論文の「生産性」 東大は低い?

マイスターです。

いろんな意味で気になった報道がありましたので、ご紹介したいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「東大の論文、1本1845万円 国立大でコスト最大級」(Asahi.com)

東京大学の論文の「生産性」が国立大学の中で最低レベルにあることが文部科学省科学技術政策研究所の調査でわかった。研究費を論文数で割った1本当たりの「生産費」を比べた。東大など旧7帝大はおしなべて生産費が高く、旧帝大偏重が指摘されてきた国の研究費配分のあり方に一石を投じそうだ。
同研究所が各大学の06年度の財務諸表で、国からの科学研究費補助金や企業からの受託金など広義の研究費を集計。国内外約3万1000の科学や医学の専門誌に掲載された一定の水準以上の論文の数で割って、論文の生産費を算出した。
その結果、東大は論文数は4553本で1位だったが、1本当たりの生産費は1845万円。東大より上の8校は東京外国語大や一橋大といった文系などの大学で論文数が少ないために生産費が高く出ているだけで、実質的には東大が最も高かった。論文数700以上の大学に限ると、以下、大阪大、東北大、京都大と続いた。1000万円未満の大学が55校ある一方で、旧帝大はいずれも1000万円を上回った。
研究費の配分問題に詳しい竹内淳・早稲田大教授は「少ない費用で優れた成果を出している地方の国立大にも研究費を正当に配分するような制度に変える必要がある」と話している。
(上記記事より)

「東大の論文生産性は低い」という報道です。目を引く内容ですね。

ただ、

東大より上の8校は東京外国語大や一橋大といった文系などの大学で論文数が少ないために生産費が高く出ているだけで、実質的には東大が最も高かった。
(上記記事より)

……という記述がありますが、「論文数が少ないから生産費が高く出ているだけ」って、重大なことではないですか?
うむむ? なんだか、細部が今ひとつよくわからない記事です。

ですから、もとの報告書を見てみることにしましょう。

■「国立大学法人の財務分析」(文部科学省 科学技術政策研究所)(PDFファイル)

上記の4.2.4に「論文あたり経費」という分析があります。
Asahi.comの記事と同じ数値が並んでいますので、どうやら元ネタはここです。

これを読んでみると……色々と、Asahi.comの記事では触れられていなかった発見がありました。

まず、この分析のために使われている論文の数には、人文社会科学の学問は含まれていません。
前提条件として、そもそも医学、工学、理学などの分野の論文しか抽出されていないのです。
だから、人文科学、社会科学が中心である一橋大学や東京外国語大学では当然、論文数が少なく出るわけです。

しかし一方で、そのための「経費」については、人文社会科学とそれ以外とを合わせた金額になっているのです。
そのため、東京外国語大学などでは、論文当たりの研究費が高くついてしまっているのです。

こういった前提条件は、報告書では説明されていますが、Asahi.comの記事では触れられていません。
百歩譲って、もしかすると前述した

東大より上の8校は東京外国語大や一橋大といった文系などの大学で論文数が少ないために生産費が高く出ているだけで

という記述は、この辺りのことを説明していたのかも知れませんが、いずれにしてもすごくわかりにくいですよね。

そもそもこの分析自体、厳密なものではないわけです。結構、どんぶり勘定です。
その辺が、新聞では触れられていないんだなぁ……と思うわけです。

そして、そもそも、論文一本当たりのコストが高いからといって、「生産性が低い」と決めつけてしまって良いのかどうか。

別に東大の肩を持つわけではないのですが(むしろマイスターも、研究費の配分が偏っていると思っている方ですが)、それでも、どんな研究をしているのかとか、どんな学問領域の論文が多いかとか、もう少しちゃんと調べないと、本当の意味での生産性というのは判断できないような気はします。
うーん、どうなんでしょうか。

……と、冒頭の記事を読みながら、そんなことを思ったマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。