マイスターです。
大学というのは、商品として考えてみると、色々と特殊な性質を持っています。
「値段に見合う商品かどうか」というのは、買う(入学する)前には、わかりません。
それどころか、入学して、通っている間も、わかりません。
卒業し、何年も経ってから、ようやく「あの大学の教育を受けて良かった」と判断できるのです。
そして基本的に、大学の場合、一度買ったら、交換や返品はききません。
退学したり、他大学に編入したりする人も増えてはいますが、日本ではまだまだ少数派。
そんな中、受験生達は、少ない情報を元に進学先を選んでいます。
ですので最近は大学も、受験生に大学を体感してもらう機会を積極的に用意しています。
例えばオープンキャンパスや公開授業、一日入学体験、実験・工作体験などもそうですね。
プログラムそのものだけではなく、こういったイベントを通じ、教職員や学生の皆さんとコミュニケーションできるという利点もあります。
こうした体験が結果的に、将来の夢や目標を見つけたり目的意識を持つきっかけになることもありますので、受験生の皆さんは大いに活用してください。
さて、こうした取り組みの中で、ちょっと新鮮なものを見つけたので、ご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「中高生が外科手術体験…高知大医学部」(読売オンライン)
高知大学医学部付属病院(高知県南国市岡豊町小蓮)で、中高生対象の外科手術体験セミナーが2日間にわたって開かれた。外科医らを講師に、切除した鶏肉を縫合するなど本格的な講座で、県内外から抽選で選ばれた57人が参加。生徒たちは「現場の緊張感を味わえた」と満足そうだった。
地方で医師不足が深刻となる中、外科医の仕事や医療に興味を持ってもらおうと、同病院が昨年から始めた。手術着に着替えた生徒たちは5グループに分かれ、外科の基本の縫合や、画面を見ながら仮想の内視鏡手術をするシミュレーターなど5過程を30分ずつ体験した。
生徒たちは実際の手術と同様に、ひじまで念入りに消毒して手術室へ。医師が手術台に置かれた鶏肉にメスを入れると、生徒たちは初めて見るメスの切れ味に「すごい」と驚きの声を上げ、素早く美しい縫合の技に見入った。
実際に生徒たちが縫合してみると、細い糸に手こずっている様子。医師らは「もっと指の力を抜いて」とアドバイスを送った。
臓器に触れているような感触が得られ、医師が練習に使うシミュレーター装置での体験もあった。男子生徒は胆道の切除に挑戦。切除場所を間違って出血させてしまったが、医師に応急処置法を教えてもらい、手術が“成功”するとほっとしたような表情を浮かべた。
普段触れることのない医療技術を目の当たりにした生徒たちは「医師のイメージがはっきりした」「見た目以上に技術が要求される」などと話していた。高知市立旭中3年の矢野裕子さん(15)は「テレビで見るのとは違う。様々な機器があって、手術現場の緊張感も味わえた。医者になりたいという気持ちが大きくなりました」と目を輝かせていた。
(上記記事より)
中高生のための、
外科手術体験。
高知大学医学部付属病院による取り組みです。
当日のプログラムの様子が、病院のwebサイトで詳しくレポートされています。
■「中・高生対象に『外科手術体験セミナー』開催」(高知大学医学部付属病院)
高知大学医学部附属病院では2008年1月26日・27日の2日間、地域社会貢献活動の一環として地域の中・高生を対象とした「外科手術体験セミナー」を昨年に引き続き開催しました。今年は新たに産科婦人科、麻酔科も指導に加わって、2日間で計57名(男性 15名、女性42名)の参加者があり好評を博しました。
初めに外科の歴史や仕事内容など外科医の魅力について紹介し、内視鏡手術など最新の外科治療や産科婦人科の仕事などについての解説を行ないました。その後手術着に着替え、手術室において鶏肉を用いた超音波凝固メスによる模擬手術体験や、 最新の内視鏡外科手術トレーニング装置による手術手技操作、手術用縫合糸による縫合・結紮練習など工夫され た5つのプログラムを体験しました。
麻酔医指導による人体モデルを用いた気管挿管では、うまく気管に挿管でき肺が膨らむと拍手が起こるなど、医療技術の難しさに四苦八苦しながらもあちこちで歓声があがっていました。
医師不足が言われるなか、一人でも多くの中・高生に、医師の仕事や医療に対する興味を抱く機会を与えられればという思いで企画したものですが、参加者からは「とても興味深くいい体験になりました。将来は医師を目指したいです。」などの感想が寄せられました。
(上記リンクより)
メスなどを使っての切除や縫合(※切るのは鶏肉)、内視鏡手術シミュレーションなど、医学部の学生にならないと体験できないような本格プログラムです。
応募者も女性の方が多かったのか、あるいは「女医を増やす」というミッションによるものなのかはわかりませんが、女性の参加者がとても多いですね。
上記のページからは、プログラムの様子を撮影した映像も見ることができますので、ぜひダウンロードしてご覧ください。
本物の手術風景と同じ服装、同じ器具を使っての擬似体験。鶏肉を使ってのシミュレーションではありますが、例えば理科で行うカエルの解剖とはまるで違う次元の経験として、生徒の中に残ると思います。
このプログラム、非常に良い取り組みだと思います。
「医師になりたい」という中高生は、世の中、少なくありません。
しかし、医学部を志望する際、実際の医療に対しどのくらいのイメージを持っているかは、人によって差があると思います。
医療の現状や問題についてほとんど何も知らないまま、漠然と「成績が良かったから医学部を受けた」なんて人も、少なくないんじゃないでしょうか。
そんな中、こういったプログラムを通じ、リアルに医師の医療行為を体験できるというのは、大いに意味があることだと思います。
もちろん、本当の医療行為というのは、医師になるまでは体験できませんから、限界はあります。表面的に手術を体験するに留まるかも知れません。また、外科手術だけが医療行為だというわけでもないでしょうから、他の取り組みを通じてでも、医療を知ることはできます。
しかし、実際に手術室に入り、周囲のスタッフが見守る中、自分でメスを握るという体験には、圧倒的なリアリティがあります。手術室の緊張感も、体で知ることができます。
また本物の医師と、手術を体験しながらコミュニケーションできるというのも、貴重な機会だと思います。
(上記のページの映像には、おそらく本物の医師であるスタッフが、参加している生徒に「○○先生、お願いします」と語りかけているシーンがありました)
医師による手術の「実演」を見ることができるだけでも、すごいことです。
当日は、「どのくらい練習したんですか?」とか、「失敗したことはありますか?」とか、そんな質問もできたのではないかと思います。
このプログラムに参加することで、医療に関わっている人達を、よりリアルに想像できるようになるという点は、大きなメリット。
医師を志し、医学部進学を考えている生徒にとって、これ以上大切なことはありませんよね。
こうした体験をしたら、例えば、医療ミスなどのニュースを見る目も、変わってくるでしょう。
それまでより、少し深く考えてニュースを読むようになるかも知れません。
(私たちのような社会人も、医療を語るためのリテラシーを身につけるために、こうした体験をした方がいいかもしれませんね)
ただ、遊び半分で体験させたら、かえって悪い影響を与えてしまうこともあるでしょうから、医師という職業や、医療に対して関心を持った生徒に限定した方が良いのでしょうね。
高知大学病院は、昨年からこの企画を始めたそうです。
マイスターは今回、こういったイベントを初めて知ったのですが、他でも、いくつか事例があったりするのでしょうか。
手間もかかるでしょうし、準備も大変だと思いますが、ぜひ、他の大学でも行ってみてはいかがでしょうか。
参加者から、確かな反応が返ってくるのではないかと思います。
以上、マイスターでした。
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【2008.3.4 追記】
この記事を書いた翌日、↓こんな報道がありました。
■「徳島大学病院で医師志望の高校生が模擬手術体験(徳島)」(読売オンライン)
こちらも、参加した高校生達に、とても好評だったようです。
高知大学病院は昨年からで、徳島大学病院は今年からのスタートですから、影響を受けたのかもしれませんね。
こういう形で取り組みが広がっていくのは、良いことだと思います。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。