マイスターです。
皆様は、「テンプル大学ジャパンキャンパス」という学校をご存じでしょうか?
東京都港区にある、ちょっと特殊な教育機関です。
高校生や保護者の方、高校関係者の方の中には、もしかするとあまり耳馴染みのない名前かも知れませんね。
今回、せっかくブログもこのような形でスタートしたしたことですので、こういった特殊ワードも、改めて少しずつご紹介していこうと思います。
大学関係者の皆様には、この学校がどう特殊なのかよくご存じの方も多いと思いますが、おさらいと思って、どうぞおつきあいくださいませ。
テンプル大学。
レイクランド大学。
上記の2校はいずれも、アメリカの大学です。
アメリカの法律に則り、アメリカの大学認証評価を受け、アメリカ式の大学教育を施す、アメリカの教育機関です。
従って卒業すると、アメリカの学位が取得できます。
ただ、この2校には特徴があります。
「本国だけではなく、日本にもキャンパスを持っている」という点です。
【文部科学省より『外国大学の日本校』として正式に指定を受けている大学(例)】
■テンプル大学ジャパンキャンパス
1983年、日本で初めてアメリカの大学教育を提供する場として、大学学部課程を東京に開設。今では学士号、修士号、博士号を取得可能。
2005年2月に文科省から指定を受ける。
■レイクランド大学ジャパン・キャンパス
1991年よりジャパン・キャンパスで2年間の準学士号課程のプログラムを提供開始。
2005年12月に文科省から指定を受ける。
このように、制度上は海外の大学でありながら、日本国内にもキャンパスを持ち、日本で教育を展開している大学があるのです。
冒頭で上げたテンプル大学は、その中でもよく知られている例の一つです。
上記の2校だけではなく、実際にはもっとたくさんの学校が日本で教育活動を行っています。
しかしおそらく高校の進路指導の先生は、こういった教育機関があるという事実をあんまり高校生に語りません。
正直言ってよく知らないし面倒くさいし、高校受験生へのウケも良いわけではないからです。
教員によっては、こちらから質問しても、
「あ~……うん……でもなぁ……ああいった大学よりも、日本の大学を出といた方が、就職はいいぞ?」
なんて、根拠があんまりない適当なことを言って、その場をはぐらかしたりするかも知れません。
しかし実際に、あるのです。
しかも多くの大学が、「本校と同じ水準の教育」をウリにしています。
例えばアメリカの大学の日本校なら、アメリカに留学したときに受けられるものと、学術レベル的には同じ水準の教育をするという点を打ち出しています。そのためにわざわざ分校を作ったわけですから、当然ではあります。
(もちろん、日本校では日本語で行われている授業もあるでしょうし、キャンパスの環境は全然違うでしょうから、すべてが全く同じとはいかないと思いますけれど)
ちょっと歴史をひもときますと、こういった大学は、実は1980年代には40校程度が存在していたと言われています。
しかし当時の文部科学省は、こういった外国大学の日本校を、高等教育機関として認めませんでした。
「大学」を名乗るのであれば、日本の大学設置基準に則り、日本の様々な制約にあわせた教育をせよ。日本の大学設置基準に合わない大学を卒業しても、日本の学士号は認めない……という立場を貫いたのです。これもまぁ、当然と言えば当然ですね。
でもそれだと、仮に日本の基準に従わない場合、学校の関係者達は様々な不都合と戦わなくてはならなくなります。
まず、日本の教育機関ではないのだから、日本の大学や大学院への編入が正式に認可されませんし、単位の互換もできません。定期などの学割も使えません。海外から入学を希望する学生に留学ビザを発行することもできません。20 歳以上の学生に適用される国民年金支払い猶予の対象にもなりません。また、たとえ非営利に教育活動を行っていたとしても、「学校ではない」ので、企業と同様に法人税がかかります。経営が大変です。
結果として、40校あった外国大学の大半は撤退したのです。
理由は単純。「これだけ外国大学の参入障壁が高い日本で、わざわざ活動しようとするのは、バカげている」と、当時の外国大学の理事長や学長が考えたからです。
現在は、文部科学省から「外国大学の日本校」として正式に指定を受ければ、上述した不都合の多くは解消されることになっています。
実際、この指定の仕組みができた結果、冒頭の2校の他にも名だたる名門校達が指定を受け始めました。
※例えば以下の2校。いずれも大学院ですが、その分野ではアメリカトップレベルの評価を受ける大学院です。
■カーネギーメロン大学日本校
■コロンビア大学 ティーチャーズカレッジ
不遇の時代を抜け、日本における「外国大学の日本校」の活動は近年、活発化してきているように思います。
今後は欧米の超名門大学が、MBA課程や、あるいは「本校」への編入を目指す留学準備コースを開設したりするかも知れません。
本国と同じ水準の教育を日本でも受けられるのだとしたら、日本に住む我々にとっても悪いことではありません。学びの選択肢は多いに越したことはありません。こういった機関が存在するということを、高校生も社会人も、アタマの片隅にいれておいて損はないと思います。
日本の大学にとっても、このように外からの刺激を受けることは、中長期的に見れば悪いことばかりではないはず。自らの競争力を高めるチャンスと考え、時に競い合い、時に連携する相手にすればいいのではないでしょうか。
ただ、実は今も、税制の問題だけは以前のままだったりします。
「外国大学の日本校」として指定を受けても、通常の大学と違い、企業並みに法人税や消費税が課税されています。卒業生や企業から受ける寄付金は課税所得になってしまいますし、寄付した側が税額の控除を受けることもできません。
ここだけは文科省も、譲っていないのです。
「海外大学日本校」関係者の側の思いは、
「自分たちは『学校』であることが正式に認められ、非営利組織として教育活動を行っている団体なのに、どうして高額の税金を要求されるの?
どうして、税金分を学費に上乗せされるという不利な条件下で、日本の大学と競争しなければならないの?
自分たちは非営利組織なのに、株式会社立学校と同じ税が適用されるって、おかしくない?」
というものではないかと推察します。
一方、文部科学省側の論理は、
「何も、海外の大学だから税の減免をしないと言っているわけではない。
日本では、『これが大学にふさわしい内容だ』という基準が、具体的な数値入りで決められているんだ。それを満たす学校こそが国民にふさわしい『大学』なのであって、それを一カ所でも満たせなければ、誰がなんと言おうと、国民にふさわしい教育機関ではないんだ。
だから、減免を認めて欲しければ、基準を満たしてから来なさい。」
というものでしょう。
どっちの言い分にも、一理あると思います。
「基準を満たしたら大学として認めますよ」という文科省の論理は、ある意味、公正でわかりやすいものです。「母国の学位を出すのは勝手だけど、日本の学位として認定するのであれば、日本の基準を守りなさい」という点も、理屈は明快です。
しかしその一方で、
「そもそも海外の大学が日本に学校を作ることで生まれるメリットというのは、『日本の大学と違うシステムで教育する』っていうところにあるんじゃないのかな?」
……という根本的な疑問も、浮かんだりするわけです。
うーん、考え出すと、結構難しい問題ですよね。
今後は、日本の大学が海外に分校をつくる、なんて事例も増えてくるでしょうから、さらにややこしくなるかも知れません。
こういった問題をどう解決していくかが、今後の日本の高等教育行政の大きなテーマの一つになってきそうです。
以上、ざっとですが、外国大学日本校というものについて簡単な説明をさせていただきました。
ときに、ここ数年、日本の大学の間では、
○英語で専門分野を学習
○専門にあまり偏らないリベラルアーツ教育
○多様なバックグラウンドを持つ大勢の留学生
○自分自身も海外留学を体験
……といったコンセプトの学部学科を作ることが流行っていますよね。
今、改めて気づいたのですが、これらは全部、外国大学日本校がずっと前から行っていたコンセプトそのものなんですね。
そういう意味では、日本の大学も以前より、外国大学日本校から色々と学んでいたのかも知れません。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
はじめまして
海外大学の日本校に関するコメントではないのですが、
○英語で専門分野を学習
○専門にあまり偏らないリベラルアーツ教育
○多様なバックグラウンドを持つ大勢の留学生
○自分自身も海外留学を体験
というマイスター様のおっしゃる
最近の潮流に関心があります。
なぜいまこのような動きが強まっているのでしょうか?
たとえば国際基督教大学のように、始めからこういった
目的をもった大学はありますが、最近そういった
学部や学科をつくった諸大学の狙いは
何なのでしょうか?
外国大学日本校指定は文部科学省が「大学を名乗ってもよいほどの程度を維持した教育機関である」と証明してくれたお墨付きですが、財務省が「大学じゃないんでしょ、税金払ってね」と言っている状況です。授業料にも消費税がかかったり学生がかわいそうです。結局世界から取り残されていく日本、省益争いで時間を浪費する省庁の役人さん。国民は国外の動きに疎くマスコミも報道によって問題提起ができず。気がついた人だけが国外逃亡をして生き延びるのです。