マイスターです。
ちょうど一年ほど前、東京の理工系私立大学として知られる武蔵工業大学が、東横学園女子短大と統合するという発表がありました。
東横女子短大「保育学科」および「ライフデザイン学科」を、武蔵工業大学「人間科学部」および「都市生活学部」の2学部とするという内容で、当時、大学関係者(特に理工系)の間では、ちょっとした話題になりました。
両校は同じ学校法人(五島育英会)の経営ですので、系列校の関係にあたります。
ですので統合自体は、それほど予想外のものではなかったのかもしれません。
ただ、理工系の大学が文系の短大を新学部として統合し、「脱・工業大学」をはかるというのは、時代を象徴しているようでもあり、なにか印象的な動きであるように感じられます。
「武蔵工業大学」という理工系の名前も、やっぱり総合大学らしいものに変えるのかな、と思っていたのですが、今回、その名称がお披露目になったようです。
【今日の大学関連ニュース】
■「武蔵工業大が東京都市大に名称変更 系列校も」(MSN産経ニュース)
学校法人五島育英会(東京都渋谷区、山口裕啓理事長)は14日、運営している武蔵工業大(東京都世田谷区)と東横学園女子短大(世田谷区)を平成21年4月に統合した上で、東京都市大に名称を変更すると発表した。
これに合わせ、五島育英会が運営する幼稚園から高校までの計7校・園も同時に東京都市大を冠した名称に変える。五島育英会は「学校間の連携を強化し、ブランド力も高めたい」としている。
(上記記事より)
そんなわけで、新しい大学名は、「東京都市大学」だそうです。
↓こちらが、学校法人によるプレスリリース。
■「武蔵工業大学の名称変更並びにこれに伴う設置学校の名称変更について」(学校法人五島育英会)
系列校の名称もすべて変わり、今後は、「東京都市大学グループ 」というイメージを社会に打ち出していくことになるようです。
漫画や小説、映画などで、実在しない架空の大学として、しばしば「東都大学」という名称が使われることがあるのですが(「白い巨塔」とか)、今後はこの名前をフィクションに登場させるのは、控えた方が良さそうです。東京都市大学からクレームが来るかも知れません。
(※東京都市大学自身は、「都市大」が略称であると発表しています)
新しい学部構成は、以下の通り。
【東京都市大学】
・工学部
・知識工学部
・環境情報学部
・都市生活学部
・人間科学部
世間的には、「東京都市大学」という名称は、「都市を学問として学ぶ大学」という意味に受け取られるでしょうか。
だとすると、首都大学東京などと混同されることがありそうです。
首都大学東京の「都市教養学部」や「都市環境学部」がそうであるように、東京都市大学の場合も、知らない人が見たら、まず最初に「都市生活学部」に目が行くかも知れませんね。
また、武蔵工業大学は、その名の通り、工科系大学として知られています。
現在は、例えば↓こんなグループを形成する一角でもあります。
このあたり、今後はどうするのでしょうか。
「工業大学」のイメージから脱却するためにわざわざ名称を変えたのであれば、「東京4理工大学」というラベリングは邪魔になるようにも思えます。
でも、工科系に強い大学であることには変わりがないわけですし……うーん。
ちなみに、同じ「東京4理工」に属する工学院大学が、英語での愛称として「TOKYO URBAN TECH」という名前を打ち出しているのですが、今後、ものすごく紛らわしいことになりそうです。
(東京都市大学の関係者の方々も、おそらくご存じだったかと思うのですが……大丈夫なのかな?)
マイスターが一年前に、武蔵工業大学の同窓会である「武蔵工業会」のwebサイトを見たときには、↓こんな文章が掲載されていました。
■「武蔵工業大学 大学改革案に対する中村学長の説明(抜粋)」(武蔵工業会)
……その後一番の関心事である校名問題に触れた。
まず「大学名称変更の賛否両論」として、賛成意見では
① 広がった専門分野と名称は一致すべき、
② 女子学生など新規需要層を招じいれる名称に 、
③ 小・中・高を抱える総合学園として使える統一的な名称にすべき、
④ 呼び間違えられたり混同されたりする名称は好ましくない、
⑤ 名称変更が大学の一段の飛躍につながるのでは
等があり、反対意見では
① 歴史を持ち、すでに定着した名称は保持すべき、
② 武蔵工業大学に代わる良い名称はあるのか 、
③ 名称変更に大きな費用がかかる
との説明があった。
(上記記事より)
「武蔵」の文字が名称に含まれる大学はとても多いのです。武蔵工業大学のほか、武蔵大学、武蔵野大学、武蔵野美術大学、武蔵野音楽大学があります。「呼び間違えられたり混同されたりする名称」というのは、以前から同大関係者の悩みだったわけですね。
また「女子学生など新規需要層を招じいれる」というのも、理工系大学にとっては重要な関心事です。近年、全国的に工学部の受験生は減少する傾向にあります(ものづくり離れ、なんて報道されることもあります)。新しいマーケットを開拓したいという危機感を覚えているところは少なくないでしょう。
武蔵工業大学は10年前に、いわゆる文系コースの高校生にも意識を向けた環境情報学部を設立しています。「脱・工科系単科大学」という思いは、他より強かったのかもしれません。
(ちなみにこの、一年前の同窓会webサイトでは、その時点での第一候補として「武蔵都市大学」という名称が挙げられていました。その後、「武蔵」より「東京」がいいという結論になったのでしょうか)
ただ、OB、OGの間では、大学名の変更には、抵抗感もあったかも知れません。
これは、東京都市大学に限らず、常にどの学校でも起きることです。
マイスターはさっき知ったのですが、今回の正式発表の何ヶ月も前から、掲示板サイトなどでこの「東京都市大学」の名称の是非が話し合われていたようです。
■「校名変更:東京都市大学付属中学高等学校」(inter-edu)
卒業生達からすれば、愛着のある母校の名称が変わってしまうのは、寂しいと思います。
既に社会で活躍しているOB・OGからは、
「伝統ある、昔からの名称で、私達の大学は社会から評価を受けているんだ。変える必要がどこにあるのか?
安易に名称を変えたら、それらの評価を失うことにもなりかねない!」
……といった主張もあるでしょう。これは、もっともです。
新しい大学名は、完全に、工業大学であったことを感じさせない名称となっています。<脱・工科系>を標榜すれば当然の流れではあります。
しかし同大には、産業界に対してこれまで築き上げてきた、優秀な技術者養成機関としてのイメージもあるはずです。それを捨てることにつながりかねないだけに、この名称変更は結構大きな賭けになるかもしれません。
(実際、卒業生からの反対意見を受けて、校名を維持した学校だってあると思います)
しかし一方で、大学間競争が激化する現状の中、大学にとっては、「どんな名称が受験生に受けるか」という、受験生へのマーケティング的なポイントがやっぱり気になるところ。
そもそも、必要がないのなら、変えようなんて考えないでしょうし。
学内で、相当議論があったと思います。
そんな、多くの議論の結果としての、「東京都市大学」なのでしょう。
今後、大学は各ステークホルダーに対して、「生まれ変わった」という部分と、「これまでと変わりません」という部分の両方を、うまく伝えていかなければなりません。
果たして、うまくメリットを打ち出し、デメリットを抑えられるのか。
その結果は、今後の受験生数や、学生の就職率として表れてくると思います。
(もしかしたら、「何にも変わらない」という結果になるかも知れません)
全国の理工系大学関係者の注目を集める事例だと思います。
以上、マイスターでした。
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(おまけ)
学校法人五島育英会webサイトのお知らせ欄には、3/15現在、こんな↓2本のリリースが掲載されています。
■「武蔵工業大学の名称変更並びにこれに伴う設置学校の名称変更について(3/14)」(学校法人五島育英会)
■「武蔵工業大学 ホームページサービス 一時停止のお知らせ(3/14)」(学校法人五島育英会)
武蔵工業大学(世田谷キャンパス)では、電気工作物の法定点検による停電のため同大学ホームページが下記の期間中,利用できなくなります。
停止期間中はご迷惑をおかけいたしますが,ご理解・ご協力のほど宜しくお願いいたします。
2008年3月15日(土)20:00PM ~ 16日(日) 20:00PM(JST 日本標準時)
2008年3月22日(土)20:00PM ~ 23日(日) 20:00PM(JST 日本標準時)
(上記リリースより)
学園名称変更の発表と、大学webサーバー停止のタイミングが、ばっちり重なっています。
そのため、マイスターがこのブログを書いている時点では、(環境情報学部のページを除いて)大学のwebサイトは見られていません。
新しい校名が新聞などのメディアにニュースとして取り上げられ、それを世間の多くの方が見るのはだいたい3/15です。
その瞬間に、大学のメインのwebサイトが見られないというのは、あんまり良いことではないような。
(管轄している部署が違ったために、こんなことになったのでしょうか?)
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。