キャンパス内で英語を使おう 近畿大学英語村の取り組み

マイスターです。

日本語が使える環境を離れ、外国語だけに囲まれて生活するというのは、語学の習得においてはやはり、とても効果的なことなんだろうと思います。

ただ、留学をするというのは、やはりそれなりにハードルが高い行為です。
費用もかかりますし、準備も大変です。時間的な制約があるという方もいるでしょう。

個人にとってもそうですが、大学にとってもそれは同じ。
ここ数年、一部で「全学生を必ず留学に行かせる」、という大学や学部が少しずつ出てきましたが、多くの大学は、なかなかそこまで手を回せません。
留学先を開拓したり、留学生のサポート体制を整えたりするのは、とても大変です。

また、「英語だけで行う授業を設ける」という取り組みも盛んです。
ただしこれも、開講できる授業の数には限界があります。

それではどうするか。
色々な取り組みがありますが、キャンパスの中に、英語でコミュニケーションするエリアを作る、という事例が、最近ちょっと増えてきているみたいです。

多いのは、語学教育センターなど、語学教育を担当する施設の中に、「日本語禁止エリア」を設けるという事例。
例えば以下のような取り組みです。

■「名古屋商科大学:ここに来れば国際人気分!日本語禁止の『総合語学教育センター』」(リクルート進学ネット)
■「日本語は禁止『英語ゾーン』 徳島文理大、語学センター内に開設」()
■「World Plazaの紹介」(南山大学)

これらの他にも、おそらくもっと多くの大学が、同様の取り組みを実践していると思います。
「教室の中だけ」、「授業時間だけ」という大学もあれば、「この建物の中は、365日、常に日本語禁止!」という大学もあるようです。キャンパス内に擬似的な留学先をつくってしまうようなものですね。

このように留学しない学生でも、学んだ英語を実践できるような環境があるということは、学生にとって非常に大きなメリットだと思います。

授業だけでは、やはり十分には、生きたコミュニケーションの経験は積めないでしょう。
中には、「外国人の多い都市に行って、話し相手を見つければいいじゃない」とか、「留学生の友達をつくりなよ」とか言う強者もおられるかと思います。でも、立地や環境によっては大変です。信用できる話し相手を確保するだけでも一苦労です。
それに、そうやって身につけた会話力が、大学や企業で使うのに適切なものかどうかは、わかりません。

その点、大学であれば、コミュニケーションの相手は、ちゃんとした語学指導者です。
他愛もない雑談から知的な議論まで、どんなレベルの会話にもつきあってくれるでしょうし、間違っていれば指導してくれるでしょう。

また、時間を区切った授業とは違い、「英語エリア」ですから、おそらく毎日好きなときに通い、好きなだけいられるのだろうと思います。(※大学によって違いはあるかも知れません)

逆に、すぐに疲労してしまう人なら短時間のコミュニケーション、たとえば最初は一日にほんの一言、二言の会話から始めたって良いわけです。
意欲に応じて学べるというのは、いいですよね。

さて、こうした取り組みをさらに一歩進め、大胆な英語コミュニケーション環境の構築に取り組んでいる大学があります。

【今日の大学関連ニュース】
■「<こだわり人>語学留学、学内で体験──近畿大学英語村村長・北爪佐知子さん」(NIKKEI NET)

外国人への抵抗感をなくし英語に親しむきっかけに――。こうした目的で近畿大学が設けた「英語村」が英語教育の新たな試みとして教育関係者の注目を集めている。村長を務めるのは同大文芸学部教授の北爪佐知子さん。「楽しくなければ学べない」。長年の経験から得た英語教育の理想の1つを形にした。
本部キャンパス(大阪府東大阪市)にある英語村は1年前の昨年10月に「開村」。現代的な建物の中にカフェや大型テレビ、外にはバスケットボールのコートを備え、米国や英国、オーストラリアなど英語圏出身で20―30代のスタッフが常駐する。学生はだれでも入れるが、施設内の会話はすべて英語。スタッフはすすんで会話に加わり、学生がうまく話せなかったり尻込みしたりしても丁寧に対応する。
(略)目指すのは「自然に英語が好きになっていること」。毎日、スタッフが学生の参加する催しを開く。装飾品や料理の作り方、ギター演奏、外国の生活事情の解説など様々。スタッフにはそれらに精通した人材を採用している。「具体的なテーマがある方が英語を身につけやすい」。北爪さんは自ら得意の社交ダンスを披露したことがある。
当初は1日延べ100人程度の入村をもくろんでいたが、平均500―600人が訪れる。休校時には高校や企業が利用する。全国の高校や大学、自治体の関係者が毎日のように視察に訪れる。「世界の人と交流するのは国際人の重要な素養。日本人は慣れていないだけ」。枠にとらわれない試みは確実に波を広げている。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

公式サイトは、↓こちら。

■「近畿大学英語村 E3[e-cube]」(近畿大学 英語村)

「English」
「Enjoyment」
「Education」

の3つのEで、[e-cube]という名前もある、近畿大学英語村。
「英語を楽しみながら学ぶ」をコンセプトにした、近畿大学の施設です。

■[e-cubeとは](近畿大学 英語村)

様々な特技や趣味を持った個性豊かなネイティブスタッフが常駐しています。それぞれのスタッフが時間帯によって料理、音楽、スポーツなどのプログラムを担当しています。チャット(おしゃべり)や英語の質問に答える相談コーナーも設けています。
(上記記事より)

……というわけで、大学内の施設ではありますが、授業をやったり相談に乗ったりというだけではなく、あくまでも「楽しくコミュニケーションする」ということを中心に据えている点が、ポイントです。

■「アクティビティー」(近畿大学 英語村)

このように、ほぼ毎日、常駐するネイティブスタッフ達によって様々なイベントが開催されています。

「YOGA」や「LATIN DANCING」、「BASEBALL」や「JAZZ」など、多彩なラインナップです。
「CHICKEN PASTA」や「UNUSUAL FOOD」とあるのは、一緒に料理を作るということでしょうか。
「CANADA」など、国の名前が入っているところもありますね。
なんとも楽しそうではありませんか。

この英語村には、英語でオーダーできるカフェがあったり、バスケットコートがあったりします。
ちゃんとした会話を交わせなくても、まずはスポーツや文化を介して、少しずつネイティブとのコミュニケーションに慣れていくことができるというわけですね。

入村には専用のパスポートが必要、というのもユニークです。
利用する度に、ビザがたまっていくのでしょうか。
まさに、キャンパス内に、別の国があるようなイメージですね。

マイスターが思うに、これは、

「英語をある程度、話せるようになってからコミュニケーションを実践する」

……という従来の英語学習の順番ではなくて、

「まず、楽しいコミュニケーションに入って、その中で英語を話せるようにする」

というコンセプトの教育施設なのではないでしょうか。

日本人がいくら英語を勉強しても使えない理由の一つとして、「自分から使おうとしないから」というものがあります。
この英語村は、その逆を行く発想なのでしょう。

キャンパスの中で、みんながわいわいとスポーツや食事を楽しんでいたら、なんとなく気になって、自分も加わってみようかと思いますよね。
そのうち、スタッフの方々と友達になることもできるでしょう。そうなったら、なお英語を学ぼうというモチベーションが上がりますよね。好循環です。

なんとこの英語村、一日あたり500~600人が利用しているとのこと。
オープンから一年あまりで10万人突破だそうですから、大盛況。とんでもない利用率です。
大学にある語学学習センターの類で、ここまで日常的に利用されている施設が果たしてあるでしょうか。
大成功の取り組みだと思います。

さらにこの英語村、一般開放にも積極的です。

■「近畿大学、「英語村」を一般に公開」(英語教育ニュース)

「遊びながら楽しく英語を学ぶ」をコンセプトに2006年11月にオープンした近畿大学(大阪府東大阪市、世耕弘昭理事長)の英語村E3「e-cube」が、大学の春休みを利用して同施設を一般に公開する。
スタッフは米、英、豪など英語圏の出身者で、施設内の会話はすべて英語。開設前の大学側の試算では1日延べ100人程度の利用を見込んでいたが、今では1日平均500~600人の学生が訪れる人気施設。
一般公開は2月18日から3月19日までの1ヶ月間、平日10時から16時まで。高校生以上なら誰でも利用できる。日替わりのアクティビィティがあり、月曜はスポーツ、火曜日は工作とクラフト、水曜は音楽、木曜は国々とその文化、金曜は食べ物。併設カフェも営業している。
(上記記事より)

地域貢献としても、大学のPRとしても、いい取り組みだと思います。

「楽しく英語を学ぶ」なんて、こうして言葉に出してみると、ありふれたコンセプトですよね。
それに、大学関係者の中には、「大学で、そんな初歩的なことをする必要があるのか」、「そんなのは高等教育が担う学びじゃない」なんて反発される方もいらっしゃるかも知れません。

しかし考えてみれば、マイスターを含めた日本人は、その初歩的な部分をすっとばし、ずっと面白くない英語を学ばされ続けてきているわけです。
その結果、気がつけば、言葉はコミュニケーションのためのツールであるというもっとも大事なことが忘れられ、試験で点を取ったり、単位を取ったりするためのものに成り下がってしまっているのかな、なんて思います。

そんな中、「コミュニケーションの楽しさ」を全面に出す、という原点に立ち返ることで成果を上げた英語村はユニークですし、様々な点で注目すべき取り組みだと思います。

以上、今日はキャンパス内で英語を使わせる取り組みをご紹介しました。
他にも面白い事例がありましたら、ぜひ教えてください。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。