マイスターです。
■「最高裁判所判例集:不当利得返還請求事件」(裁判所 判例検索システム)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33837&hanreiKbn=01
前納金の返還訴訟、↑こちらで判決文を読むことができます。
ご興味のある方はどうぞ。
さてこの裁判、メディアの関心も非常に高かったです。
先日のニュースクリップでご紹介したように、多くのメディアが判決を報じていました。
では、この判決、メディアはどのように見たのでしょうか。
各紙の社説をチェックしてみました。
まず、判決を手放しで評価するのが産経新聞です。
■「学納金返還訴訟 最高裁の判断を評価する」【産経新聞】
http://www.sankei.co.jp/news/061129/edi000.htm
授業料についても、法外な違約金を禁じた消費者契約法が施行された後の平成14年度入試以降に限るとした。また、入学辞退の申告期限を年度が替わる直前の3月末までとした。いずれも常識にかなった判断である。
(上記記事より)
最高裁が「消費者契約法」を根拠にした点を評価しています。各大学は、「今後は最高裁が示した基準に合わせるべきだ。」とも。
続いて、信濃毎日新聞の社説が↓こちら。
■「大学の前納金 納得のいくルールで」【信濃毎日新聞】
http://www.shinmai.co.jp/news/20061129/KT061128ETI090003000022.htm
消費者保護を目的に制定された消費者契約法に基づく判断だ。受験生や保護者が納得できるルールがようやく示された。この判例が前納金の扱いの明確化につながることを期待する。
(上記記事より)
と、産経同様、明確なルールができたことを評価しつつ
一方で、授業料などを返して収入が減った場合に、どう経営を改善させるかが課題になる。入学金や授業料を安易に引き上げるようでは、受験生らの反発を買うだけだ。
学生を増やし経営を安定させるには、魅力あるカリキュラムや就職指導などの充実が欠かせない。目先の変わった学部を新設するだけでは学生は集まらない。どんな学生時代を過ごし、何を身に付けられるのか。学生を引きつけるものを追求し、広く伝える努力をしてほしい。
(上記記事より)
……と、大学に釘を刺すことを忘れません。
この、「入学金を値上げするようなことはするなよ」という指摘は他の社説でも散見されました。
例えば今回返還の対象になったのは「授業料」だけだけれど、だからといって入学金を値上げしたりすると、そちらも返還の対象になりかねませんよ、という言い方で大学を牽制する形が、↓こちら山陽新聞の社説です。
■「大学前納金判決 経営体質改善への契機に」【山陽新聞】
http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2006/11/29/2006112908272398002.html
入学金については「大学に入学できる地位を取得するための対価」として返還請求を認めなかった。だが、「不相当に高額な場合は別」と大学側にもくぎを刺した。
授業を受けてもいないのに授業料を払うことは納得し難い。最高裁判決は、入学辞退の時期で明暗を分ける形となったが、大学の悪しき慣行を戒めるものといえよう。(上記記事より)
ふむふむ。
入学金については、河北新報の↓こんな指摘も。
■「授業料返還訴訟/大学は入学金も柔軟対応で」【河北新報ニュース】
http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2006/11/20061129s01.htm
消費者契約法が根拠である以上、専門学校なども大学と立場は同じになる。授業料については足並みをそろえた対応をすべきだ。
入学金は「入学できる地位を得る対価」という性格から、かなりの高額でない限り辞退によっても法的な返還義務は生じない。授業料と意味合いが違うのは理解できるが、受験生の親には釈然としない思いが残るだろう。「捨て金」覚悟で払わざるを得ないケースもあるからだ。
納付期限を延ばし、より多くの大学の入試結果を参考にできるようにするのが本来のあり方だろう。一定期間内に辞退したら一部は返還するといった良識ある対応も探るべきだ。
(上記記事より)
専門学校など、他の学校にも今回の判決が影響を及ぼすことを指摘。その上で、入学金の納付期限を延ばすなどして学生側に配慮すべきと指摘しています。
さて、今回の判決では、「消費者契約法」の施行以前、以後で受験生側の明暗が分かれました。各紙とも基本的にはこの最高裁の判断に一定の理解を示しています。
しかし、この判断に「違和感が残る」と書いているのが、↓こちらの徳島新聞です。
■「前納金返還訴訟判決:とりあえず基準ができた」【徳島新聞】
http://www.topics.or.jp/Old_news/s061130.html
今回の訴訟の原告は、日本大など二十校の入学辞退者計三十四人。判決は、追加合格などで入学辞退者の補充が困難となる四月一日以降とそれ以前に分けて判断した。
同日以前の辞退者については、大学側が辞退者を見込んで合格者を発表していることなどから、辞退による実害が大学側に発生しないと判断、授業料などには返還の義務があるとした。
今回の訴訟で最高裁は、大学の入学契約に、二〇〇一年に施行された消費者契約法が適用されるとした上で、個々のケースを判断した。このため同法施行前の返還請求は退けられた。
しかし、前納金が問題化したのは同法施行前であり、施行前と後とで問題の本質は変わらない。前納金の返還が一般の消費契約と同列に扱われたことへの違和感が残る。
(上記記事より)
「消費者契約法」を根拠にしたのは間違いだったのでは、という指摘です。なるほど。
↓日経は、また違った角度から、今回の判決を読んでいます。
■「社説:学費返還、最高裁判決は出たが」【日本経済新聞】
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20061127MS3M2700627112006.html
新年度が始まった後に入学辞退の意思表示をした場合は大学側に損害が発生し、辞退者から得られるはずの1年分の授業料が「平均的な損害額」になるとして、その範囲で前納授業料の“没収”を認めた。
前納学費を返さない大学の入学要項は、金額が大きいだけに、随分昔から問題にされてきた。大学側がやっと批判をいれて制度の改善に動きだしたのは消費者契約法施行が契機だった。多くの大学は、3月中に入学辞退すれば授業料は取らないようになっており、最高裁の判決は大学側の対策に法解釈上のお墨付きを与えたものといえる。
ただ多額の学費を無駄に納めた側にとっては、大学側に「前納学費を返さないのは正当な契約だ」と胸を張られて、釈然としない思いが残るのではないか。教育を受ける場の選択を普通のサービス取引契約の締結と同列に論じて良いのかとの素朴な違和感は否定できないし、入学者選抜で大学側が優越した立場を乱用している感覚もある。
(上記記事より)
4月以降の辞退であれば授業料を返還する義務はない、という判断が示された点について、授業料を受けていないという点では変わらないはずだ、これでかえって大学が堂々と「没収」をするようになってしまうのではないか、という批判です。
……と、各紙の社説をいくつかご紹介させていただきましたが、いかがでしょうか。上記で取り上げなかったものもまだあります。
■「大学前納金判決 受験する側の実感酌む」【中国新聞】
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200611290128.html
■[私大の前納金] 「返還の道筋つけた判決」【南日本新聞】
http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=200611&storyid=1534
見てきたように、各紙の意見にはそれなりに違いがあります。
大学人としては、どのような見られ方をしているか気になるところ。ぜひ参考として、幅広く各紙の社説に目を通してみてください。
ちなみに全体として、↓以下のような論調は共通していました。
○大学はこれまで不当に搾取してきた
○しかも、問題が指摘されてきたにもかかわらず、大学人達は自分たちでそれを改めようとしてこなかった
○今後は、大学にも競争時代が来る。学生のことを考える大学でなければ生き残れない
これまでの大学の姿勢について、かなり厳しい見方をしている点は、どこも同じでした。この点についてはおそらく、実際の「社会」の見方もそうでしょう。
大学側にも部分部分で様々な言い分はあると思いますが、まずはこうした意見があることを十分に理解することが大切かと思います。
以上、マイスターでした。
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(おまけ)
大学再編についても、社説がいろいろ出ています。
いくつかあげてみました。
■「社説:特色なしに生き残れぬ 私大再編」【中日新聞】
http://www.chunichi.co.jp/00/sha/20061127/col_____sha_____001.shtml
■「私大合併/学舎の魅力を高めてこそ」【神戸新聞】
http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/0000176110.shtml
■「慶応・共立薬大 私立にも合併再編の大波」【山陽新聞】
http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2006/11/27/2006112709214027003.html
■「社説:加速する大学生き残り競争」【日本経済新聞】
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20061125MS3M2500F25112006.html