早大・社会科学部 夜間の授業を停止

マイスターです。

「夜学」、つまり大学の夜間コースが近年、次々に姿を消しています。

その象徴の一つでもあったこの学部も、いよいよ夜の役割を終えようとしているようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「早大の社会科学部が昼間部へ 消えゆく夜間部」(Asahi.com)

早稲田大は14日、社会科学部を来年度から、現行の昼夜開講制から昼間部に変更すると発表した。現在の開講時間は午後1時~9時10分だが、来年度からは午前9時~午後6時となる。早大では第二文学部も募集を停止しており、夜間部で残るのは、定員40人程度の文化構想学部夜間特別枠だけとなる。
(上記記事より)

勤労学生の減少を理由に、早稲田大学社会学部が現在の昼夜開講制をやめ、完全な昼間部に移行するという記事です。

早稲田大学社会科学部が昼間部になることは、以前から発表されていました。

■「2009年4月、早稲田大学社会科学部は、従来の昼夜開講制から昼間部に移行します。」(早稲田大学)

当学部は「社会に開かれた学部」という理念の実現方法の一つとして、1988年から社会人学士入学制度を導入し、生涯学習機関としての役割を担うとともに、昼夜の区別なく授業を任意に選択できる昼夜開講制をとり、原則として3時限(13:00~14:30)以降を授業時間帯としてまいりました。しかし、ここ数年、昼間時間帯の授業選択者の増加傾向が見られ、また、現在検討中の大幅なカリキュラム改革(後述)を実現するためには、1時限(9: 00~10:30)からの開講が必須との結論に至りました。
なお、昼間部移行後も学部の基本理念に変更はなく、生涯学習機関としての役割を積極的に担う環境を維持いたします。
(上記ページより)

……と、早稲田大学は説明しています。

「生涯学習機関としての役割を積極的に担う環境を維持いたします。」という部分が、具体的にどういう点を指すのかは、これだけではよく分かりません。
冒頭の記事を読む限り、「勤労学生がいなくなったから夜間部をやめます」というのが理由であるようですので、今後は社会人も学べる生涯学習機関ではなく、早稲田大学の普通の学部を目指しますということなのではないかと思われるのですが、どうなのでしょうか。

早稲田大学と言えば、夜間に開講されていた第二文学部が、学部再編でなくなったことも話題になりました。

早大に限らず、近年、大学が夜間部を少しずつ廃止してきているというのは、皆様もなんとなく感じておられるかと思います。

夜間部を廃止するところではその分、朝~夜までの幅広い時間に授業を開講する昼夜開講制の新学部を編成して、夜間授業の履修のみでも卒業できるような体制を敷くところもあるようです……が、早稲田大学は、その昼夜開講制すらも停止するとのこと。
これは、昼夜開講制をとっている他の大学にも、影響を与えそうです。

夜学が姿を消している理由はいくつかあります。

【需要がなくなったから】

これは、よく耳にする理由です。
昼間部は順調に学生を集められているのに対し、夜間部は定員割れしている。よって社会からのニーズがなくなったと判断し、廃止する……というものです。

これについては、大学によって事情が異なると思います。
確かに一部の大学の夜間部では、ひどい定員割れが起きています。ほんの数人のために昼間部と同じだけの授業数を準備したらコストがとても合いませんから、やむなく廃止の判断をするのもわかります。

しかし、夜間部が廃止される直前において、入試の競争率が数倍にもなっていた、という人気の夜学もあるようです。
それなりに学生を集めていたにもかかわらず、廃止になってしまうのは、何故でしょうか。

そこで、↓次の理由です。

【勤労学生が減り、本来の夜間部の意義がなくなってきたから】

夜学の場合、ただ学生を集められていればいいというものではない。勤労学生が通わなくなってしまったのであれば、昼の部だけでいいじゃないか……という理由で夜間部を廃止する大学ですね。

では、勤労学生の他にどういう方が夜学で学んでいるのかというと、「学費あるいは学力の問題で、昼間部に入れなかった学生」です。
一般的に夜学の学費は、昼に比べて安いです。昼間部と同じような内容を学べて、しかも安いのは、学生やその保護者からすれば魅力ですよね。
そして、夜間部は、昼間部に比べて入学難易度が低いと言われています。こう書くとなんだか下品な気もしますが、実のところ、この点に目をつけて夜学を志望する方も少なくないようです(安い学費で学びたかったことが学べるのですから、合理的な選択ではあります)。

今ではどこの大学の夜間部でも、勤労学生の比率は低下していると思われます。
例を挙げますと、2007年の入試で静岡大学人文学部経済学科(夜間主コース)が、前年度の新入生の就業率が低かったという理由で受験資格に「入学後の就労」を加えたところ、応募が昨年の半数以下となり定員割れしたということがありました。
しかし半数どころか、ひょっとすると中には勤労学生の比率が10%を切っている大学だってあるかもしれません。

勤労学生が減り、「昼の部に入る学力(や学費)がないから、夜間部に来た」という学生ばかりになってしまったことを受けて、夜間部の意義が薄れたと判断し、廃止に踏み切る大学はあるでしょう。

しかし、こういった大学の判断に対しては、「たとえ比率が少なくなったとしても、夜学を必要としている勤労学生はいるんだ。学ぶ機会を保証するためにも、大学の社会的な役割を考えれば、夜間部は廃止するべきではない」……という批判を寄せられる方も少なくないだろうと思います。もっともなご意見です。

そこで最後に、夜学が姿を消している、↓もう一つの理由をご紹介します。

【夜間部を維持するのはコスト的に割が合わないから】

夜間部と言っても、大学の正規の課程には違いありません。
したがって大学側は、昼間部で開講されている授業とそう変わらない質の授業を、そう変わらない数だけ用意する必要があります。
(実際には履修できる授業の種類等において昼間部の方が恵まれているケースが一般的です。しかしそれでも卒業までに必要な単位数は大体同じですし、必修科目を始め主要な授業はすべて夜間部にも置いてあるはずです)
そうなると、教育コストがかかるのです。

以下はかなり乱暴な計算ではありますが、イメージを掴むための参考まで。

例えば、昼間部は、定員200名で、年間の学費は100万円。夜間部は、定員80名で、年間の学費は60万円。学費のうち半分が授業のために使われる。このように想像してみてください。このそれぞれに同じ内容の授業を用意すると考えます。試しに卒業までに必要な単位数を120単位として計算してみましょう。

結果、昼間部では1億円で120単位を用意することになりますから、大学は1単位あたりに84万円かけられます。
一方、夜間部では2,400万円で120単位分の授業を行いますから、1単位あたり20万円しかかけられません。

これで夜間部が定員の半分しか学生を集められていなかったりすると、かけられるコストは1単位あたり10万円。なんと昼間部の1/8です。もちろん実際にはこんな単純計算は成立しないと思いますし、数字の大きさも大学によってかなり差があるでしょう。ただ、かけられるコストにこれだけの差があるということは想像していただけるかと思います。
こうなってくると、昼間部で稼いだ学費を夜間部に持ち出すということが行われるようになります。
(上記の数字はあくまでもイメージを掴むためのたとえですから、ぜひ皆様の大学の実情に合わせて計算してみてください)

夜間部はコストが低いからその分教育レベルを落としましょうとか、卒業までに必要な単位を半分にしましょうとかいう話ならともかく、大学でそれはできません。
それでなくとも少子化で大学の経営に陰りが見えているのです。昼間部すら生き残りをかけた再編に追われているわけで、まっさきに夜間部を整理の対象にする大学が出てくるのもわかるというものです。マイスターが思うに、夜学が減っている本当の理由は、これではないでしょうか。

(ちなみに、例外的に夜間の教育で伸びてきているのは社会人大学院ですが、これは経営モデルが学部教育と若干異なります)

以上、夜学が消えている理由を3点ほどご紹介しました。

とは言え、勤労学生に学びの機会を供給することは大学にとって非常に大事な使命です。コストがかかると言っても、社会的な役割として、そう簡単に廃止するわけにはいきません。

そこで現在は、例えば放送大学のような通信教育、特にインターネットを使ってのe-Learning(通信教育)を活用しようとしている大学が増えてきています。
もちろん、実際にキャンパスに通うことに魅力を感じる方は多いでしょうし、夜学が提供してきたものすべてをe-Learningで代用できるとは思えませんが、現状、夜間コースを維持することが、大学にとって大きな負担となっているのは確かです。
(「昼夜開講制」という方法を選択した早稲田大学社会科学部ですら、結局は夜間部の授業をやめるという決断に至ったのですから、経営的にこれがどれほど大変なことかは、想像していただけるのではないでしょうか)
今後、普段は通信教育で学びながら、スクーリングなどの機会でライブの教育の魅力にも触れられるようなスタイルに、大学はこれから力を入れていくのかなと思います。

一方で、シニアのようにこれまで大学に行っていなかった層や、高大連携による高校生のための授業、あるいは昼間部の大学生の「プラスアルファの学び」に、夜間部の時間帯を活用するということはあると思います。
従来型の夜学がなくなっていくことには寂しさも感じますが、個人的にはそういった大学の新しい役割に対応するために、夜間部は新たな形で生まれ変われるのではないか、という可能性も感じたりします。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 夜間部の授業は昼間部の教員が超過勤務という形で担当しているというのがほとんどだと思います。昼間部の教員が、大学改革で忙しくて夜間部の授業などできない(夜まで会議していたり、授業準備、雑用に追われている)という側面もあるのではないかと思います。

  • 東洋大学は二部に5学部9学科を擁し3,500人の二部生が在学しています。大学側は勤労学生が居る限り二部廃止はないと言い切ります。それどころか二部廃止が続く中で2010年から新たに国際地域学部の二部を新設しました。時代に逆行しているようですが、営利主義を離れた本来の大学の使命を大切にしている気がしてなりません。
    確かに財務における大学経営は重要な一要素だとは思いますがこの様な大学がまだ頑張っている事を忘れて欲しくありません。二部とはいえ教授陣は同じです。