マイスターです。
大学の学びは、通常、授業時間だけでは完結しません。
授業が終わった後も、図書館や情報端末で調べ物をしたり、関連図書や資料を読み込んだり、友達とグループワークをしたり、レポートをまとめたりといった作業が待っています。
というか、実は大学の学びの中心は、そちらです。
そのことは、大学設置基準にも記されています。
【大学設置基準 (昭和三十一年十月二十二日文部省令第二十八号)】
第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。
一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。
(総務省法令データ提供システムより。強調部分はマイスターによる)
この通り、大学の単位は「45時間の学習時間で1単位」という計算で与えられることになっています。
そしてこの45時間には、大学で受ける講義だけではなく、予習・復習や、与えられた課題を行う時間など、自学自習の分も含まれています。
■講義の場合
授業 15時間
自学自習 30時間
■実習の場合
授業 30時間
自学自習 15時間
※授業45時間で1単位、というケースもある。
このように実は講義の場合、授業で学んだ時間に対して2倍の自学自習をこなすことが、単位を与える前提になっています。実習や演習の場合は、機材を使うなど、自学自習が難しい場合もあるので、講義が占める割合の方が高くなります。
講義なら30時間の授業で2単位もらえますが、実習系の授業では1単位にしかなりません。でもその裏には「講義の場合、自学自習を2倍行わないといけない」というルールが、実はあるわけです。
(ちなみにこれに従うと、2単位を出す講義なら、1時間×15週×2=30時間の授業が必要だということになります。しかし実際には90分の授業を15週、つまり22.5時間程度の授業時間しか確保されていないのが普通です。ここでは「45分=1授業時間」なんだという、なんだか怪しい換算が使われています)
つまり何を申し上げたいかというと、こういった授業時間以外の「学び」を支える環境が、大学では重要だということです。
大学図書館が大事だということについては、誰も異論はないでしょう。
それと同様に、パソコンルームも大事ですし、グループワークを行える場所も大事なわけです。
授業を行う教室よりも、これらの場所で学ぶ時間の方が長いのですから。
というわけで、前置きが長くなりましたが、今日はこんな話題をご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「パソコン学習24時間キャンパス 嘉悦大(東京多摩)」(読売オンライン)
嘉悦大学(小平市)が7日から、キャンパスの一部を学生に常時開放する「24時間キャンパス」を始めた。主にインターネットを使った学習環境を整えるのが狙いで、同大の加藤寛学長は「他大学でもこうした動きが出てくるようになってほしい」と話している。
同大が、これまで学生にキャンパスを開放していたのは午後9時まで。同大は講義で使うノートパソコンを全学生に購入させ、学内全域に無線LANを導入している。しかし、自宅でネットを使えない学生からは「もっと遅くまで大学に残りたい」との要望も寄せられていた。
24時間キャンパスは、今年4月に就任したばかりの加藤学長が発案。対象は、昨春に改装したC棟(3階建て)の1、2階で、1階の食堂と2階の多目的スペースを開放する。最大約100人が利用できる。
午後9時以降も利用したい学生は当日、残留届を大学に提出。「残留カード」を受け取ると、夜間も自由に出入りできる。24時間化に伴い、大学の教員数人が当番制で滞在することにし、警備員の数も増やした。
加藤学長はパソコン学習の重要性を強調し、「世界は24時間動いていることを学生に認識してもらうためにも、学びに没頭できる環境を作ることは大学の役割」と話す。母校の慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC、神奈川県藤沢市)や、前任の千葉商科大学(千葉県市川市)でも24時間キャンパスを実現させてきた。
(略)同大経営経済学科2年の福士妙子さん(19)は「これからはもう少し遅くまで勉強できる」と期待し、同2年の村松夏樹さん(19)も「遠くに住む学生にとっては、遅くなりそうなときに泊まれるのでいいこと」と話していた。
(上記記事より)
嘉悦大学の事例です。
大学時代は、ときに寝食を忘れるほど夢中になって自分の研究に没頭したり、友人達と遅くまで議論を重ねて物事に取り組んだりできる貴重な時間。
しかし、キャンパス内でそれを許してくれる大学は、実はあまりありません。
4年生や大学院生であれば研究室に泊まり込むこともできますが、1~3年生くらいまではそうもいきません。深夜レストランや、誰かの家に集まるしかないわけです。
でも、学びの一環なのですから、本当はみんな、大学のキャンパスで過ごしたいわけです。
そんなわけで嘉悦大学では、学びに没頭して欲しいとの思いから、キャンパスの一部、昨春に改装した建物の「1階の食堂と2階の多目的スペース」を開放するそうです。
無線LANが整備されているとのことですから、ノートパソコンがあればネットも使えるのでしょう。
所定の書類を提出すれば、24時間居続けることが可能だそうです。
これって、図書館などを24時間開放することに比べたら単純なことです。
が、しかしこの単純なことが、大学ではなかなか実現しません。学生の安全を確保するための警備員や各種の設備など、面倒なことが発生するので、大抵の大学はそれだけでもう嫌がります。
「禁止ということにしましょう」と、一部の遺児や職員の方々の間で話されて終わりです。
でも、「24時間、作業をしていいスペース」があるというのは、学生にとっては結構、大きなことなのですよね。
図書館やパソコンルームが開いていればなお良いのですが、それが無理でも、グループワークやディスカッション、ある程度の軽作業に使えるスペースがあるというだけで、かなり違います。
(皆様が学生だったときのことを思い返していただければ、分かっていただけるかと思います)
授業のための学習や研究の他、学生による有志のプロジェクトを進める上でも便利でしょう。
なんて言うか、「学生時代の思い出」の風景も、かなり違ってくるのではないでしょうか。
「授業を与えられるだけの校舎」が、もうちょっと、熱い場所になるかもしれません。
この取り組みのスタートを記念するイベントの様子が嘉悦大学のwebサイトで紹介されているのですが、大学もその辺のことをよくおわかりのようで、熱い盛り上がりを演出しています。
■「24時間キャンパスの開始記念イベント「キックオフ24」開催!」(嘉悦大学)
メイン会場での、本学と慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)や千葉商科大学(CUC)など他の24時間キャンパスを結ぶインターネット中継あり、また、体育館前での『みやじ豚*』のバーベキュー大会ありの、趣向を凝らした記念イベントとなりました。24時間キャンパスの実現を心待ちにしていた多数の在学生が参加し、会場は大いに盛り上がりました。
他キャンパスとのインターネット中継による交流では、時間や場所に関係なく「他者とつながる、世界とつながる」その無限の可能性を実感しました。一人一台ノートパソコンを保有し、無線LANが張り巡らされているキャンパス環境に加え、昼夜問わずノートパソコンを活用した実習に取り組める環境が提供される、その大きな意味も感じてくれたはずです。
加藤寛学長は「大いに活用してください。キャンパスを24時間開放するのは、皆さんに勉学に励んでもらいたいからです。開放の成否は皆さんにかかっています」と話し、学びの意欲と自律精神を喚起しました。課題レポートの制作やグループ学習活動はもちろん、時間という概念から開放された、嘉悦大学ならではの学習活動のスタイルを作り上げていってくれることを期待します。
(上記記事より)
最初にこういうのがあると、このスペースの使い方が学生にもイメージできるでしょう。
(この当日、さっそく泊まり込むグループが現れたようですし)
警備員の確保などによって、これが可能になるというのなら、やらない手はありません。
他の大学でも、実現を検討されてみてはいかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
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※ところで上記のページにもあるように、この「24時間キャンパス」というキャッチフレーズは、慶應義塾大学SFCや千葉商科大学でも使われていたもの。
それもそのはず、導入を決めたのはSFCの初代学部長で、千葉商科大学の前学長も務めた加藤寛氏です。
キャンパスと学生の温度を上げる仕掛け作りがお好きなのだろうと思います。
色々な大学を渡り歩き、そのたびにこうして「これが自分の理想の大学だ!」という改革を実現させていく方というのは、なかなかユニークな存在です。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
金沢工業大学は色んなところが24時間解放どころか、夢工房なんて施設までありますね。そして、学内のいたるところにA2サイズのカラープリンタで枚数制限という条件付きで課金フリーの環境まであるようです。