大学と「ネーミングライツ」

マイスターです。

「ネーミングライツ」という言葉があります。
公共のホールなど、特定の施設に対する「施設命名権」のことで、このネーミングライツを外部の団体などに、期間限定で売るビジネスも盛んです。

例えば、よく知られているのは、サッカーなどで使われている「味の素スタジアム」。
正式には、東京都が所有する「東京スタジアム」なのですが、都がネーミングライツを導入。
現時点では、2014年2月末まで、「味の素スタジアム」という名称で呼ばれることになっています。

大勢の人に利用される施設の名前に、自社の企業名や商品名を冠すれば、大きな広告効果が見込めます。
何しろ競技の報道などではもちろん、道路標識から地図まで、様々なものの表記が変わるのですから。

さて、今日はこのネーミングライツに関するニュースをご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「熊本市民会館、7月から「崇城大学市民ホール」へ」(読売オンライン)

熊本市が再募集していた同市桜町の市民会館のネーミングライツ(施設命名権)の契約先が、崇城大学(熊本市池田)を運営する学校法人「君が淵学園」に内定した。6月議会での関連議案の可決を経て正式決定する。契約は7月から12年3月までの約4年間で、広告料収入は年額1500万円。施設名は「崇城大学市民ホール」となる。
(略)10日は記者会見があり、中山峰男・崇城大学長は「1500万円以上のPR効果があると思っている。学術的な分野で様々な情報を発信していきたい」と話した。幸山政史市長は「崇城大とは教育文化、まちづくりなどの分野で協定を結んでおり、共に市民が文化芸術に触れる機会の充実に努めたい」と述べた。
(上記記事より)

そんなわけで、崇城大学が、熊本市民会館のネーミングライツを取得。
4年間、同会館は「崇城大学市民ホール」になるそうです。

地域密着のイメージを打ち出す上では、一定の広告効果はあるのかも知れません。

ただ、あまりにしっくりきすぎていて、知らない人が見たら、大学が所有しているホールだと思いこむんじゃないか、という気もしないでもありません。
崇城大学キャンパスに行こうと思って道を聞いたら、このホールに案内された、とか。
公共施設のネーミングライツと大学というのは、道案内をしたりされたりする上では、けっこう紛らわしい取り合わせかもしれません。

ただ、市の文化施設ですと、あらゆる催し物のチラシやパンフレットに大学名が載るわけで、文化的な催しのイメージと大学名とがセットで流通するという点は、印象的には悪くないようにも思われます。

(関係者の方は、自分の名刺に「崇城大学市民ホール責任者 ○○」とか入れるのでしょうか。ううむ、大学のスタッフみたいですね)

ちなみに学校法人がネーミングライツを買った事例は、他にもあります。

■「中京大学文化市民会館」(名古屋市)

こちらは、本来の正式名称は「名古屋市民会館」。
見て分かるとおり、中京大学がネーミングライツを取得しています。

このように、大学が広告のために公共ホールのネーミングライツを取得する例があるわけですが、逆のパターンも考えられます。

大学内の体育館や競技場、ホールなどのネーミングライツを企業向けに売り出したら、一定の収入になるのではないでしょうか。

「大学内に企業名があるなんて……」と抵抗感を覚える方もいらっしゃると思います。
(普通は、創立者などの名前ですから)

ただ、ほとんど元手をかけずに収入を生み出し、それを大学の教育・研究の充実に充てられるということですから、メリットもあります。
その辺りをどう考えるかは、その大学次第です。

ちょっと調べてみたら、↓こんな報道も見つけました。

■「ハワイ大がネーミングライツを募集」(Hawaii mode)

7月26日木曜日にオアフ島はパールシティで開かれたハワイ州立大学教育システムの月例会議内において、体育学部の委員会がハワイ州立大学の体育学部施設にネーミングライツを募集することを提案したそう。ハワイ州立大の委員会内では、この動きを歓迎する動きが見られている。こうした背景にはハワイ州政府がハワイ州立大学に与える予算以上に収益を得て、施設を充実させようということからだ。ハワイ州立大学体育学部の学部長ハーマン・フレイザー氏は「我々は施設を充実させ、維持するために州の資金提供の枠組みを超えた新たな機会を求め続けていました」と発表した。また、体育学部はここ数年のハワイ州立大学のアメフト部が調子の良い事からネーミングライツもすんなり決まるだろうと見込んでいる。ネーミングライツにより得られた収入は、施設維持費はもとよりあらたな施設を建設する費用にまわされるとの事。
今回のハワイ州立大のネーミングライツを募集する施設はアメフト部の事務所が入っている複合施設、10の個人オフィス、アメフト部のヘッドコーチのオフィス、二つの会議室、視聴覚室と延べ3,500平方フィートもの施設がネーミングライツの募集を行うことが決定された。もし、全ての施設にネーミングライツの申し込みがあれば、州政府が支給する予算の110%をまかなう事になっておりハワイ州立大学側は大きな期待を寄せている。その内日本企業もネーミングライツを申し込んでトヨタオフィスやソニー会議室などという名前が出てくるかもしれない。また、ハワイでビジネスをしようとしている方々には会社の広告を兼ねた高い費用対効果に期待できる良いチャンスとなるだろう。
(上記記事より)

本当に州政府が支給する予算の110%をまかなえるとなったら、大学の財政が一変するでしょう。

日本の大学でも、こうした手法が使えるところはあるかもしれません。

考えてみたら、東大の「福武ホール」のように、寄付によって建てられた施設に企業や企業人の名前がついている事例はたくさんあるわけですから、ネーミングライツも案外、浸透するのかもしれません。
財政の安定化に悩む大学は、検討されてみてはいかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

2 件のコメント

  • 私大関係の者です。
    過去に同じことを考えていたので、非常に共感致しました。
    大きな話になりますが、日産スタジアムは、契約料が5年で23億5000万円(4億7000万円/年)、味の素スタジアムは5年で12億円(2億4000万年/年)とかなりの高額。自治体が運営する施設としては、渋谷区のC.C.レモンホールは契約期間5年で、契約料は年間8000万円。栃木県立の子ども総合科学館は年間3000万円です。
     大学においては、ドイツでは、教室名にネーミングライツを利用しているところもあるようです。企業にとっても、優秀な学生を集める絶好のPR機会とみなし、政府も、企業が個別の商品の宣伝をしない限り口出しをせず、むしろ教育分野にビジネス界が参入することを歓迎しているようだという記事を読んだことがあります。
    ただ、問題点としては、①大学側の「抵抗感」、②(就職という視点からの)他企業からの反応、③有名大学とそうではない大学との格差拡大、④価格の問題(小さな大学だとあまり広告効果はない?)
    等が挙げられるのではないかと思います。
    しかし、地域の企業を優先してネーミング・ライツを与えれば地域貢献の一環にもなるし、「キャンパスを一つのメディアと捉える」発想は、今後必要ではないかと考えています。

  • はじめまして。
    私も大学のネーミングライツへの取組みに非常に興味を持っています。
    しかし根本的なことをお伺いしたいのですが、大学とは本来、教育のためにある機関であると思います。そのため、こういった商業的な目的の戦略は学校法人として禁止されてはいないのでしょうか?
    もしおわかりでしたら、返信を頂けると幸いです。
    よろしくお願いします。