大学院の学費は全額、借りたマイスターです。
欧米と比べて日本の大学がまだ見劣りしている部分の一つが、奨学金の充実度です。
もともとヨーロッパでは学費無料の国が多い上、学業に必要な奨学金が給付されてしまったりします。国家的に、教育にお金をかけているところが多いのかもしれません。
アメリカは学費こそ高額ですが、奨学金の種類や額が豊富だと聞きます。また、奨学金担当が専門職としての地位を確立させていることもあって、大学からのサポートも手厚いのだとか。
アメリカの場合、資産運用収入を奨学金に充てているところが少なくないようです。
(参考)
・ハーバード大学の基金運用担当者
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50158024.html
アメリカでは、大学によっては「成績上位1/3は学費無料」なんていうとんでもないところもあるようですが、そういった充実した奨学金を支えているもののひとつが、大規模な基金運用だったりします。
一方日本では、大学の収入の大部分は、学費収入です(※学部構成によっても違ってきます)。この状態で奨学金を充実させようと思うと、
「ゆとりのある学生が払った学費を、ゆとりのない学生のために使う」
という構図になります。これだと奨学金をもらえない学生は、なんだか不平等だと思うかも知れませんし、支援額にも限界があります。
資産運用や各種事業で得られた収入があれば、もっと奨学金を充実させられるのに……と、多くの大学の財務担当者は思っているはずです。
そんなわけで、こんな報道をご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「早大、奨学金4割増やす・投資先を多様化」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20061108AT2D0202108112006.html
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早稲田大学は2007年度に奨学金制度を拡充する。保有する金融資産を外貨建て債券などで積極運用して受取利息・配当金を増やすことで、奨学金の総額を今年度に比べ44%増の23億円とする。少子化で私立大の財政事情が厳しさを増すなか、運用効率化で財源を強化し、学生への還元を進める。
早大の06年3月末の金融資産残高は1027億円に上る。現預金中心の安定運用を段階的に見直して、今後は米ドル、ユーロ建ての外債や不動産証券化商品など投資先の多様化を進め、運用収益の増加を狙う。
(上記記事より)
■「早稲田大学奨学課」(早稲田大学)
http://www.waseda.jp/syogakukin/
早稲田大学が奨学金の規模を大幅に拡大するという報道です。資産を積極運用していることが背景にあるといいますが、それにしても44%増というのは大きいです。学生支援を徹底する決意のようなものを感じます。
記事にもあるように、私大の財政が全体として落ち込む中、こうやってサービスをより充実させていく大学もあるわけです。大学の経営状態が教学部門に与える影響は、年々大きくなってくるのではないかと思います。財政が良好な大学では学生サポートも充実しているけれど、貧乏な大学では貧相なサービスしか受けられないという傾向が、より一層顕著になるでしょう。
今回の報道を見て、思い出した本があります。
早稲田再生
一年前にもご紹介させていただきましたので、詳しい内容については↓こちらをご覧ください。
・「早稲田再生」 大学の財務改革ケーススタディ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50064384.html
早稲田大学と言えば日本を代表する私立大学のひとつですが、実は数年前まで財政が悪化した状態が続いておりました。
上記の本に書かれているのですが、1994年の時点で早稲田大学の借入金は390億円。帰属収入額に対する負債額の比率は55%で、有力私立大学13校平均のおよそ3倍。借入金利息比率は3%でした。
お金を借りるのはともかく、その借り方がずさんだったのですね。放っておいたら10年後には借金が倍にふくらむという状態だったというのですから、シャレになりません。
もしそのような経営をその後も続けていたら当然、冒頭でご紹介したような奨学金の拡充なんて実現できなかったでしょう。
早稲田大学の財政が健全化し今回のような奨学金拡大が可能になったのには、もちろん早大の皆様の努力があるわけですが、それを先導した關昭太郎・財務担当常任理事(上記『早稲田再生』の著者)のお力によるところが大きいのではないかと思います。
証券会社の社長だった關氏が、大学の財政再建のために早大に招かれ、財政改善の手を打っていく様子は、『早稲田再生』に綴られています。
マイスターは大学財政に関してはあまり詳しくありませんが、それでもこの本は非常に興味深く読めました。財政問題はもちろん、大学組織の責任体制についても考えさせられる内容で、まだ読んでない方にはオススメです。
財政が健全なら、学生に対してより良いサービスを行えるようになる。
これは当たり前のことなのですが、大学においては、あまりこうしたことが意識されていない気がします。
大学の経営というのは、まだまだ素人のどんぶり勘定で行われている部分が少なくありません。
お金を極限まで生かし切るという点に関してだけは、コスト意識の面でも実際のスキルの面でも、民間企業出身のプロの方にまだ一日の長があるように感じます。
(もちろんたたき上げの大学スタッフや教員の中にも、優れた経営センスを持っている方はいらっしゃると思います。ただ、人数が少ないのと、いたとしてもそれを活かせる場が学内にあまりないのが問題です)
多分、冒頭の報道を見た全国の大学関係者の間で、「早稲田がこんなことをやっているぞ。さすがだなぁ。ウチは何をしているんだ!?」みたいな会話が交わされたんじゃないかと思います。
しかし早稲田も、10年前は奨学金どころじゃありませんでした。学内の反発を受けながら血の出るような財政改善を続けて、ようやくここまで辿り着いたのです。
そこまで全部ひっくるめて、我が身の参考にしたい報道です。
財政基盤を強固にして、それを学生の皆様に還元できるような流れを作れるよう、がんばりましょう。
以上、マイスターでした。
単純に質問させて頂きたいのですが、
>アメリカの場合、資産運用収入を奨学金に充てているところが少なくないようです。
というのは、ハーバード以外だとどういった大学を指しているのでしょうか?
むらかみ様:
こんにちは。コメントありがとうございます。
例えばスタンフォード大学は1億ドルの基金を設け、その運用益によって優秀な大学院生に対する奨学金を提供しているそうです。
(参考)http://www.rieti.go.jp/jp/publications/pdp/03p005.pdf
他、巨額の基金を運用しているイェールやプリンストンなどでも大学でも、同様の取り組みをしていると聞きます。いずれも学費がかなり高額な大学ですので、そのような方法で潤沢な奨学金を用意しないと、優秀な学生の獲得競争に勝てないのだろうと思います。
なおこれは例外中の例外だと思いますが、基金の運用益で学生の学費をゼロにしようと計画しているところもあるみたいです。
http://www.riihe.jp/arcadia/arcadia70.html
(現時点で、実現されているかどうかはわかりませんが…)
「世界レベルを目指す!」と宣言している日本の大学は、こういうところと競争しなければならないのですね…。
>マイスター様
早速のご返答ありがとうございました。また、資料のご指示をいただきありがとうございます。
いつもながら感服いたしました。
国内の大学だと資産運用の目的は年金がらみなところが多い印象を持ちますが、奨学金や学費のため、と銘打った方がイメージとしてもいいと思いますね(笑)