京大の有名人 折田先生(像)

マイスターです。

大学ではしばしば、独自の文化が生まれます。

誰が始めたのかわからない、ちょっとした行為が、その後、連綿とキャンパスで受け継がれていく伝統になることがあります。
例えば、慶應義塾大学の、二つのペンが重なり合った学章。一説には、あれは当時の学生達がデザインし、帽子につけて歩いたのが由来だと聞きます。
(異説もあるようです。詳しくはこちらをご覧ください

「ちょっと目立ちたい」、「周りを楽しませたい」というサービス精神。
少しのユーモアや反骨精神。
そんなこんなが混じって、しばしば面白い伝統や文化が生まれるようです。

しかし、それがときに他の人を仰天させるような行為や、迷惑行為を伴っている場合もあります。

そんなわけで今日は、様々な賛同や批判を集めつつ、京都大学で現在も進行中の、「ある行為」をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「『てんどんまん』に大変身 京大の折田先生像 受験生を出迎え」(京都新聞)

京都市左京区の京都大吉田南キャンパスに25日、入試シーズン恒例となったアニメのキャラクターに変身した「折田先生像」が登場した。今年は「それいけ!アンパンマン」に出てくる「てんどんまん」が、同日始まった2次試験の受験生を出迎えた。
いたずらで変身させられた旧制三高の初代校長・折田彦市氏の銅像にちなみ、「自由の学風」を築いた氏をしのんで、アニメのキャラクターを模した張りぼて像が置かれるようになった。
てんどんまんの横には「京大に、愛と勇気だけの学風を築くために多大な功績を残した。どうか彼のごはんを残さないでください」とメッセージを記した看板も立てられている。
揺らぐ食への信頼も背景に制作されたとみられるが、折田先生を知らない受験生たちは、不思議そうに像を眺めていた。
(上記記事より)

この「折田先生像」のことをご存じの方は、どのくらいいらっしゃるのでしょうか。

知らない方のために、ふたつのサイトをご紹介します。

ひとつめは、Wikipediaの記述。
(学術的なレポートに利用するには難有りのWikipediaですが、こういった、学術的に研究されなさそうな情報をざっくりと知りたいときには、力を発揮します。)

まずは、銅像のもともとのモチーフである、折田彦市氏について。

折田彦市(おりた ひこいち、嘉永2年1月4日(1849年1月27日) – 1920年(大正9年)1月26日)は、日本の教育者。第三高等学校の初代校長であり、1880年~1885年、1887年~1910年の長期にわたって校長を務め(第三高等学校になったのは1894年)、旧制三高の自由な学風を築いたとされる人物。
折田彦市 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

第三高等学校というのは、京都大学の前身となった旧制高校のことです。

つまり「折田先生」とは、京都大学史に残る、偉大な人物。
京大関係者にとっては、尊敬の対象となる方のはず。

それがいかなる経緯で、「てんどんまん」になってしまったのか?

その秘密は、折田先生ご本人ではなく、後に京都大学キャンパス内に設置された、「折田先生像」にあるのです。

折田先生像(おりたせんせいぞう)は、京都大学に設置されていた銅像である。京都大学の前身の一つである第三高等学校の初代校長を務めた折田彦市(おりた ひこいち)の業績を讃えるために製作された。しかしその後、派手な落書き(オブジェ化)が相続き、有名になった。
遅くとも1986年には顔を赤くスプレーされ、台座に「怒る人」と落書きされた、その後の姿に比べれば比較的シンプルなバージョンが存在しており、一部で「京大の『怒る人』」として知られていたと言われる。これは比較的長い期間放置されていたが、その後、何者かが赤い顔を青に塗り替え、台座に「怒らないで」と上書きした。これを機に、一連の落書きの連鎖が始まることになる。
(略)その後も折田先生像への落書きは一種の文化のように継承され、回を追うごとにエスカレートしていき、一部では銅像アートと呼ばれるさまざまな作品を残した。
折田先生像 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』。強調部分はマイスターによる

実際に、「折田先生像」でどのような落書き合戦が繰り広げられたのか。
それについては、以下のサイトが詳しいです。

■折田先生を讃える会

↓こちらに、像の変身の履歴が、写真付きで紹介されていますので、ご覧ください。

■「像の履歴(年表)」(折田先生を讃える会)

……いかがでしょうか。

この像のことを知らなかった方にとっては、まさに絶句モノ。

なんとも気合いの入った変身ぶりです。

(というか、途中から、既に折田先生ではなくなっているような気が……)

いったい、どうしてこの「折田先生像」が、このような落書きの場になったのか、マイスターには知るよしもありません。
もしかすると最初は、たまたまイイ感じの場所に、イイ感じにあったから、という位の理由だったのかもしれません。もともとは教養部の学生が通う場所だったそうですから、新入生の目につくところに建っていたというのが、受難の始まりだったのかも知れません。真偽のほどは不明です。

また、どこの誰によって、いかなる理由でこうした落書きが続けられているのかも、わかりません。
(というか、途中から、落書きのレベルを超えています)
一体どこから、ここまでする情熱が出てくるのでしょうか。

いずれにしても、大学にとっては、たまったものではなかったでしょう。

キャンパス内の落書きですから、「キャンパスの美観を損ねる」と普通は判断するでしょう。
ましてや、大学にとっては、偉大な先生です。放置しておく訳にもいきません。
したがって、見つけたらキレイに掃除しなければなりません。

しかし、掃除しても、さらに手の込んだ落書きがされるわけです。
最終手段として、像が撤去されたわけですが、それでもなお、ご丁寧に「折田先生像」と書かれたハリボテが登場し、終わり無き戦い(?)に突入しています。

こうした一連の行為に対しての評価は、分かれているようです。

上記のような一連の事件に対しては、幼稚な行為であるという声、器物損壊罪また、漢の生き様バージョン以降は大学敷地の不法占拠に該当するのではないかという指摘もあるが、「京大の自由の学風を象徴している」「アートの領域に高められている」という意見も見られる。
折田先生像 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

確かに、悪質ないたずらといってしまえばそれまでですし、著作権とか、器物の損壊とか、色々と問題がある行為であるのは事実。大学にとっても、迷惑なことでしょう。

しかしその一方で、「落書き」と決めつけてしまうには惜しい、表現の面白さもあります。
また、こういった行為をする京大生に対しても、ほほえましいというか、あんまり憎めないというか、そんな印象を持つ人も、少なからずいるでしょう。

実際、京都大学も、これまでこんなに落書きが続いたにも関わらず、徹底的に犯人探しをするようなことはしていないようです。

それどころか、今回の「てんどんまん」に至っては、↓こんな対応に出たのです。

■「『てんどんまん』像は残った 京大と著作権者の“粋な計らい”」(ITmedia NEWS)

「折田先生」。同大吉田キャンパス(左京区)の一角に現れる像(張りぼて)はこう呼ばれる。作者不詳、いつ誰が置いたのかも不明──ながら、京大生に親しまれてきた。ここ最近は毎年2月下旬ごろに現れ、受験生を励ます“季節の風物詩”だ。
今年はアンパンマンに登場するキャラクター「てんどんまん」の像が登場。「京大に愛と勇気だけの学風を築くために多大な功績を残した」などという文章も添えられている。
これを取り上げたのが、2月25日の京都新聞。Web版を通じてネットでも話題になったが、これがちょっとした騒動になった。
経緯を説明した同大サイトによると、「あまりに出来映えが良かったのか」(同大)、アンパンマンの著作権を管理している会社から京大に問い合わせがあった。学生の活動とはいえ、版権キャラの無断使用は御法度だ。京大が「実状を説明」したところ、企業からは「撤去要求はしないが著作物のイメージを損なわないようにしてほしいとの要請」があったという。
同大は「大学の管理区域に置かれている以上、その要請を無視するわけにはいかない。一番望ましいのは制作者が自主的に撤去すること」としつつ、撤去されない場合は「折田先生像が風雨に打たれ、誰がみてもみすぼらしい可哀相だということになった際に、当方で撤去せざるを得ない」と、「著作物のイメージを損なわない」という要請に“苦渋の判断”で従う方針を明らかにした。
大学サイトの文章の淡々とした調子も相まって、ネット上で一連の経緯が話題に。「ユーモアの分かる大学」「著作権者も大人な対応」などと好意的だ。
ちなみにサイトによると、歴代の「折田先生像」は何者かによって破壊されることが多かったそう。「今年はそのようなことがないように、無事折田先生像が役目を全うされることを望んでいます」
(上記記事より)

以下が、大学による公式のニュースリリースです。

■「平成20年度版 折田先生像について」(京都大学 高等教育研究開発推進機構)

なんとも、粋な対応ではないですか。
この記事を読み、京大に対して良いイメージを持つ人もいると思うのですが、いかがでしょうか。

このようなリリースを読んでいると、ちょっと、「文化になりかけているのでは?」という気がしなくもありません。

この「折田先生像」の話で思い出すのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のキャンパスの恒例行事(?)となっている、「MIT Hack」。MITの学生が、キャンパス内で行ういたずらのことです。

(参考)■「ハック」(MIT Sloan 101)

これも、大学にとってはやっかいな行為以外の何物でもありませんが、「まぁ、面白いし、いいか」と黙認している感じです。
「MIT Hack」によるいたずらが、MITのクリエイティブなイメージを、強化している気さえします。
これはもはや、文化と言っていいでしょう。

折田先生像も、これと同じレベルになっているような気がします。
そのうち「MIT Hack」と同様、京都大学の風物詩として世界的に知られるようになるかもしれません。

今後、折田先生像がどうなっていくのか、とても気になります。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。