大学の都心回帰が進む?

マイスターです。

進学先を選ぶ受験生にとって、特に気になることのひとつが、大学の立地。
4年間通うのですから、どこにあるかは重要ですよね。

逆に、大学側も、自分達の立地を非常に気にしています。
「この場所は、受験生にはどう評価されているんだろう?」と、いつも不安に思っています。

日本では一般的に、都心部にある大学の方が受験生獲得に有利、と思われているようです。
実際には、地方や郊外でも受験生からの人気を集めている大学はあるのですが、「まったく同じことをやろうとするのなら」都心部の方が受験生が集まりやすいという傾向はあるようです。

では、地方や郊外にキャンパスを持つ大学は、どうするか。
選択肢は、二つあります。

ひとつは、「地方や郊外でも受験生を集められるような教育をする」という路線。
実際、金沢工業大学や立命館アジア太平洋大学、国際教養大学といった事例が、ここ数年間で注目を集めました。これらは、「全国のどこにもない、オンリーワンの教育環境」を武器にして、受験生を集めています。

そしてもうひとつの選択肢は、大学を都心に移転させる、というものです。

【今日の大学関連ニュース】
■「キャンパス、都心回帰」(Asahi.com)

大学の「都心回帰」が進んできたと言われる。首都圏と近畿圏の都心で大学などの新増設を制限する法律が02年に撤廃されたのに伴う動きだ。都心回帰が新たな魅力を生み、志願者増など効果を上げた事例は多いが、高層キャンパスでは上下階の移動に時間がかかるなど課題も浮上している。「都心回帰」は何をもたらしたか。
共立女子大(東京都千代田区)の神田一ツ橋キャンパスは短大と併設中・高を含め8棟の建物からなる。講義室、研究室が最も集中しているのが、5年前にできた15階建ての本館だ。
同女子大は05年度まで、家政、文芸学部の1、2年と国際文化学部(当時)を八王子に置いていた。分断されているため専門教育の早期導入が難しく、移動に時間を取られて教員と学生のコミュニケーションも取りにくい。都心への集約で不便の解消と、新たな魅力作りを担ったのが本館だ。
成果は志願者数に表れた。河合塾によると、移転が始まる06年度の全3学部の志願者数は前年度より44.6%増えた。
(略)神戸市の中心、三宮駅から新交通システムで約10分。人工島・ポートアイランドに4大学が集まっている。元々あった神戸女子大・短大に加え昨年春、神戸学院、神戸夙川学院、兵庫医療の3大学が同時に進出した。「海上新都心」と呼ばれるこの一帯も、02年までは大学の新増設が規制されていた。
神戸学院大は同市郊外の有瀬キャンパスから、7学部のうち法など3学部の3年以上と薬学部の2年以上を移した。ラッシュ時はJR駅からバスで30分近くかかるうえ、6年制化された薬学部の増設も手狭になった有瀬では難しい。「受験人口が減るなか大学間競争に勝つには都心のキャンパスが必要」(ポートアイランドキャンパス事務センターの西脇隆雅・事務部長)と、同島に進出を決めた。
法学部4年の小倉聖(さとし)さん(22)はポートアイランドに拠点を持つ企業への就職が内定。「都心に移ったおかげで就職活動がやりやすかった。一日に複数社回ることができた」と話す。
甲南大も2月に新キャンパスを着工、来年春の新学部開設を目指している。
(上記記事より)

そんなわけで、一時期は郊外への流出が続いた大学の、「都心回帰」が目立ってきているようです。

ご存じでない方のためにご紹介しておきますと、かつては「工場等制限法」という法律で、首都圏および近畿圏では、大学等の教室の新設・増設は制限されていました。

首都圏の既成市街地における工業等の制限に関する法律」および「近畿圏の既成都市区域における工場等の制限に関する法律」のことを指しています。ともに、既成市街地への産業及び人口の過度の集中を防止し、都市環境の整備及び改善を図る、という目的でつくられた法律です。

「都市部に人口が集中しすぎているから、人口を増やす原因である大学はもう作るな」

ということですね。「首都圏の…」の方は、1960年(昭和34年)に、「近畿圏の…」はその5年後に作られました。まさに、高度経済成長期の出来事でした。

この法律があるため、長い間、大学は都心部に学部を増設することができなかったのです(大学院は除く)。都心部の地価の上昇なども大きな要因だったと思いますが、都心にあった歴史ある大学がこぞって郊外に移転していった背景として、この法律の存在も大きかったわけです。大学の規模を拡大していこうと思ったら、郊外に出るしかありませんからね。

しかし、状況は違ってきました。

大学で言えば、18歳人口の減少で、悠長なことは言ってられなくなりました。社会人学生への対応や、産学連携などを進めていく必要も生まれてきましたし、「都心の魅力あるキャンパス」というポイントで学生を集めなければならなくなりました。

一方都市の側も、バブル崩壊後は企業が本社を都心から移転させるなどの動きが相次ぎ、空洞化が問題視されるようになりました。都市の競争力が落ちてきたのですね。
(だから昨今、品川や汐留、六本木などをはじめとした大規模開発をやって、また人を都心に呼び込もうとしているのです)

そんな時代の変化もあり、2002年(平成14年)に、この工場等制限法は廃止されたのです。
大学が今、「都心回帰」を起こしている背景には、こんな法律の影響もあるわけです。

国土交通省の「首都圏整備に関する年次報告」でも、昨年はこういった大学の動きに焦点を当てていました。

■「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版 首都圏白書) 第1章第2節:産業及び大学の立地の動向(PDF)」(国土交通省)

この報告では、大学の都心回帰について、以下のように分析しています。

東京圏と東京都の大学数や学生数の増減率を比較すると、これまで概ね東京都よりも東京圏の方が増加率が高い傾向にあったが、平成17年度は東京圏よりも東京都の増加率が高くなっている。
(略) また、平成16年度より設置されている法科大学院や専門職大学院は、東京都に立地する割合が高くなっている。東京都に立地している法科大学院の対全国シェアは32%、専門職大学院の対全国シェアは50%となっている。
(「平成17年度 首都圏整備に関する年次報告(平成18年版 首都圏白書) 第1章第2節:産業及び大学の立地の動向(PDF)」(国土交通省)より)

つまり、首都圏内でも特に「東京都内」で大学生が増えていること、その要因として専門職大学院の存在を指摘しています。

また先ほど申し上げた工場等制限法に加え、

○18歳人口の減少により学生確保が困難になりつつあること
○平成14年7月の工場等制限制度廃止による大学の立地に係る規制の緩和
○地価下落と土地の流動化
○公共交通の利便性
○OB等との交流のしやすさ
○外部人材の講師等としての活用のしやすさ
○キャンパスの集約化によるコスト削減

などを、大学「都心回帰」の理由に挙げています。

しかし一方で、かつて大学を誘致し、大学との連携で地域振興を行ってきた郊外の都市からすれば、こうした移転はたまったものではありません。

大学を誘致した地方にとって、人口減になる都心回帰は損失だ。社会貢献を掲げる大学としても、地方を軽視はできない。
群馬県板倉町は東洋大(東京都文京区)に10億円を補助して97年にキャンパス開設にこぎつけた。ところが昨年末、2学部のうち国際地域学部を09年、文京区のキャンパスに移す計画が同大から示された。
残る生命科学部は同時に1学科から3学科に拡充する計画だが、縮小への不安が住民に広がり、町は学生数の維持を要望。町主催の住民説明会には、松尾友矩(とものり)学長らが自ら出向いた。
松尾学長は「地元の支援で開設できた経緯もある」。地域活性化研究所を残すなど協力を続けるという。
■「キャンパス、都心回帰」(Asahi.com)記事より)

冒頭の記事でも、↑こんな例が紹介されています。

大学というのは、経済的な影響の点でも、都市計画上も、自治体にとって大きな存在。移転の影響は無視できません。実際、市区町村の都市計画マスタープランを見てみると、「大学を中心とした文教地区の形成」みたいなコンセプトが、よく都市計画の柱の一つとして書かれていたりします。

選挙の公約として、「大学の誘致」を持ち出す政治家がたまにいるのも、大学が来ることによる地域活性化が期待できるからです。
(ちなみに、大学を誘致するために巨額の税金をつぎこんできた自治体というのも全国には少なくないと思われます。行政や政治家など、大学がいなくなったら立場がなくなる人達も、おそらく大勢います)

特に教職員や学生を支えてきた商店街などにとっては、移転は死活問題でしょう。規模が大きく、学生数が多い総合大学であれば、なおさらです。

でも、大学にとっても、学生募集や経営資源の最適化のために、キャンパスの移転や整理は最重要課題のはず。
地元ととのこれまでの信頼関係は大事かもしれませんが、だからといって移転をしないわけにもいかないのでしょう。

大学の関係者も、自治体の方々も、おそらく以前は「大学の経営がピンチに追い込まれる」という事態を想定していなかったのだと思います。色々な意味で、甘えの構造が生まれたところもあったかも知れません。
しかし時代が変わったこれからは、依存し合うだけではダメなのでしょう。

「どうすれば両者が一体となって、より競争力のある大学や街を作り出せるか」という発想で考えていかなければ、双方共倒れになる可能性だって、ないとは言えません。
神戸のポートアイランドのように、隣接地に他の大学を誘致し、全体として魅力のある文教地区をつくる、なんて取り組みも、参考になるかも知れません。

※こちらも参考として:ニュースクリップ[-2/3] 「国公立大志願 中間集計 出足鈍く0.8倍に」ほか

以上、マイスターでした。

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※なお冒頭でご紹介した記事では、「学生数ベースで見れば、やっぱり都心回帰よりも、郊外に出て行く大学の方が多い」という指摘も紹介されています。ご興味のある方はどうぞ。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。