マイスターです。
4月も後半になりました。
どの大学でも、今月初め頃には入学式があったかと思います。
今日は、そんな入学式に関する話題をご紹介します。
■「東大入学式祝辞で安藤忠雄氏『親離れを』」(スポーツ報知)
東大の入学式が11日、東京都千代田区の日本武道館で開かれ、新入生の人数を大幅に上回る父母らで埋まった客席を前に、祝辞に立った建築家で特別栄誉教授の安藤忠雄さん(66)が「親離れをしてほしい」と新入生、父母双方に自立を促す一幕があった。
東大の入学式は毎年家族からの出席希望が多く、大学側は会場の広さから新入生1人に対し関係者は2人までに制限。それでも「3人以上で行きたい」といった問い合わせが数十件寄せられるといい、安藤さんの発言はこうした“過保護”な親子関係に苦言を呈した形だ。
この日の会場も新入生約3200人の周囲を、約5300人の父母らが席を埋め尽くした。安藤さんは祝辞の中で「自己を確立しない限り独創心は生まれない」と強調。「自立した個人をつくるため親は子どもを切り、子は親から離れてほしい」と訴えた。
(上記記事より)
↑こんな報道が、ちょっと話題になっているようです。
既に皆様も読まれたかも知れませんね。
この安藤氏の発言については、ネット上でも賛否両論ある模様です。
晴れて大学に合格した我が子を祝福したい、という保護者の気持ちもわかります。
その一方で、保護者の方が多い会場を見て、思わずこのようにコメントをしたくなった安藤氏の想いも、なんとなく想像できます。
というかおそらく安藤氏、この日に限らず普段から、「大学生なのに東大生は自立できていない」、と感じる機会が少なくないのだと思います。
安藤氏は高校卒業後、プロボクサーとしてためたファイトマネーで海外を旅しながら独学で建築を学び、最終的に世界的な評価を得て東大教授にまでのぼりつめたという異色の建築家。
(はい、マイスターも建築学科の学生だった頃は、そんな氏の生き方に憧れました。大好きな建築家の一人です)
まさに、自分の腕一本で戦ってきた方ですから、なおさらそんな思いを抱かれるのかも知れないなと想像します。
ところで保護者の参加が多いのは、東大に限った話ではありません。
2007年の産経新聞にも、こんな記事がありました。
大学の入学式に家族同伴で出席する新入生が年々増えている。今春の入学式では、両親や祖父母らの来場が予想を上回り、入場者数を急遽(きゅうきょ)制限して謝罪を迫られる大学もあった。“子離れ”“孫離れ”が遅くなる傾向は少子化の影響なのか? 大学は「マンモス入学式」への対応を迫られている。
今春の入学式で初めて入場者制限に踏み切ったのは、明治大、日本大、東洋大など。全国最多の学生数を誇る日大では、以前から式典を午前と午後の2回に分けて開催していたが、今回は日曜日に重なったこともあり、来場者が予想をオーバー。当日になって入場制限を決め、ホームページ上で「深くおわびします。今後繰り返さぬよう対策を講じます」と謝罪した。
東洋大は、来場者数の増加傾向を踏まえて「入場は1家族2人以内にしてほしい」と事前に周知。会場周辺の混雑に配慮し、開式を30分繰り下げた。いずれも、約1万5000人を収容できる日本武道館を会場としていた。
(略)来場者増加の背景について「一人っ子が増えて教育への関心が高まった」と少子化をあげる大学関係者は多い。「大学進学率が上昇し、小中高の入学式と同じ感覚になってきている」と専大の担当者。
(産経新聞 2007.5.27記事より)
このように、保護者が大学の入学式に参加するのは、今では特に珍しいことではないようです。
(※ちなみに海外はどうかというと、例えばアメリカの大学では、そもそも入学式というセレモニーが一般的ではないようです。
ただ、卒業式は盛大にやりますし(アカデミック・ガウンを着て、帽子を空に投げるアレです)、その際に家族が参加し、卒業を祝福するのは当たり前の光景だと聞きます)
マイスターも、「保護者がいつまでも子離れしない」という現状は、間違いなくあると思っていますし、
それは日本社会の、非常に良くない点だと考えます。
ただ、個人的には「入学式への列席」が、イコール「甘やかし」なのかというと、それはそうとも言い切れないんじゃないかな、という気がします。
祝うべき場面では、別に一緒に祝ってもいいんじゃないでしょうか。
それよりも、例えば大学生になって就職や進学をする際になっても、何かと子供を「教え導こう」とする保護者(ヘリコプター・ペアレンツ)の方が少なくないと思うのですが、そういった関係の方が問題ではないかと思います。
マイスターも大学で働いていた頃、「子供が熱を出した。授業を欠席扱いにして欲しいと教授に伝えて」といった保護者の方からの電話を何度も受けました。
子が困っているときにすぐ手を貸してしまうとか、悩んでいる姿を見かねてすぐに「(親が考えた)正解」を提示してしまうとか、そういった親子関係は、大学生ともなれば、健全とは言えません。
でも、案外、
「いくつになっても子供は子供だ」とか、
「失敗するくらいなら、親が手を貸して失敗を回避できた方が良い」
とかいったお考えを持っておられる保護者の方が、少なくないようです。
(個人的には、「親離れしない学生」よりも、「子離れできない親」の方が、日本社会のより深刻で根本的な問題だと思います)
そういったことの方が本質的で、解決すべき問題なのであって、入学式への参加がどうというのは、そんなに重要な議論ではないんじゃないかな……なんてマイスターは思ってしまうのです。
「祝福する場面では大いに祝ってあげる、でもそれ以外の部分は、いっさい口を出さない」
というのが、現代においては、比較的健全な親子関係かなと個人的には思うのですが、いかがでしょうか。
例えば、もしもマイスターが学長なら、
「これからの大学生活において、保護者の方が学生と行動を共にするのは、今日の入学式と、最後の卒業式の2日間だけです。その間は、いっさい本人のやることに口や手を出さないことを約束してください。それが子育てにおける、保護者の皆様の最後の役割であり、義務です」
……と話します。
東大の入学式では、安藤氏のスピーチに先立って、小宮山宏学長が
「新入生の幼いころを思い返し感慨もひとしおと思うが、入学式は親離れをして独立し、自らの道を切り開く旅立ちの日。温かく見守ってほしい」
(冒頭記事より)
と、会場の保護者達に呼び掛けたそうです。
個人的には、共感できるコメントです。
(おそらく、安藤氏も、一番伝えたかったことはこういうことなんじゃないかな……と思います)
ネット等で「入学式への参加」の是非が議論されているようですが、入学式に参加したいという保護者の方が多いのであれば、このように、いっそ4年間の教育上のミッションを大学と保護者が共有する場として活用した方が、建設的ですし、意味があるのではないかというのが、マイスターの意見です。
(※もちろん、そうは言ってもあまり大勢で来られると、大学の方も物理的に対応しきれないでしょうから、人数制限などは必要だと思いますけれど)
以上、冒頭のニュースを見て、そんなことを思ったマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。