医学部の「へき地枠」医師不足の解消なるか(1):自治医科大学の仕組み

マイスターです。

現在、社会問題となっているのが、「医師不足」です。
メディアの報道を見る限り、不足には二種類あるようです。ひとつは「特定地域での医師数不足」、もう一つが「特定科での医師不足」です。

前者に関して言えば、「医師が偏っている」ということです。
東京のような大都市圏では、人口に対する医師の数も多いし、それなりにまんべんなく医療機関が存在しています。しかし地方では医師の絶対数が不足しており、場所によっては容易に医療を受けられないところもあるようです。

そんな状況を変えるべく、政府も様々な手を打ってはいます。

例えば医学部の定員増。2008年度から青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の各県では、医学部の定員を増やすことが認められています。
この10県は2004年の時点で「人口10万人当たりの医師数が200人未満で、100平方キロメートル当たりの医師数が60人未満」なのだそうです。

そしてもう一つ、検討が開始されたのが、医学部入学時における「地域勤務枠」の創設です。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070513ik01.htm
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政府・与党は12日、へき地や離島など地域の医師不足・偏在を解消するため、全国の大学の医学部に、卒業後10年程度はへき地など地域医療に従事することを条件とした「地域医療枠(仮称)」の新設を認める方針を固めた。

地域枠は、47都道府県ごとに年5人程度、全国で約250人の定員増を想定している。地域枠の学生には、授業料の免除といった優遇措置を設ける。政府・与党が週明けにも開く、医師不足に関する協議会がまとめる新たな医師確保対策の中心となる見通しだ。

地域枠のモデルとなるのは、1972年に全国の都道府県が共同で設立した自治医科大学(高久史麿学長、栃木県下野市)だ。同大では、在学中の学費などは大学側が貸与し、学生は、卒業後、自分の出身都道府県でのへき地などの地域医療に9年間従事すれば、学費返済などが全額免除される。事実上、へき地勤務を義務づけている形だ。

新たな医師確保対策で、政府・与党は、この“自治医大方式”を全国に拡大することを想定している。全国には医学部を持つ国公立と私立大学が計80大学ある。このうち、地域枠を設けた大学に対し、政府・与党は、交付金などによる財政支援を検討している。

(上記記事より)

「地域勤務枠」は、メディアによっては「へき地枠」と表記されています。医師不足が顕著な特定地域に一定期間勤務することを条件にした入学枠を、医学部に設けようというのがその主旨です。

記事にもあるように、モデルになっているのは自治医科大学のシステムです。

■学校法人 自治医科大学
http://www.jichi.ac.jp/

自治医科大学は、医療に恵まれないへき地等における医療の確保向上及び地域住民の福祉の増進を図るため,昭和47年に設立されました。
(略)毎年,広く全国の各都道府県から,本学の建学の精神に共鳴する若人を募っています。入学試験は,第1次を各都道府県で,第2次を大学で行い,人類愛に燃え,将来、出身都道府県で地域医療に挺身する気概と情熱に富んだ優秀な学生を選抜するよう努めています。

学生は,在学6年間を通じ寮で起居を共にし,自律協調の精神と責任感を涵養します。また,出身都道府県との結びつきを強め,へき地等地域医療への認識を深めて人道的医療への使命感を固めるよう努力しています。

卒業後は,その修得した医学知識と医療技術と使命感を持って出身都道府県に戻り,地域医療に従事します。

学生に対しては,修学に要する経費を貸与し,卒業後,所定の期間,知事の指定する公立病院等に勤務した場合は,その返還を免除する措置を講ずることになっています。

(「設立の趣旨」自治医科大学より)

自治医科大学は、学校法人の形を取ってはおりますが、元々自治省(現・総務省)によって設立された経緯を持つ、やや特殊な機関です。設立趣旨が上記のように政策的・公的なものであり、現在も総務省の職員が出向して事務局を統括するなど、今も通常の医科大学とは異なる部分が多いようです。

そんな自治医科大学の特徴を表すのが、「義務年限」という言葉です。

【Q1】義務年限とはどんなものですか。
【A1】
本学医学部学生は、本学と修学資金貸与契約を締結し、在学中は授業料等の修学に要する費用を貸与されたうえで勉学し、卒業後は、出身都道府県に戻り、一定の期間を知事の指定するへき地等の公的医療機関で医師として勤務することとなります。この一定の期間をいわゆる義務年限と称しています。義務年限は、修学資金貸与期間(在学期間)の1.5倍の期間であり、6年間で卒業した場合の義務年限は9年間となります。
 
【Q2】義務年限開始の起算日はいつからですか。
【A2】
本学を卒業後、医師として都道府県職員に採用された日の属する月から起算されます。

(「よくあるQ&A」(自治医科大学)より)

上記のように、6年で卒業すれば義務年限は9年間。この間、指定の医療機関で医師として勤務すれば、医学部で学んだ学費が、結果的にすべて免除されます。
(一度大学から学費を借りて、義務を果たしたらその返済義務がなくなる、という形を取っています)

このように自治医科大学は、当初から「へき地医療」の問題を解決するための機関として、様々な体制を構築しています。

冒頭の報道は、この「自治医科大学方式」を全国の医学部に広めよう、というものです。

政府は昨年8月、「医師確保総合対策」を策定し、医師不足で悩む県にある大学医学部の定員増を暫定的に認め、2008年度から最大110人を認めた。しかし、医師不足解消の見通しは立たず、来年度予算編成に向け、追加対策が必要だとの声が政府・与党内から出ていた。

今回、新たに地域医療を強化するのは、現在の医師不足問題が、医師の絶対数不足よりも、都市と地方の医師の偏在に、より問題があるとみているためだ。

厚労省によると、人口10万人当たりの医師数は、全国平均の211・7人(2004年)に対し、青森(173・7人)、岩手(179・1人)、岐阜(171・3人)などと東北を中心に平均を大きく下回る。東京(278・4人)など大都市との格差が大きい。また、02年度の立ち入り検査では、全国の4分の1の病院で医師数が医療法の基準を下回った。

(「医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除」(読売オンライン)より)

このように、医師の偏在を解決するために、自治医科大学のシステムが有効だという話になったわけです。

個人的には、実現すれば、非常に社会的な意義の強い制度になると思います。大いに制度の実現に期待します。

……と、もうちょっと書きたいのですが、長くなってきましたので、続きは明日にします。

以上、マイスターでした。

(医療の問題についてマイスターは素人ですので、間違いの訂正や補足がありましたら、コメント欄にてご指摘いただければ幸いです)