マイスターです。
もう4月も半ば。
大学では、受験をくぐり抜けた新一年生の皆さんも、入学式やガイダンスなどを終え、友達をつくって学業に邁進し始めている頃のはず……ですが、ちょっとした混乱があったところがあるようです。
【今日の大学関連ニュース】
■「立命館、学生取りすぎ 補助金対策?他学部転籍募る」(Asahi.com)
立命館大(京都市)は14日、この春開設した生命科学部で定員280人の1.48倍にあたる415人が入学手続きをしたため、他学部への転籍を25人募ったことを明らかにした。学部に定員の1.4倍以上在籍していると国からの補助金がこの学部分は出ない。25人はこの基準を下回るようになる人数で、立命館大は「経営的な理由」があったことを認めている。ただ、転籍に応じたのは8人で、1.4倍は下回らなかった。
文部科学省によると、学部の転籍をめぐる法的規定はない。しかし、同省の担当者は「転籍先の学部を不合格となった受験生もいたわけで、入学直後に転籍させるのは入試の公正性からも良いとは言えない」とし、立命館大から事情を聴き、補助金目当てだった場合に違法性がないかどうかを検討するという。
同大学によると、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)にできた生命科学部には一般入試で9298人が志願し、2957人を合格とした。入学手続きをした学生は、推薦やAO入試も含め415人に達した。新設学部で過去のデータがなく、読みを誤ったという。
このため、今月2日のガイダンスで生命科学部の新入生に転籍の話を伝え、3~7日に受け付けた。薬学部に3人、法学部に2人、経済、経営、理工の各学部に1人ずつ計8人が転籍を希望し、面接をへて全員が認められ、すでに転籍先で授業を受けている。学費の差額は返し、学費が高い薬学部だけ追加徴収する。
文科省の私立大学等経常費補助金は5月1日時点の学生数などで決まるが、定員の1.4倍以上の学部の分は交付されない。立命館大によると、生命科学部の場合、「何千万円単位」のカットになる見込み。教学部の志磨慶子事務部長は転籍募集について「実験や実習のスペース、設備などが限られているという教育上の理由に加え、1.4倍を下回りたいという経営的な理由もあった」と説明した。93年に文、国際関係、94年に理工、99年に政策科学の各学部でも入学者が定員を大きく上回り、同じ理由で入学直後に転籍を募ったという。
関西大は07年度、新設した政策創造学部で定員超過率が1.46倍となり、補助金の交付を受けられなかった。同大学広報課は「新設学部はどれだけ入学するかの読みが難しい。でも、読みが外れたからといって転部を学生に求めるのは筋違い」とする。関西の別の私立大の事務担当者は「無条件に近い転籍を許したら、入試の意味とは何なのかと問われ、えらいことになる」と話す。
びわこ・くさつキャンパスにいた生命科学部1年の男子学生(19)は転籍募集について「新設された学部で、一度も授業を受けていないのになんで、と思った」。同学部の別の1年の男子学生(18)は「他の学部を希望していた人には良かったと思う。でも、転籍募集がない他学部の学生からすれば、不公平に思うでしょう」と話した。
(上記記事より)
立命館大学に関する報道です。
生命科学部に入学した直後の新一年生達に、転部を勧めたとのこと。
結果、8人が法学部や経済、経営学部などを含む他の学部に移動したそうです。
その理由として、大学は、
○適正な定員を著しくオーバーした状態では、実習などを行う関係で、教育上良くないから。
○学生数が定員の1.4倍を越えてしまうと補助金がカットされるから。
の、2点を挙げています。
後者の補助金に関しては、「何千万円単位」のカットになるわけですから、大学も相当事態を重く見たのでしょう。
また、このように定員を著しく超えた場合、色々なペナルティが科せられることがあります。例えば法政大学では、2008年度に開設する予定だった「スポーツ健康学部」が、開設延期を余儀なくされました。新学部の設置認可には、既設の各学部の直近4年間の入学者が定員の1.3倍未満でなければならないと定められているのですが、2007年度に開設したデザイン工学部が定員の1.37倍を越えてしまったのです。
「定員オーバー」について国がこういったペナルティを設けるのは、大学教育の質を一定水準に保つため。
各大学は、施設・設備の規模や教員の人数および専門分野などにもとづき、適切な教育ができる範囲として各学部・学科の定員を定めています。その定員を著しく超えて学生を入学させれば、教育の質が下がり、当初の予定通りの教育レベルが維持できません。
しかし実際には、定員ちょうどの人数が入るように大学側が計算しても、当局の予想以上に学生が入学を希望してきて、定員を多少超えてしまうことはあります。
そこで、その判断のラインとして、「定員の1.4倍」に線が引かれているわけです。
(ただ、少しでも多くの学生を入学させた方が学費収入が得られ、経営的には助かりますから、大学側は最初から「1.4倍を超えない範囲」で、定員をちょっと越えたくらいを目標にしていたりします)
立命館大学が言う、「適正な定員を著しくオーバーした状態では、実習などを行う関係で、教育上良くないから」、「学生数が定員の1.4倍を越えてしまうと補助金がカットされるから」という理由は、どちらも事実でしょう。
ただ、記事にもありますが、だからといってその是正を学生側に求めるのは、マイスターも筋違いではないかと思います。
好きな学部に転部できるというのは、生命科学部よりも、他の学部に進学したかった学生にとっては、悪くない話かも知れません。乗る学生も出てくるでしょう。
しかし、それなら問題はないのでしょうか。
例えば、生命科学部に一般入試で入学する学生は、英語の他、数学や理科を受験しています。
生命科学部に入学した後の学びでは、こうした科目の学力が必要だから、大学は試験を課しているわけです。
一方法学部の一般入試科目は、英語と国語、そして地理歴史、公民など。生命科学部とは、全然違います。転部した学生は一般入試であれAO・推薦であれ、法学部用の入試を受けていないわけですが、入学後、大丈夫なのでしょうか。
これって、立命館大学の入試はもともと「数」を集めるだけの入試であり、入学後の学びとは何の関係もありません、と大学が公言しているようなものなのでは……。
全然内容の違う学部への転部を認めるのも、「学生の希望で選ばせたんだから、どうなろうと学生の責任だ」という論理なのかも知れませんが、大学のミスによる「大学側の事情」を、そこまで学生の方に預けて良いのか、少々乱暴なのではないか……という気はします。
しかも、過去にも何度か、同様の調整を行ってきたとのこと。
入試のリスクを減らす、立命館大学独自のシステムなのかも知れませんが、各所で混乱も生んでいるのではないでしょうか。
新学部なので入学者数が読めなかったとのことですが、しょっちゅう定員を「著しく」オーバーしているのですから、そもそも立命館大学では、最初から定員ちょうどくらいに学生数をおさめようとしていないのかもしれません。そこまで行かなくても、「定員未充足」を避けるあまり、甘めの見積もりにはなってはいるんじゃないでしょうか。
でもその結果こうして混乱を生んでいるわけですから、やはり入試の運営方針について、見直しをする余地もあるのではと思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
マイスターのおっしゃるとおり,立命館の考える真の定員とは1.4倍なのでしょう。
法人化した国立大学も,最近は定員を超過した入学者になることも珍しくないですが,以前は定員ぴったりで合格者を発表していました。
私学だから『かなり』多めに最初から合格を出すということは,やはり許されないことではないと思います。
適切な教育ができる範囲=定員が先ず基本と思います。
今更この記事にコメント、すみません。まず、国立大学職員さんへ。「私学だから『かなり』多めに最初から合格を出すことは、やはり許されない」とあります。これは国立大学とは事情が全く異なるということを理解されてないと思います。国立と併願の多い大学では、そんなことをしていては定員割れ、追加合格の乱発となり、よりいっそうの混乱を招きます。きちんと、国立大、立命大、国立と併願がほとんどない私立大の合格者数と入学者数の比率を調べられてはどうでしょうか。
今更をもう一つ。今回の転籍問題、威張れたことではないのは間違いないと思います。が、そんなに問題でしょうか。少なくとも誰の権利も侵されていないことは重要な点です。一部の人が偶然ラッキーになるのがうらやましいからけしからんという向きの意見があり、これは私は筋違いと思います。一方で、補助金目的だからけしからんという意見があります。大学だってボランティアではありませんから、収支を考えて動くのはごく当然のことと思います。1億の収入の差が出るのに、「あーあ、超えちゃった。ま、仕方ないか」で終わるのは逆にあり得ないと思います。さらに、入学試験の内容と学びの内容のミスマッチがとありますが、それは実際に転籍をした学生の入試方式と合わせて、転籍を認めたことに対する議論をしないといけないと思います。本当に、移籍後の学生のことを考えずに「どんどん転籍しなさい」なら問題ですが、受け入れる側の学部からすればどんな学生でもいいと言うわけではありませんから、常識的なラインは形成されているのではないでしょうか。