医学部の「へき地枠」医師不足の解消なるか(2):手を打っておくべき課題は?

出張先から、意地と執念でブログを更新するマイスターです。

・医学部の「へき地枠」医師不足の解消なるか(1):自治医科大学の仕組み(2007年05月15日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50312987.html

昨日の記事では、地域によって医師の数が偏っている現状を是正するため、政府・与党が導入を検討している医学部の「地域勤務枠」についてご紹介しました。
この制度のモデルとされているのが「自治医科大学」だということで、昨日は自治医科大学のシステムをご紹介したのでした。

(参考)
■「医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070513ik01.htm

自治医科大学をモデルに、他の医学部でも地域枠を設けてみてはどうか、ということですね。

個人的には、非常に社会的な意義の強い制度だと思います。
医師としてへき地医療に携わることを目指す方は、全国に一定数いると思います。また、現在はそういったイメージが想像できなくても、「地域勤務枠」の制度が広がっていけば、自ずとそれを意識する若者は増えていくのではないかと思います。

今の若者は、何かと批判されることも多いですが、社会的な問題に対しての感度は非常にいいとマイスターは思っています。環境問題や福祉、国際貢献を始め、なんらかの形で社会問題の解決に関わりたいと口にする高校生は少なくありません(多くの場合、それがまだ漠然としたイメージであり、あまり具体的な計画になっていないのが現状ではありますが)
「Dr.コトーの診療所」のように、へき地医療を取り上げた話も今では身近にあるわけですし、個人的には、「地域勤務枠」の制度には期待します。

自治医科大学のように学費免除の仕組みと組み合わせれば、学費のために医師への道をあきらめざるを得ない若者にとっての救済策にもなります。

ただそうなると、同時に手を打っておくべきではないかと思う点が二つ思い浮かびます。

ひとつは、へき地に勤務した若い医師のサポートです。

卒業後、すぐにへき地に勤務するということは、そばにいるベテラン医師から実地で様々なことを学んだり、定期的に学会に出席して最新の医療情報を学ぶということが困難な環境におかれるということでしょう。
優秀な医師を育てるための社会的、環境的なサポートがないと、せっかくの新人医師をつぶしてしまうことにもなりかねません。

また、へき地に勤務するということは、おおむね「総合的な医師」であることが求められるということではないでしょうか。
特定の専門領域に限らず、様々な病気の可能性を検討でき、幅広く人間を診られる医師であることが重要になってくると思います。

自治医科大学では、こうした問題を解消するための仕組みが色々と設けられています。

■「臨床研修、後期研修」(自治医科大学)
http://www.jichi.ac.jp/chisuika/kenshu.htm#1
■「卒後指導委員会」(自治医科大学)
http://www.jichi.ac.jp/chisuika/sotsugo.htm
■「顧問指導委員」(自治医科大学)
http://www.jichi.ac.jp/chisuika/shidoiin.htm

大学によっては、卒業後、遠隔地に勤務した医師へのバックアップが十分でなかったり、専門医の養成を重視していたりというところもあるかもしれません。
自治医科大学方式を導入しようとお考えの大学は、制度の骨組みだけではなく、こういった様々な工夫も参考にするとなおいいのではないでしょうか。
もしかすると、この機会にすべての医学系大学を横断する若手医師のサポート組織を作ってもいいのかもしれませんね。

もう一つ、実際に医師をへき地に定着させるための工夫も重要です。

■「自治医大卒業生の出身地定着率に格差 最低は50%」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0723/002.html

実は自治医科大学でも、この点については課題を抱えています。上記の記事にあるように、義務年限を終えた後も医師がその地域にとどまっているかというと、必ずしもそうではないのです。

もちろん、若い医師は定期的にやってくるわけですから、これでもへき地枠がないよりはましなのでしょう。でも抜本的に医師不足を解消するのであれば、やはり医師の定着をはかることが望まれます。いつも若い新人医師しかいない、というのでは、その地域の医療レベルは上がりません。「若い医師の修行の場」として利用されるだけになってしまわないよう、これについては自治医科大学の卒業生も含め、何らかの対策を打った方がよさそうです。

このことをまず議論してからでないと、全国の医学部で導入するかという話は、できないのではないでしょうか。

以上、医療の素人ではありますが、大学が関係してきそうなことを、気づいた範囲で書いてみました。
間違いの訂正や補足がありましたら、コメントいただけると助かります。

個人的には、地域医療枠には期待します。

以上、マイスターでした。