名前に悩む大学

マイスターです。

大学関係者が常に気にしているもの。
それは、大学名と学部名。

大学関係者の方々には、受験生が集まらないと、

「やっぱりうちの大学名のイメージが地味だからでは」
「この学部名が古くさいのでは」

……と、名前のせいにしてしまう傾向がしばしば見られます。

名称が大事なのは事実ですが、しばしば大学の方々は、大学名を変えただけで受験生が倍増するかのような過度な期待を持っていることがあるようです。
また、わざわざ新しくした名前が、以前のものより良くなっているかというと、そうでもなかったりします。昨今ではカタカナの学部名称が人気のようですが、むしろわかりにくくなって、受験生から遠ざけられている例もあるような。

そうは言いつつ、やっぱり気にせずにはいられないのでしょう。しょっちゅう、全国で大学名や学部名が変えられています。
もっとも、これも少子化を迎え、大学にマーケティングという視点が生まれた証拠ですから、そう悪いことではありません。

また、受験生人気だけではなく、もっと切実な理由で名称を変更する大学もあります。
今日は、そんな事例をご紹介します。

【今日の大学関連ニュース】
■「『“異常趣味”大学」じゃない!! 近畿大が英語表記の変更検討 』(MSN産経ニュース)

近畿大学が英語表記をこれまでの「Kinki University」から「Kindai University」へ変更することを検討し始めた。近畿が英語で風変わりや異常趣味を意味する“kinky(キンキー)”とほぼ同じ発音で、教員が海外で研究発表する際に笑いが漏れるなど大学の威厳が損なわれかねないためだ。しかし「異常趣味」と「大学」の組み合わせの面白さから、近大Tシャツが欲しいと海外から問い合わせがあるなど、思わぬニーズも浮上している。
「友達に『Kinki Universityで働く』と伝えると『ナイスジョーク』と笑われた」というのは近大英語学習スペースのスタッフで、オーストラリア出身のマシュー・ソーントンさん(34)。
また、海外のシンポジウムなどで研究発表や研究者と交流を行う教員らは、大学名を名乗ると笑いをこらえられたり、驚いた顔をされることが多々あるという。近大関係者によると、「呼び方で工夫しようと、近と畿の間に時間をあけて話しても、笑われてしまう」。
英語の名称変更は、以前から意見としてはあがっていたが、国際化が進む今、真剣な議題になってきたという。
(上記記事より)

近畿大学と言えば、学生数も多く、知名度も高い大学ですが、まさか校名にこんなワナ(?)が隠されていたなんて。
真面目に研究発表で校名を言って、笑いをこらえられたら、そりゃあショックでしょう。
当事者達にとっては、かなり深刻な問題です。

「Kindai University」というのも何か不思議な気がしますが、わかりやすくて、日本語名称からあまりかけ離れない範囲となると、こうなるのでしょう。

ところで上記の記事には、ちょっと興味深い記述も。

しかし、「Kinki Univ」は意外な人気を呼んでいる。英語のつづりは違うものの、誤解して面白がる海外の若者から大学名入りTシャツが引っ張りだこなのだ。
近大生から近大職員となったアテネ五輪競泳バタフライ200メートル銀メダリスト、山本貴司選手は、海外遠征で大学名入りTシャツを着ていると、外国人選手から交換してくれと毎回のように頼まれるという。
また、左胸に「KINKI UNIVERSITY」と書かれたオリジナルTシャツを送ってほしい、と海外から近大にメールが寄せられることも。米人気歌手、ビヨンセのバックバンドでベースを担当している女性から「世界ツアーで近大Tシャツを着たいので送ってほしい」と問い合わせもあったという。
近大関係者は「大阪の大学なので笑ってもらえるネタにはなるが、一瞬でもおかしな大学と思われるのはうれしくない」と話している。
(上記記事より)

どうやら、ジョークグッズのようになってしまっているようです。
嬉しいような嬉しくないような。

ちなみに、関係者の方には申し訳ないのですが、マイスターは学生時代、同年代の女性の方から
「へーこくの○○です」
と自己紹介されて、びっくりしてしまったことがあります。
よくよく聞いてみたら、平成国際大学の学生さんでした。
大学名というのは略されることが多いものですから、大学関係者の皆様、「略称」にもお気を付けください。

他、やむを得ず大学名称が変更されるケースには、

○不祥事などにより、大学名のイメージが悪くなった場合
○学部の変更などで、以前の名称が相応しくなくなった場合

……などがあります。

後者の例でわかりやすいのは、「○○工業大学」のような単科大学が、学部増設で総合大学になったケース。
冒頭の記事では、熊本工業大学が「崇城大学」になった例が取り上げられています。

首都圏ですと、もうしばらくしたら武蔵工業大学が系列の短大を統合して、「都市生活学部」、「人間科学部」を作るそうですので、そのときに校名も変わるかも知れません。

■「武蔵工業大学 新学部開設の平成21年への延期について」(武蔵工業大学)

あと多いのは、「○○女子大学」が共学化する例ですね。
例えば武蔵野女子大学。共学化に合わせ、2003年に、武蔵野大学に名称変更しました。

こうやって、実態に合わせて名称を変えるのは、もちろん「わかりにくさをなくすため」です。

武蔵工業大学が、短大統合後も「武蔵工業大学」のままだったら、受験生向けの告知に影響が出るでしょう。統合後は「児童学科」が新設されるらしいのですが、工業大学という名称の大学に、まさかそんな学科があるとは、一般の方は普通、思いませんよね。
女子大学が共学化する場合なんて、なおさらそうです。「○○女子大学」という名称の大学が、男子学生を受け入れているなんて、まさか思わないでしょう。

新しい校名は、「これからは、こういう存在として見てください」という、大学から社会の方々へのメッセージです。
誤解を招かないためには、実態にあわせた名称にしなければなりません。

ただ、こうやって名称を変えることで、デメリットが生まれる場合もあります。

例えば、元々の校名からガラリと変更した場合、認知度の低下にあわせて、ブランドの価値が薄まってしまう可能性もあります。
長年、卒業生を送り出し、社会から認知されてきた校名を変えるのですから、ちゃんとそれを周囲に伝えないといけません。

例えば秋田経済法科大学は2007年に、校名を「ノースアジア大学」に変更しましたが、新しい名称だけを見て、秋田経済法科大学を連想する人はまずいないでしょう。
ガラッとイメージを変えることには成功しているかも知れませんが、反面、これまで積み上げてきたブランドは、多少は希釈されると思います。
それをどう補っていくかは、大学の課題の一つです。

そして、このへんのバランスの取り方で、苦労していると思われるのが、中京女子大学。

■「中京女子大学・中京女子大学短期大学部」

実はこの大学、部分的に、男子学生も受け入れているのです。人文学部は、共学です。
2005年に付属高校が共学化したので、それにあわせて男子生徒にも推薦進学の道を開いたのですね。

でも、「中京女子大学」の名称は、そのままなのです。
というか、大学のwebサイトやパンフレットを見ても、「男子も受け入れている」ということは、あんまり打ち出されていません。

■「大学概要」(中京女子大学)

人文学部においては、「女性教育」を学びたいという希望を持つ男子学生についても、入学することができます。
(上記リンクより)

……という文字が、ものすごく控えめに入っているくらいです。
また、「女子大は共学を兼ねる」というキャッチコピーがありますが……どういう意味なのか、少し分かりにくいです。
大学のパンフレットやwebサイトを一般の方々が見ても、まさか男子を受け入れているとは思わないでしょう。というか、そもそも男子生徒は、この大学のパンフレットやwebサイトを、見ないと思います。だって、校名が「女子大学」なのですから。

この大学の場合、そもそも
「女性のための教育をする大学だけど、その教育に興味があるのであれば、男性も受け入れます」
というスタンスなのであって、「共学」という意識はないのかも知れません。
ただ、それ以上に、「中京女子大学」という名称のブランド価値が薄まってしまうことを避けた、という点も大きいのではないかと思います。
別に、積極的に男子学生を入れようと思っていないのであれば問題はないのですが……わかりにくいことは確かです。
女子大学卒、という履歴を一生抱えていく男性が生まれるという点も考えると、今後、どこかのタイミングで手を打った方がいいのではないかという気も、個人的にはします。

上記は少し珍しい例ですが、校名を変える場合のメリットとデメリットを天秤にかけ、どちらがいいかと決断するのは、なかなか大変です。
卒業生は変えて欲しくないでしょうし、就職採用をする企業の方々を混乱させるのも得策ではありませんし……。
難しいところですよね。

あと細かい点ですが、通常、校名変更に伴って、インターネットのドメイン、URLを変えますよね。
すると、様々なところから張られていたリンクが途切れてしまったりします。
変更直後は、どこもいちおう気を遣って、リダイレクト(来訪者を自動的に他のページに飛ばす仕組み)の設定をかけていたりしますが、数年間経つと、油断します。

マイスターは以前、ある高校のwebサイトにアクセスしようとしたら、怪しい商品の広告がいっぱい掲載されたページが出てきて、ビックリしたことがありました。
その高校は、校名を変更した結果、旧い校名のドメインの契約更新を止めてしまったのですね。そうしたらそのドメインが売りに出され、怪しい業者によって、商品の告知用に使われてしまったというわけです。
しかも、進学情報サイトからのリンクが、以前のURLの方で設定されていたのです。結果的に、高校受験生達を怪しいサイトに導いてしまっているわけですから、これは大変な事態です。

でも大学や企業も、油断をすると同じことをやってしまいそうですから、この高校のことを笑えません。
皆様も、校名変更の時は、くれぐれもご注意ください。

■近畿大学

近畿大学は、もともとwebサイトのドメインが「kindai.ac.jp」ですから、そのあたりの混乱もなさそうです。

以上、大学の校名に関する事例を、いくつかご紹介しました。

色々と書きましたが、結局のところ、名前は名前。
受験生の皆さんは、名前にごまかされず、中身をじっくり見て志望校を決めてください。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • 学生です。茶髪チェックはあります。授業が終わったあと、不定期に「指導員です。頭髪検査をします。茶髪を直さなかった者は処分もありますので、十分に注意してください。前のドアから出てください。」と言って一人一人チェックをしています。学生はおかしいと反発しますが、学校の方針なのでなんとも言えません。もちろん経済法科大学で入学した人もカタカナ新校名で卒業になります。新校名は在学生にも適用でした。カリキュラムは厳しくなり、卒業試験もあります。出席も厳しいものです。メリットは学生がしっかり勉強しなければ卒業できないとなったこと。大学としては生き残りをかけての校名変更のようです。 07年に校名変更した東北の某カタカナ大学卒より