APUが理工系学部を新設 エンジニア志望者、世界中から集まる?

マイスターです。

日本では、「理工系離れ」が進んでいるとよく言われます。
工学系学部の受験者はどこでも減少傾向にあり、工科系単科大学の中には、将来を危ぶむ声も多いようです。「脱・工科系単科大学」という路線を検討しているところも多いのではないでしょうか。

しかしマイスターは以前から、「本当に工学部は縮小するだけなのかなぁ?」と思っています。
例えばアジア地域を見れば、まだまだ日本の工学は魅力的な学問のはず。
世界の生産拠点として伸び盛りの中国や東南アジアから、技術者のタマゴを引き取って立派なエンジニアに育て、本国に送り返す体制をつくればいいのにと思ったりします。
日本のメーカーも、日本語と母国語ができる優秀な留学生を求めているはずです。日本の大学で工学を学び、日本のメーカーに就職して海外の支社で活躍する、なんていうニーズもあるのではないでしょうか。

そういうことをいうと、決まって日本の大学関係者は

「いやぁ、そうかもしれないけれど、現実には難しいよ」

なんてことを言われます。

でも、何が「現実には難しい」のか、マイスターにはよくわかりません。

もちろん、留学生を大量に呼ぶとなると、大変です。
相応の体制を組まなければなりませんし、対応できるスタッフも十分に用意する必要があるでしょう。海外から受験生を呼び込むための専門チームも要ると思います。

大変です、が、もともと技術者教育に自身があるのであれば、ちゃんと計画し、腹を決めてやれば少しずつでも成果はあがっていくはずです。

(過去の関連記事)
・「中国から熱い視線注がれるデジタルハリウッド大学」(2007年01月11日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50280306.html

理工系とはまた少しタイプが違うと思いますが、海外進出という点ではデジハリ大の取り組みが目を引きます。

でも、ここくらいの取り組みをしている大学って、他にはほとんどないんです。
デジハリ大よりスタッフ数や資金の上で大きな組織はいくらでもあるはずなのに、不思議です。

「日本のものづくりを復権させるためにも、大学の工学部ががんばらなくては」といった風潮が、事態をややこしくしているんじゃないかとも思います。
「世界のものづくり」のためにがんばればいいのに、と皆さんは思いませんか?

なんて普段から思っていたのですが、興味深いニュースを見つけました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「理工系学部の新設構想まとめる考え 立命館アジア太平洋大学長が報告」(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007061800097&genre=G1&area=K10
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立命館アジア太平洋大(大分県)を支援する経済界関係者を招いた「アドバイザリー・コミッティ感謝の集い」が18日、京都市東山区のホテルで開かれ、モンテ・カセム学長が理工系学部の新設構想を2010年までにまとめる考えを明らかにした。

カセム学長によると、大学には社会科学系の2学部があるが、留学生からは理工系学部の設置を要望する声が多いという。大学開学10周年となる10年を目指して、理工系学部の内容やキャンパスの場所などを決める。

カセム学長は「科学と芸術を融合させたような学部にしたい。キャンパスの場所についてはいろいろな人の意見を聞いて決めたいが、できるだけ早い開設を目指す」と話している。

(上記記事より)

立命館アジア太平洋大学、通称APU。

世界各国から学生を募集し、学部生5,128人のうち2,085人が海外からの留学生という、日本でおそらく唯一の、本当にグローバルな状態になっている大学です。

■「立命館アジア太平洋大学 国・地域別の学生数(2007年5月1日付)」(立命館アジア太平洋大学)
http://www.apu.ac.jp/home/modules/keytopics/index.php?id=284

海外からの入学者募集を専門にしているスタッフが20人以上。
彼等が世界各国を対象に活動し、その国のエリート候補生達を引っ張ってくるのだとか。
まさに、「本気で世界的な大学を狙ってます」という体制です。

ちなみにAPUでは留学生のことを、「国際学生」と呼ぶそうです。「International Students」のことですね。
「海外からの学生がいるのが普通の状態だ」ということで、敢えて「留学生」という言葉を使わないのだと聞いたことがあります。

このAPUが、理工系学部の創設を検討しているとのこと。
いま国内で流行っているのは、映像やリベラルアーツ、観光学などで、理工系はむしろ衰退していくと思われています。
今こんな検討をしているのは、おそらく日本でもAPUだけでしょう。

でも、見ているものが違うから、こういう発想になるわけです。
世界を見渡せば、日本で理工系の学問を学びたいと思う方々は山ほどいるはずです。むしろ、他の学部よりも受験生を集めやすいのではないかという気すらします。

マイスターは、このAPUの理工系学部がいったいどうなるのか、個人的にとても楽しみです。

「科学と芸術を融合させたような学部」という構想のようですが、いずれにしてもまた世界各国から、日本の技術教育に夢を抱いた学生をたくさん連れてくるに違いありません。
マイスターが冒頭で申し上げたようなことが、本当に実現できるのかどうか、大きな実験になると思います。

それにAPUが成功したら、日本の工科系大学関係者のみなさんも、視点をちょっと変えるかも知れません。
なにしろ工科系は、本当に学園の存続をかけて悩んでいたりするのです。うまくいくとわかれば、死ぬ気になって国際学生の受け入れ体制を構築するところも出てくるんじゃないでしょうか。

以上、マイスターでした。

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※おなじ九州で、数日前には↓こんな報道が流れていたりもします。

■「工学部募集停止の方針 九共大が文科省に説明」(西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/local/fukuoka/20070614/20070614_026.shtml

2 件のコメント

  • 毎日、記事を楽しく読ませていただいています。勉強になります。
    国立大学もアジアに目を向け、留学生受け入れを推進しているようです。産業の国際競争を考えると、アジアは将来の脅威と盛んに言われており、言い方は悪いかもしれませんが、なんとなく敵に塩を送っているようにも思えます。
    国立大学を国の税金で運営するのは、そこで育った人材や研究成果が国益となるからだと思うのですが、日本の税金で海外の人材を育てるのはなんだか違和感を感じます。

  • 以前このブログに中国人留学生の帰国率の話がありましたが、海外の人材が日本に定着し日本に貢献することを期待しているのでしょうか?
    それとも、放っておいても、どのみち海外の人材は欧米に流れて技術を身につけると考え、それよりは日本に来てもらって、国際交流し国の親交を深める方が国益にかなうとしてのでしょうか?
    立命館のような私立大学がビジネスターゲットとするというのは納得できるのですが・・
    記事を読んで詳しく調べてみたいと思いました。
    情報提供ありがとうございました