マイスターです。
大学が新設する学部にも、流行り廃りがありますよね。
ちょっと前までは、情報系の学部を作るのが流行っていた気がします。
●アメリカにITバブル到来。日本でも、情報系人材がもてはやされ始める。
↓
●日本の大学、世の中からワンテンポ遅れて、情報系学部の新設をじっくり「検討」しはじめる。設立の委員会を立ち上げたり、文科省に申請を出す準備を進め始めたりする。
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●アメリカでITバブル崩壊。
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●認可が下り、日本の大学に情報学部がいっぱい誕生。
という、見ていてやきもきする状況が起きていたような気がします。
情報系学部を出た人材は今後も必要とされるでしょうから、学部新設は悪くない判断だったと思います。ただ、当初想定されていたほどのフィーバーにはならなかったんじゃないでしょうか。ウッハウハな状況を期待した大学は、肩すかしを食らったのではと思います。
大学組織の立ち上げも、人材の育成も、それなりの時間を要するものです。
時代の要請にあった学部を、タイミングよく設立するというのはなかなか大変です。
さて、最近の流行はというと……どうやらこの分野みたいですよ。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「『観光』大学、東に西に 生き残りかけ、受験生にPR」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200612070230.html
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「観光学」を研究テーマにした学部や学科を設ける大学が急増している。05年度までは全国で19校だったが、今年度は5校増え、来年度もさらに5校が開設準備を進めている。就職先として人気の高い旅行関連会社への橋渡し役として学生にアピールしたい大学の思惑と、観光産業の成長を商機ととらえる経済界の期待がブームを支える。乱立の気配に、観光学を「生き残り」の柱に据えてきた大学は「このままでは埋没してしまう」と深刻に受け止め、新たな対策に乗り出した。
(上記記事より)
今は観光系の学部や学科が注目されているようですね。「観光学部」はかなり珍しい存在でしたが、最近では、わりと名前を耳にする機会も多くなった気がします。
確かに、「観光」は学問的にも様々なアプローチの仕方がありそうで、学ぶにはとても面白そうです。日本が観光立国を目指すのであれば、やっぱり観光学の教育・研究は充実していた方がいいでしょうし。
この観光系学部・学科の設立ラッシュを支えるのは、やはり観光業に対する学生の就職人気でしょう。
学生の就職先人気ランキング(特に女子学生の部)には、毎年必ず上位に、JTBなどの旅行代理店がノミネートされています。華やかで楽しげなイメージも人気を後押ししているのでしょう。
大学としては、そんな観光業の強い人気を味方に付けたいということなんだと思います。
(もっとも実際の旅行代理店の仕事は、かなり地味で根気のいる作業の積み重ねで成り立っていますので、そんなに華やかな場面ばかりでもないと思われます。配属される職種にもよりますが、手配しまくり確認しまくり、コスト計算しまくり頭下げまくりというハードな一面があるのもどうぞお忘れなく…… >就職活動中の学生様)
また「観光」は、別の人気ワードである「国際」と相性がいいのもポイントかもしれません。実際、「国際観光なんたら」といった名称の学科は、既にいくつかあります。
このように前途洋々にも思えますが、しかしこの学部・学科の新設ラッシュ。
あまりにも急に増えると、「本当に、こんなに作っちゃって大丈夫なのかな?」と心配になるものですよね。
そのあたりについて、北海道大観光学高等研究センター長・石森秀三氏が、冒頭の記事で以下のようなコメントを出されています。
首都圏の私大は90年代、国際、環境、情報などの学部・学科の新設で生き残りを図った。それに乗り遅れた大学が目をつけたのが観光だった。すでに学科を廃止した大学もあり、観光をとりまく環境は楽観できない。観光産業に人材を送り込む目的だけの大学はもはや必要とされておらず、地域再生の切り札として観光振興を模索している自治体やNPOと協働できる人材の育成が求められている。
(上記記事より)
安易な設立は危険だよというご指摘です。確かに。
日本の大学では、学部というのは一度作ると廃止するのが大変です。学部で多くの教員を抱えることになりますから、廃止するとなると、彼らの居場所がなくなります。当然そんな廃止決議は、教授会を通りません。
したがって新設するなら、今後の市場展望をかなり悲観的に予測する厳しいマーケティングをやって、それでもなお生き残れるという計画を立てるのが、本来のあり方です。もしくは最初から、学部ではなく「観光プログラム」や「観光学コース」程度の、いつでも解体できる緩やかな体制にしておくのも、リスク回避としてはある程度有効かなと思います。
「観光産業の成長を商機ととらえる経済界の期待がブームを支える」と記事にはありますが、経済界の「商機」は数年単位で変わります。
それに、理工系や医療系の学部と違って、観光学部はそれほど教育設備への初期投資を必要としないように思われます。ということは今後、人文・社会科学の大学でお手軽なブームとなり、「観光なんたら学部・学科」がばんばん作られてしまうという可能性もないわけではありません。
そうなったら、いくら観光産業が人材を募集していると言っても、そのうち供給過剰になるかもしれません。(別に観光産業が、観光系の学部学科からだけ人を採用しているというわけでもありませんしね)
もともと就職人気を当て込んでいる部分が大きいだけに、「思ったよりも就職が良くない」なんてことになったら、観光学部の魅力は減少します。しっかりした教育をやって企業から信頼を得ているところは残るでしょうが、安易に作られたところは意外に早く廃れていくかも知れません。
そんなわけで観光系の学部や学科を作るのなら、念には念を入れて「数年後、供給過多に陥る」という可能性も、あらかじめ想定しておいた方がいいのではないかと思います。なんとなく、どっしりした重厚な組織を作って対応するのは、後発組にはちょっとリスキーであるような気がします。
とはいえ、例えば京都や奈良などの地域には、研究拠点を作る意味も含めて、観光学部がいくつかあってももよさそうです。産学連携でもユニークな取り組みができそうですし。
研究でも教育でも、企業や地域と連携して独自性のある魅力的な取り組みをやるところなら、継続して学生を集められるのかも知れません。
観光学の将来、いかがでしょうか。
以上、マイスターでした。