「団塊の知恵、大学で活用 教授養成へ講座 神戸の経営コンサル」

マイスターです。

昨日に続いて、大学教員を養成しよう!……という話題をご紹介します。
ただ、昨日のとは、かなり意味合いが異なります。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「団塊の知恵、大学で活用 教授養成へ講座 神戸の経営コンサル」(神戸新聞)
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/kz/0000163699.shtml
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経営コンサルタント会社のブレーン・サポート(神戸市須磨区)は、定年を控えた団塊世代を対象に、大学教員の養成セミナーを開く。企業の意向にこたえ起業家育成など実務に役立つ講座を設ける大学が多い点に着目。団塊世代の現場経験をテキストや論文の形にまとめたり、講義に役立てるためのノウハウを伝授する。

セミナーは十一月下旬から。営業や財務、経営企画などの分野で、現役の大学教員や同社の木村俊良社長らが指導する。月二回ペースで開講し、最長で三年間まで受講できる。

起業家講座などを設ける大学では学内の教授ら以外に、ビジネスの現場を知る外部の人材を非常勤講師などとして招くケースが多い。

同社はセミナーの指導と並行して、大学の求人情報も集め、受講者に紹介する。

木村社長は「定年後も働きたい団塊世代と、実務経験を持ち講義などができる人を求めている大学を、このセミナーでつなぎたい」と話している。

受講料は三万円から。
(上記記事より)

というわけでこちらの報道は、「退職後の団塊世代を、大学講師として養成する」という事業を紹介するものなんです。

「いつかは、大学で教えてみたいなぁ」と思っている方って結構世の中にいるような気がします。実際マイスターもこれまで何度か、そういう願望を持っている方の話を聞いたことがあります。皆様の周りにもおられませんか?

どういうことかと詳しく聞いてみるのですが……どうも以下のような動機が多いように、マイスターは思います。

○若者の育成に貢献することで世の中の役に立ちたい、という公共への奉仕精神

○「教壇に立っている自分」というイメージへのあこがれ

○定年後の時間を有効に使いたい、できれば自分にとっても知的刺激になるような経験をしたいという自己実現欲求(主に年配の方)

○あのときはつい普通に就職活動なんてしちゃったけど、もし大学に残っていればそのうち教授になってたのにな、という謎の後悔&根拠なき自信(主に20代)

社会への貢献はいいのですが、単なるあこがれイメージだけで「いつかは、大学で教えてみたいなぁ」と語る方も少なくないんじゃないかな……なんて感じなくもありません。もちろんそんな方ばかりではないのでしょうが、マイスターの周りには、そういう方が結構います。世の中の役に立ちたいという思い、プラス、知的な人に見られたいという「見栄」とが、大学の教壇に対するあこがれの元になっていることも多いのではないかと思われます。
そもそも考えてみれば、真剣に研究者になろうと思っている方は「いつかは、大学で教えてみたいなぁ」という言い方はしませんよね。

それはともかく、大学の教壇にあこがれイメージを持っている人って、若者から定年後の方まで、幅広くおられるような気がするのです。
そんなことから考えるに、こういうセミナーに参加したいと思う方も、ある程度は世の中にいるのではないでしょうか。

さてこの事業。
大学関係者の皆様はどう思われますか?

まず、今回の記事では「外部の人材を非常勤講師などとして招くケースが多い」という背景が紹介されていますから、研究者ではなく、基本的に授業のみを担当する「講師」を養成する話だと理解して良さそうです。
で、研究者以外の方の知恵や知識を教育に活用することが、大学にとっても重要なテーマであるのも事実です。

しかし、こういったセミナーでそれが達成されるかというと……さて、どうだろうなとマイスターは思います。

起業家講座などを設ける大学では学内の教授ら以外に、ビジネスの現場を知る外部の人材を非常勤講師などとして招くケースが多い。

こういった動きは確かにあります。あるのですが、ただ、企業人のOBを教育に活用するにあたっては、色々な問題も発生していると聞きます。
特定の授業の一コマにゲストスピーカーとして出演するのと、全15回の授業を自分で計画し、高等教育レベルの「学び」として実践するのとには、大きな違いがありますからね。

大企業でずっと活躍してきた方だからといって、授業を運営できるかというと、そうではないのです。
大企業で活躍していたものの、教育には向いておらず、「毎回、自分の体験談を語って、あとはオフィスを見学させる機会を設けて終わり」みたいな授業をやってしまう講師の方も、世の中にはおられるようです。もちろんそんな授業で単位を出すのは不適切ですね。

そう考えると、

月二回ペースで開講し、最長で三年間まで受講できる。

……というこのペースで、果たして本当に、大学が求める講師が養成されるのかな? と疑問も感じてしまうのです。

(冒頭の報道だけでは実態がわからないので、詳細を調べようと思って企業のサイトを探すと、これが見つからないのです。「株式会社ブレーンサポート」というのはベンチャー企業らしいのですが、どうやらサイトがありません。詳細を知りたい方は、冒頭の神戸新聞の記事に電話番号が書いてありますからそちらにどうぞ……ということみたいです)

記事にある情報だけで判断する限り、個人的には、今のところこのセミナーは「団塊世代向けビジネス」の一種、という枠を超えるものではないように感じられます。

同社はセミナーの指導と並行して、大学の求人情報も集め、受講者に紹介する。
木村社長は「定年後も働きたい団塊世代と、実務経験を持ち講義などができる人を求めている大学を、このセミナーでつなぎたい」と話している。

大学の求人情報は、公開されているものだけでもそれなりの数になりますから、情報をリストアップして受講者に提供するくらいのことなら誰でもできるでしょう。しかしそれだけで団塊世代の経験と、大学のニーズをつなぐことはおそらくできません。
そうではなくて、例えば大学と特定企業とで契約を結び、大学が求める人材を発掘したり育成したりしてくれる総合的な人材紹介事業を展開するとか、そういう構想であるのならまだわかります。
上述したように、大学側には、

「特定領域でプロフェッショナルとして活躍してきた方の知識を、教育に取り入れたい。しかし、その方に十分な教育能力があるのかどうかがわからない」

という悩みがあります。正規の教員(研究者)の採用なら、研究業績や教育経験などを元にある程度の判断もできるでしょうが、実務知識を教える講師ではなかなかそうもいきませんからね。
大学のこの悩みを解決してくれるのであれば、この企業の事業にも可能性があるかもしれませんが、実際は、さてどうなのでしょうか。
今後に注目です。

ところで、「就職アドバイザー」などの制度に関しても、同じような問題が起きることがありそうです。
現在いくつかの大学では、企業のOBを就職課で雇用し、学生の就職活動に助言を与えるアドバイザーとして活動してもらう、という取り組みを行っているようですね。

でも企業でそれなりの地位まで行ったからといって、就職活動に関する助言を、学生に対して教育的にうまく行えるかというと、必ずしもそうではないですよね。
自分の経験だけですべてのアドバイスをしてしまう、ということは、考えてみると逆に問題でもあります。また自分が就職活動をしていた頃と今とでは状況が違う、ということがわからず、根性論とか抽象論みたいな話ばっかりをしてしまう方だっていそうです。
学生の適性をうまく見てそれぞれにあったアドバイスを行える方ならいいのですが、そうでない方だとかえって学生を混乱させたり、学生の自信を過度に失わせたりしてしまうかも知れません。

企業で活躍されていた方の知識を大学で活かす、ということ自体には、マイスターは大賛成です。ただ、正規の授業を1コマ全部任せるといったレベルの取り組みについては、それなりに慎重になるべきだと考えます。
ちゃんとそれなりの教育訓練をするとか、正規の教員との二人組で授業を担当するとか、限定的なゲストスピーカーとしての参加に留めるとか。あるいは、企業人OBであっても「ある程度の教育体験」をお持ちの方だけを講師として迎える、という考え方もあるでしょう。方法は色々ありますが、とにかく安易なことにはしない方がいいのではないかと思います。
大学にとって最終的な目的は、学生のためになる教育を実現させることであって、別に団塊世代の方の居場所を作ることではないのですから。

以上、マイスターでした。