PISAの結果をどう考える?

マイスターです。

この結果、もう皆様も、報道でご存じでしょう。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「日本、数学応用力が10位 読解力は15位に」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20071205ur05.htm
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経済協力開発機構(OECD)は4日、加盟国を中心とする57の国・地域の15歳男女計約40万人を対象にした2006年国際学習到達度調査(略称PISA)の結果を世界同時発表した。

3回目の今回、日本は、すでに2位から6位に転落したことが明らかになっている「科学的応用力」に加え、「数学的応用力」が6位から10位へ、「読解力」も14位から15位へと全分野で順位を下げた。今回の対象は、詰め込み教育からの脱却を狙った「ゆとり教育」で育った世代で、日本が最も得意としてきた理数系で世界のトップレベルから転落したことは、今年度末に改定予定の次期学習指導要領に影響を与えそうだ。

(上記記事より)

というわけで、2006年度のPISAの調査結果が公表されました。

日本は「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」の三領域で、いずれも順位を下げるという結果になりました。

同じく順位を下げた前回の調査実施時は、「PISAショック」という言葉が生まれ、国が「ゆとり教育」路線を見直すきっかけにもなったと言われています。
今回はそこからさらに順位を下げ、世界トップ層から「転落」する事態になりました。

論じやすいテーマなのか、非常に多くのメディアが、記事や社説でこの「事件」を報じています。

今回の結果で深刻なのは、前回までトップグループだった「数学的応用力」と「科学的応用力」が大きく落ち込んだ点。

「数学的応用力」は、前回と共通出題の48問中40問で正答率が下回り、得点も前回の534点から523点に下がった。台湾が1位、香港が3位、韓国が4位とアジアの国や地域がトップグループをほぼ独占する中、日本は、1位だった前々回と比べて34点も下げた。

先月29日に順位が公表された「科学的応用力」も前回、前々回ともに2位だったことと合わせ、日本が得意としてきた理数系の低迷が浮き彫りになった。

(上記記事より)

数学的応用力では、高得点の生徒の割合が低下し、得点上位5%に位置する生徒の得点が前回に比べ二十三点下がるなど、得点上位層が落ち込んだ。OECDが「生産的活動に従事していける」とする習熟度に満たない生徒の割合は依然10%を超えており、フィンランドの倍となっている。

(「日本学力トップ集団脱落 高校1年対象OECD調査 読解力、前回並み」(中日新聞)より)

科学では、順位だけではなく得点でも水を開けられている。トップのフィンランドの563点に対し、日本は531点で32点も差がある。だが、文科省は参加国が増加したことなどを理由に、依然として「上位グループにいる」と言う。

理数系の落ち込みに対し、危機感が足りないと言わざるを得ない。

科学的応用力の結果を見ると、日本の子どもたちは、現象を科学的に説明したり、問題を科学的に検証したりする力に弱点がある。

科学の価値や楽しさを感じられない。理科の授業で意見発表や討論を重視したり、実生活に密接にかかわっていることを解説したりする授業をしてくれる先生が少ない――。学力調査と同時に行われた意識調査では、多くの生徒はこう感じている。

(「国際学力調査 結果を新指導要領に生かさねば(12月5日付・読売社説)」(読売オンライン)より)

科学関係の職業に就きたいと考える生徒はOECD加盟国平均の25%に対し、わずか8%。「科学技術創造立国」を目指す政府にとっては、将来に不安を残す内容となった。

(「読解力15位・数学応用10位、高校生の学力低下 OECD調査」(中国新聞)より)

……と、他にも色々ありますが、この辺で。

マイスターがいくつかの記事を読んだ限り、やはり

「理系の成績が低下し、世界トップクラスではなくなった」

という点に危機感を持とう、という論調が多いようです。

(新聞記者の中にも、数学や理科が苦手という理由で文系受験をし、新聞社に就職したという人が少なからずいるはずですが、そういった事情はとりあえず横に置かれています)

危機感が伝わったのでしょうか。
この結果を受けて、さっそく国も動き出しました。

■「学力転落ショック、指導要領・理数一部を前倒し実施へ」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20071205ur21.htm

経済協力開発機構(OECD)が昨年、世界の15歳を対象に実施した国際学習到達度調査(略称PISA)で、日本が理数系の分野でトップレベルから転落したのを受け、文部科学省は5日、現在改定作業を進めている次期学習指導要領について、理科と、算数・数学の内容の一部を前倒しして、2009年度から実施する方針を固めた。

(略)渡海文部科学相は同日開かれた衆院文部科学委員会で「今回の結果は残念。これを踏まえて何が出来るのかを検討し、スピーディーに対応したい」と述べた。

(上記記事より)

なんという迅速な決定。
PISAの結果がもたらす影響がどれだけ大きいか、よくわかります。

もっとも、「PISAの成績を下げることでメディアや国民から批判を受けることを、どれだけ文科省が恐れているか」、という方がより正確かもしれませんが。
それに、「脱ゆとり」方針を掲げ、学習時間の延長を行おうとしている文科省にとっては、むしろ渡りに舟、なのかもしれません。
PISAの数字とともに発表すれば、批判はされにくいはず。

実際、今回の結果については、「授業時間を減少させたことが原因だ」と論じているメディアも非常に多いです。

ただ、興味深いことに、今回も栄えある一位となったフィンランドは、日本よりも学習時間が短いんです。

■「Education at a Glance 2007」(OECD)
http://www.oecd.org/document/30/0,3343,en_2649_37455_39251550_1_1_1_37455,00.html

↑こちらはおなじみ、「Education at a Glance」の最新版。
「Indicator D1: How much time do students spend in the classroom?」というタイトルで、学校での学習時間の国際比較結果が公表されています。

それによると、日本およびフィンランドの、年間の授業時間は以下の通り。

【必修の指導時間(平均値)】

■フィンランド
 7〜8歳 :530時間
 9〜11歳 :654時間
 12〜14歳 :796時間

■日本
 7〜8歳 :707時間
 9〜11歳 :774時間
 12〜14歳 :869時間

(「Education at a Glance 2007:Compulsory and intended instruction time in public institutions (2005)」(OECD)を元に作成)

上記は必修とされている指導時間の平均値です。
「total intended instruction time」で比較するとフィンランドの数字が若干増えますが、それでも日本の学習時間には遠く及びません。

「フィンランド等に大きく引き離されているから、学習時間を増やすべきだ」という意見は一見もっともですし、実際、学習時間の確保は重要でしょう。
しかし、いたずらに時間だけ増やせば世界トップになれるかというと、どうやらそういうものでもなさそうです。

どうせなら根本的な指導の仕方や考えなど方を参考にした方が、いいかもしれません。
フィンランドの大使館は、今回の好成績を、以下のような分析とともに報じています。

フィンランドの生徒は、科学的リテラシーで調べた3つの能力すべてで好成績を達成。なかでも「科学的証拠を用いる能力」がいちばん優れていた。男女の得点差は、前回調査よりも縮まった。

フィンランドが好結果を得られた背景には、生徒の成績のばらつきが少ない点にある。他のOECD加盟国に比べると、下位グループに位置する生徒の数が少なく、PISA調査に参加した他のどの国よりも学校間の得点差が小さかった。

(「フィンランドがPISA で好成績」(在日フィンランド大使館)より)

実際、フィンランドの教育方針として、「誰も置き去りにしない指導」という点をしばしば耳にします。

日本の小中学校教員の労働時間(授業以外の事務も含む)は世界トップクラス。教育現場にはあまり余裕がないと聞きます。
この上、ただ授業時間だけを増やしたら、かえって「たくさんの子が置き去りになり、それを教師がフォローできない」という、フィンランドとはむしろ逆の環境に繋がってしまう可能性もありますが、どうなのでしょうか。

……などと、PISAの結果を眺めながら、そんなことを考えたマイスターでした。