「年間3千人の法曹」 計画を見直す? 法務省

マイスターです。

専門職大学院が、苦戦しています。

■「専門職大学院 生き残りへ…問われる教育の質 専攻の4割定員割れ」(東京新聞)
■「教職大学院の人気低調、国立の約半数で募集定員下回る」(日経新聞)

社会人学生の増加を見越して、この数年で次々に誕生した、専門職大学院。
狭義では学位に「専門職」の名前が入るものを指し、広義では、実務家の養成に重点を置いたカリキュラムを持つ「プロフェッショナルスクール」を標榜するものを意味するようです。

少子化の中、新たな市場を開拓したい大学が、様々な大学院を設立しましたが、現在のところ、このように景気の悪そうな報道ばかり。
原因の一つとして、「大学院で学んだということを企業があまり評価しない」、という日本の企業社会の特質や、仕事と学びを両立させにくい日本の会社員のワークスタイルなどが指摘されています。

そんな中、「法曹資格」という圧倒的な後ろ盾を持ち、他の大学院よりは善戦するかと思われていた、法科大学院。
ですが、そんな法科大学院も、先行きが少し怪しくなってきました。

【今日の大学関連ニュース】
■「司法試験『年3千人』見直し 法務省、合格者減も選択肢」(Asahi.com)

法務省は、司法試験合格者を2010年までに年間3000人にし、その後も増やすことを検討するという政府の計画について、現状を検証したうえで内容を見直す方針を固めた。合格者の急増による「質の低下」を懸念する声が相次いでいることに危機感を募らせたためで、「年間3000人は多すぎる」との持論を展開している鳩山法相の意向も受け、年度内にも省内で検討を始める。同省が慎重路線にかじを切ることで、今後の検討内容によっては現在の「3000人計画」が変更され、合格者数を減少させる方向に転じる可能性も出てきた。
裁判官、検察官、弁護士を合わせた法曹人口は約2万9千人。政府は司法制度改革審議会の報告をもとに02年3月、3000人計画を盛り込んだ司法制度改革推進計画を閣議決定。将来の法曹人口について、審議会は3000人計画の実施を前提に「18年ごろまでには実働法曹人口が5万人規模に達することが見込まれる」と予測していた。
しかし最近、一部の弁護士会が「就職難が起きている」「質が低下する」といった理由で計画への反対を表明。実際に、司法研修所の卒業試験の不合格者が増えたことなどから、法務省内にも「質の維持や需要動向が当初の予測通りでないなら、計画を変えるしかない」との考えが広がっている。
こうしたなか、政府が今春、閣議決定する予定の「規制改革3カ年計画」の改定では、法務省の働きかけにより、法曹人口の拡大について「社会的需要を踏まえた慎重な検討」を促す文言が初めて盛り込まれる見通しとなった。

(上記記事より)

そんなわけで、司法試験合格者は、予定より減るかも知れません。
こうした方針転換の中心におられるのは、鳩山法相。
以下のようなコメントも出されています。

鳩山法相は法曹人口について、「法曹の数が増えれば、質の問題に影響する。司法修習生の卒業試験不合格者が増えているのは、司法試験合格者数の増大と関係がある。門戸を広げ、誰でもなりやすいようにするという考えは誤っており、社会の乱れにつながる可能性がある」と述べた。
「司法試験『3千人合格』見直しの意向、法相『多すぎる』」(読売オンライン)
記事より)

この通り、「質」が下がったのは、いたずらに「量」を増やそうとしているからだ、とおっしゃっています。

しかし、「今さら何でこんなことを言い始めるのか?」と思う方もおられることでしょう。

そもそも「三千人」という数字は、2002年に発表された司法制度改革推進計画において、既に盛り込まれていたもの。
その時点で、合格者を増やすことは、決定されていたはずなのですから。

「司法制度改革推進計画」を、今一度見直してみましょう。

■「司法制度改革推進計画」(首相官邸)

1 法曹人口の拡大
現在の法曹人口が、我が国社会の法的需要に十分に対応することができていない状況にあり、今後の法的需要の増大をも考え併せると、法曹人口の大幅な増加が急務となっているということを踏まえ、司法試験の合格者の増加に直ちに着手することとし、後記の法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す。
また、全体としての法曹人口の増加を図る中で、裁判官、検察官の大幅な増員や裁判所書記官等の裁判所職員、検察事務官等の検察庁職員の適正な増加を含む司法を支える人的基盤の充実を図ることが必要であり、そのため、各種の制度改革の進展や社会の法的需要を踏まえるとともに、その制度等を効率的に活用しつつ、必要な措置を講ずる。
(上記リンクより。強調部分はマイスターによる)

この通り、はっきり、「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す」と書かれています。

「量」を増やすことについては、何年も前からわかっていたはずで、今さら計画を変更するというのは、少し乱暴であるような気もします。

ちなみに、「3,000人」の根拠として、

・現在の法曹人口が、我が国社会の法的需要に十分に対応することができていない状況にある
・今後の法的需要が増大する

ということが上記の計画には書かれていますが、もしこれらが事実なら、司法試験合格者を減らすと社会の「法的需要」に対応できず、困ったことになるはずですが、どうなのでしょうか。

現実には、司法試験合格者の間で就職難が起きていると報じられているくらいですから、困らないのでしょうか。
だとしたら、この「司法制度改革推進計画」事態が、そもそもいい加減な計画だったということになりますね。

ところで、「質」の低下を引き起こしている原因は、「3,000人」という数字だけでしょうか。
マイスターは、法科大学院の運営方針にも、見直すべきところが結構あるような気がします。

司法試験の合格者は、従来は500人程度でしたが、2006年は1558人、2007年は2099人。
この通り、増加しています。
「多すぎる」と言いつつ、一応、今のところ予定通り合格者数を増やしてくれてはいるのです。

しかし一方で、新制度になった結果、司法研修所の卒業試験の不合格者が増えているそうです。
法科大学院は実務にも強い法曹養成を謳っていたと思うのですが、今のところ、かえって評価を下げる結果になってしまっているようです。
これ、結構考えさせられる結果だとマイスターは思うのですが、いかがでしょうか。

また大学院によっては、「卒業生がほとんど司法試験に合格しない」ところがあるようです。
実際、法学既習者において2006年は4校、2007年は6校が、合格率0.0%です。法学未習者では、2007年に2校が合格率0.0%という結果になりました。
こうなると、そもそも法科大学院の教育水準が問われます。

思えば、新しい司法試験のシステムは、

○法科大学院でしっかりと厳しく教育する。
 ↓
○実力が不足している学生は、法科大学院を卒業できない。
 (法科大学院を修了したという事実が、一定の質を担保する) 
 ↓
○だから司法試験の合格率を上げても、法曹の質は下がらない。

……という理屈の上に成り立っていたのではなかったでしょうか。

もしそれが崩れているのだとしたら、法科大学院にも、予定変更の責任はあるように思います。

新制度発足後、法学部を持つ大学の多くが、競うように法科大学院を立ち上げました。法科大学院の有無は大学の評判に関わる、という意識もあったかも知れません。その結果、学生を集める競争は激しくなっています。
そんな競争に耐えられず、「法曹になれる」と安易に学生を集め、十分な実力がつかないままに次々と卒業させているようなところは、ないでしょうか。

……と、冒頭の記事を読んで、そんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。