センター試験の得点が4割以下でも入れる大学、62校

センター試験世代のマイスターです。

受験生としてセンター試験を受けた日。
試験会場から駅へ向かうバスの中で、同級生達が数学の試験の答え合わせをしていました。
マイスターもこっそりそれに聞き耳を立てていたのですが、マイスター以外の全員が、全問同じ解答でした。口には出しませんでしたが、マイスターの解答だけ、皆と色々な箇所で異なっていました。
そう、マイスター以外は皆、全問正解していたのです。

これから入試が始まるってタイミングで、いきなり味わう絶望感。
人生って厳しいよなぁと、バスの窓に映る自分の顔を見てしみじみ思った、マイスター18歳の冬でした。

センター試験はいつも、平均得点率がだいたい60%程度になるように作成されています。実際にはなかなかそうキレイに6割とはいきませんが、それでも前提としては「平均が60%程度になる試験」を目指して作られているのですね。

そしてセンター試験には原則として、基礎的・基本的な知識で解ける問題しかありません。しかし、ただ簡単なだけでは、皆が全問正解してしまいます。学力を判定する試験である以上は、受験者の得点の分布がある程度はひろがらなければなりませんよね。そこで、基礎的なレベルだけど問題数はそれなりにあったり、正確にこなしていかないと引っかかる内容になっていたり、色々と工夫されているわけです。
逆に「全問解けなくても、基礎的な知識をちゃんと持っていればそれなりの得点は取れる試験」という言い方をされることも多いようです。

ですから、私立を含めた多くの大学の入試で、センター試験の得点が利用されるわけです。センター試験である程度の点が取れていれば、基本的な学力は一応身に付いていると判断できるわけで、大学にとってはとても便利なのです。

しかしそんな状況も、最近では少し変わってきたようです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「入試は変わったか<4> センター試験新たな役割」(読売オンライン)
http://osaka.yomiuri.co.jp/university/rensai704/dn70503a.htm
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近年、首都圏の志願者が7割を占め、「かつてのように全国の学生に来てほしい」とセンター利用を決めた。入学センターの榎本久美子課長は「半数以上が首都圏以外からの出願。まずまずの成果があった」と手応えを感じている。

今年のセンター試験に参加した私立大は450校。共通一次試験に代わり、私立大も利用できる試験が始まった1990年度は16校だった。今は私立大全体の8割を超え、3年前からは短大も加わった。年々、参加校が増え続ける背景には、全入時代を迎え、受験生の獲得競争が激化していることがある。
(略)
ほとんどの私立大がセンター試験で合否を判定する定員枠を設ける。センター試験を受ければ複数の大学を併願できるので、大学側にとっては出願してもらいやすい。今年は735会場で実施。全国津々浦々で試験を行うのに等しいというわけだ。

高校側も、生徒の志望が国公立か私立かに関係なく、センター受験を指導する傾向が定着。「センター試験は大学入試の中心になった」(滝紀子・河合塾教育研究部長)といえる。

しかし、参加校の増加に伴い、「今の問題では難しすぎる受験生も多くなってきた」という声が一部の私立大にある。受験生の自己採点の集計をもとにした1月末時点での代々木ゼミナールの予想では、今春入試で「センター枠」があった私立大のうち、62大学計171の募集枠で合格ボーダーラインが得点率40%以下だった。

大阪府内の私立大の入試担当者は「学力が下位層の受験者の間では得点に差がつかない。もっと易しい試験が必要では」と言う。

(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

基礎的な問題しか出ないセンター試験。そのセンター試験の内容を30数パーセントしか理解していなくても、大学に入れるのです。

「大学全入時代」
「選り好みさえしなければ、今や全員がどこかの大学に入れる」

……ということは理解しているつもりでしたが、センター試験の点数で表現されると、また違ったインパクトがありますね。

毎年、センター試験の翌日の新聞には、試験の問題と解答が掲載されます。その問題を研究室棟の掲示板にでも貼って、「注:ウチに入学する生徒のボーダー得点率は32%です」などと書いておきましょう。「これで4割取れない生徒がウチに入ってくるのか……」と、教員の皆様の意識が変わること請け合いです。

マイスターが思うに、20ウン点の点数でも入学させている大学なんてのも、世の中には多分存在すると思います。4択の問題なら、適当にマークしていっても確率的には25%正解するはずですから、こうなるともう学力診断としては使えませんよね。
でも、そういうことが起きているのが現実なのです。

そういう生徒をどう教育するかを、これから大学は考えていかなければならないのです。

ところで冒頭の記事には、続きがあります。

今の試験と異なる「基本的な学力を測る試験を」という大学の要望は、別の事情からも強まっている。

「AOには学力の保証がない」「AOや推薦に間に合うよう夏休みに試験を」……。大学入試センターが2005年から今春まで、有識者に意見を聞いた「センター試験の改善に関する懇談会」では、AO・推薦入試の志願者を対象に新試験の実施を求める意見が続出した。今や私立大全体ではAO・推薦入試による入学者が半数近くに上り、国公立大でも15%を占める。

委員の浜名篤・関西国際大学長は高校1年レベルの達成度を見る「資格試験型」を提案する。「従来の大学入試に代わる学習の動機付けが必要。現状では学習が不十分でも入学でき、大学教育についていけない学生を生んでいる」。

一方、高校側は消極論が強い。同じく委員の渡辺健治・東京都立豊島高校長は「新試験は生徒の負担増になり、実施時期によっては教育現場が混乱する可能性もある」と代弁する。

(上記記事より)

AO・推薦入試を受験する学生のために、「最低限の学力を持っているかどうか」を測る試験を実施して欲しい。そんな要望があるようです。

でもマイスターは、こうした意見には違和感を覚えます。
こういう意見を出される「有識者」の方々というのは、AO入試を単なる青田買いのための手段としてしか捉えていないのかな、なんて思ってしまいます。

何度も申し上げていることですが、元々AO入試というのは、

「自分達の教育に最もマッチしている人材」
「自分達の大学で、大いに活躍できそうな人材」

……を掘り起こすための人材採用スタイルです。

ですから、例えば面接と小論文だけでAO入試をやるのなら、

「ウチが教育のために一番重視する部分は、この面接と小論文で判断できる! このAOを突破した学生は、必ず将来、本学が誇る人材になる!
だけど学力試験を課さないわけだから、この分野にどうしても必要な基礎学力については、入学後でも一から学び直せるような体制にしておこう」

という覚悟が必要なのです。だって、もともとそういう主旨の選抜方法なんですからね。

もし、

「AO入試で採用した学生の学力が不足しているから、教育が成り立たなくて困っている。AO入学生といえど、基礎的な学力は持っていてくれないと大学としては困るんだ」

というなら、始めからAOをやらないか、もしくはAOの選抜方法に工夫をすればいいのです「数学と英語の評定平均が○○以上」みたいな制限を、AO出願条件としてつけるとか、色々と方法はあるでしょう。
そういう方向ではなく、「AO入試者のための共通学力試験をつくってほしい」なんていう声が上がってくるというのは何か、本末転倒な気がします。

さらに、ここからはマイスターの個人的な願いになるのですが……

「高校では授業をちゃんと受け、その上で自分のやりたいことを探し、それに没頭する3年間を過ごす。ある程度の成果を上げたら、大学側からオファーが来る」

……みたいな世の中こそが理想だとマイスターは思っておりますし、そういう社会にしてやろうと本気で考えています。で、今はまだ不完全かもしれませんが、AO入試にはそういう社会の実現につながる可能性が埋もれているのではないかと、マイスターは日々感じているのです。ですからここで中途半端にAO入試を、大学が「学生の数」を稼ぐための仕組みに貶めてほしくない、と個人的には思うのです。

第一、新しい試験なんか作ったら、高校側はセンター試験対策に加え、その試験のことを意識した授業も行う羽目になるでしょう。生徒の受験勉強も早まります。マイスターが望む方向と真逆の結果になりそうで、心配です。

長くなってきましたので、この辺にします。

「センター試験で4割取れない学生」でも大学に入ってくる、というこの状況。
もう予断を許しません。これからの大学教育がどうあるべきか、これまでとどう変わるべきなのか。早急に行動に移していく時期に来ているように思います。

以上、マイスターでした。