上記記事より)

朝日新聞と読売新聞が、同じ大学の取り組みを、ほとんど同じタイミングで紹介しています。
大学関係者や学生の保護者達が、「大学の面倒見のよさ」を気にし始める、今くらいの時期を狙っていたのかもしれません。

「大学生相手に、ここまでやってあげなくてはならないのか?」
……と考える人も、いるかもしれません。

こういった取り組みを行う背景として、よく引き合いに出されるのが、マーティン・トロウという研究者が提唱したモデル。一言で言えば、「大学進学率の上昇にともなって、大学の役割やあり方は変化していく」というものです。

該当年齢人口に占める大学在籍率が15%未満の状態では、大学は「エリート型」のシステムをとる。
15%~50%の段階になると「マス型」のシステムに移行する。
50%を超えると大学は「ユニバーサル・アクセス型」という段階を迎える。
こうして大学の在り方が移行していくのに伴い、入学者の能力や意欲も、大学の役割も、大学教育の在り方も、すべて変わってくるはずだ……と、そんな話です。
彼の名前を採って「トロウ・モデル」と呼ばれています。色々なところで引用されますから、おそらく皆様も、何度となく目にしていることでしょう。

でも、考えてみれば、当然ですよね。
全体の一割程度しか大学に行けない時代と、全体の半分以上が大学に行ける時代とで、大学の役割が同じなわけはありません。

日本は、まさにちょうど、「ユニバーサル・アクセス型」に入ったところ。
大学は、これまでとは異なる役割を担うべく、試行錯誤している真っ最中です。
「エリート型」「マス型」の時代に大学生だった年代の方々にとって、違和感を覚える部分があるのも無理はありません。
(特に大学教員の多くは、いつの時代においても、一般にエリート大学と呼ばれるような大学を卒業していますので、自分が「ユニバーサルアクセス型」の大学教育を担うということに抵抗を感じたり、イメージできなかったりすることもあるようです)

もっとも、「ユニバーサル・アクセス型」といっても、単に学習内容を易しくしたり、すべてにおいて大学側が学生を子ども扱いする必要があるかというと、そうではありません。卒業時までには、自ら考え、自ら調べ、自ら目的を探して行動する、一人前の大学生に鍛え上げて送り出さないといけません。

かつては、ある程度放っておいても、あるいは授業で突き放していても食らいついてきた学生達が、今では食らいついてこないというところが違うのです。
あるいは、食らいついてこなかったからといって、放置できるほど、大学には余裕はないというだけの話です。

賛否両論あるかもしれませんが、関西国際大学のようなアプローチの仕方は今後、全国の大学で増えていくでしょう。
きっと関西国際大学には全国の大学・短大から、視察団が殺到していることと思われます。

他、↓こんな報道もありました。

■「大学で『補習』 最多の33%」(MSN産経ニュース)

学生に高校時代の学習内容を教える補習授業を取り入れている大学は平成18年度時点で33%にあたる234校に上ったことが3日、文部科学省の調査で分かった。前年度より24校増え過去最多。「学生の質」向上に苦心する大学の現状が浮かぶ。
調査結果によると、通信制大や短大、学部生がいない大学院大を除いた国公私立大710校のうち234校が補習授業をしているほか、36%にあたる258校が学力別のクラス編成を導入。リポート作成や図書館利用の方法などを新入生に学ばせる「初年次教育」は71%にあたる501校が取り入れており、必要単位の取得とは別に進級・卒業試験を実施しているのは136校(19%)あった。
(上記記事より)

■「大学生の学習方法、7割の大学が指導」(NIKKEI NET)

文部科学省は3日、2006年度の大学の教育内容の改善状況調査の結果をまとめた。大学生活に円滑にとけ込ませるため新入生に基礎的な学習方法を教える「初年次教育」を実施している大学が全体の7割に達していることが判明。9月入学など4月以外の入学制度を学部段階で設けているのは全体の2割に当たる143校にとどまり、前年度より10校減った。
(略)初年次教育は、リポートの基本的な書き方や図書館での文献の探し方など、大学生活の基礎を教える。学ぶことの意味を考えさせるなど意欲向上を図るケースもある。実施は国立67校、公立45校、私立389校の計501校で、全体の71%に達した。
(上記記事より)

文科省の調査によれば、何らかの初年時教育を、71%の大学が実施ているそうです。

また高校時代の学習内容を教える補習授業、いわゆる「リメディアル教育」は、平成18年度で33%の大学が導入。
何割の学生がリメディアル教育を受けているのかも、知りたいところです。

最後に、↓こんなニュースをご紹介します。

■「通常の授業を見られる!全学共通教育授業を一般市民に広く公開する」(study.jp)

岩手大学では、今週末の6月6日(金)まで、全学共通教育の全授業科目を、教職員、保護者、一般市民に公開するという。
大学の関係者はもとより、近隣で興味のある人は、積極的に参加されてみてはいかがだろう。期間中は、大学構内・学生センター棟1階に受付を開設している。開講科目や時間帯はサイト内で確認できる。
(上記記事より)

国立大学法人としては、社会に対して、良質な教育を提供していることのPRにもなるでしょう。
入学前に、受験生が授業の様子を見られるという点でも画期的です。
入学後の新入生達が授業についていけているか、丁寧な授業が行われているかということが、外部の目にさらされるということですから、大学側にとってはかなりプレッシャーの大きい仕組みです。

ただ、授業の様子を見たいという保護者が訪れて、「授業参観」状態になったりする予感も。
実際、どんな方々が訪れるのか、気になります。

というわけで、大学が新入生に対して行っている取り組みをいくつかご紹介しました。
このほかにも、ユニークな事例がありましたら、ぜひ教えてください。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。