【履修逃れ校問題】 「履修逃れ校」発覚相次ぐ 41都道府県で8万人以上の高校生が「要補習」

マイスターです。

・受験対策を重視し、必修科目を学ばせていなかった高校が発覚
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50256889.html

この「履修逃れ」問題に関して、現在各メディアが調査合戦、報道合戦を繰り広げております。「○○県でも○○校が」といった調査結果の数字だけがどんどんと増殖していく様子は、規模が大きすぎて逆に、見ていても今ひとつ現実感が持てないような気になります。

途中集計中の現在、ニュース数が多すぎて、すべてをブログでご紹介するのはとても不可能ですが、その中から、主な報道をいくつかご紹介したいと思います。

【拡大する「履修漏れ」対象校】
■「41都道府県で8万人超が要補習、200回以上も5校」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061028it01.htm?from=top

同日現在で必修逃れの学校数は、41都道府県で計402校(うち私立高120校)。未履修で補習が必要な生徒数は少なくとも延べ8万6000人を超える。

読売新聞社の調査によると、必修逃れの学校は、千葉、神奈川、三重、徳島、熊本、沖縄の6県を除く41都道府県の402校で、北海道(40校)、岩手(36校)、長野(31校)、静岡(29校)、福島(21校)、島根(同)などで多かった。

(略)文部科学省は27日夜、公立校を対象にした緊急調査結果を公表。午後9時現在の中間集計によると、必修逃れの公立高校数は97校で、すべて各教育委員会に虚偽のカリキュラムを提出していた。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

一番新しいと思われる数字が、こちらです。たった数日の間に、事態はこれだけ明らかにされました。

日本の教育史上、最大の不祥事として記録されてしまうかもしれません。
どうしてこんな大規模に不正が行われていて、今まで誰も気づかなかったのか……と、誰もが疑問に思うところです。

各都道府県の教育委員会は、チェック機関の役割を果たすことができていなかったようです。各校が提出する公式なカリキュラム表を見て、そこに問題がなければOK、と理解していたのだと思います。まさか、校長を始め、学校の関係者がこんな不正を犯すなんて想定していなかったのでしょう。
今後、より厳密なチェックシステムの導入が進むことは間違いなさそうです。

ちなみにマイスターは、これだけ多くの高校が不正をしたことにも驚きますが、不正の方法がどうやら各校とも非常に似通っているらしい、ということも気になります。一番のターゲットにされているのは必修の世界史をはじめとする社会科分野のようですが、ヨソの高校がどんな「履修逃れ」を実践していたのか、今まで高等教育の関係者は知らなかったのでしょうか?

なんだか、これだけの規模で同じような手口が行われていると聞くと、

「高校関係者の間で、他校の手法を参考にしあっていた」

と考えるのが、自然であるように思えるのですが。

【救済措置はなし。しかし補習不可能に近い高校も。】
■「必修科目、年度内に必ず履修を・文科相通知へ」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20061027AT1G2701O27102006.html

高校必修科目の履修漏れ問題を巡り、伊吹文明文部科学相は27日の閣議後記者会見で「学習指導要領通りに授業を受けた高校生との間で不公平が生じてはいけない。学年が終わる来年3月末までに必ず授業を受けて(単位をとって)いただく」と述べ、近く都道府県の教育委員会などに通知を出し、厳正な対応を求める方針を明らかにした。
(略)会見で伊吹文科相は、保護者から現3年生の卒業に救済措置を求める声があることには「ルールをなし崩しにするのは適当ではなく、難しい」と表明。「冬休みや放課後も(補習に)利用できる。これだけの失敗をしたのだから、生徒に負担をかけないよう知恵を出してほしい」と述べた。

過去に卒業単位を満たさないまま卒業した人の卒業資格には「影響が出ないよう内閣法制局と対応を詰める」とした。
(上記記事より)

非常にわかりやすい、文科相の方針です。教育委員会や学校に責任をきちっと取らせる姿勢は、所轄官庁の長として評価できるとマイスターは思います。

ただ、実際に「冬休みや放課後」に補習を受けるのは、他ならぬ高校生達。特に受験を控えた3年生にとっては、非常に大きな負担であることは確かです。学校同士の不公平は補習で埋まるかも知れませんが、受験生個人個人の視点で見たら、むしろ強い不公平感を覚える結果になるでしょう。

中には、↓こんなケースもあるようです。

全国各地の高校で必修科目が教えられていない問題で、卒業に必要な補習授業を3年生で200回以上実施しなければならない高校が少なくとも5校あることが27日、読売新聞社の調べで分かった。

いずれも3科目以上履修していなかった。

(略)4科目が未履修だった岡山県の私立高校は、今後、3年生に50分の補習授業を350回分も受けさせなければならない。来年3月末までには約150日しかなく、土日祝日を返上して毎日2回分(100分)の補習を行っても足りない計算になる。(「41都道府県で8万人超が要補習、200回以上も5校」(読売オンライン)より)

これらの高校では、卒業できるかどうかがそもそも怪しいです。受験どころではないように思えます。

高校の管理者達にとっては「自業自得」と言えるかも知れませんが、高校生一人一人にとっては、そうではありません。
救済措置なしという文科相の方針自体には賛同できるのですが、「そんな学校を選択した本人の責任」と言ってしまうのも少々酷ではないかな、と感じるのも正直なところです。

なお、補習については若干、大学も関わってきます。
というのも、推薦入試等、一部の受験生の願書を、既に大学は受け取っていると思います。それらの高校生の中には、「履修逃れ」校の生徒も混じっているかも知れません。彼らの願書をどのように扱うか、各校とも、対応を検討しなければならないはずです。
それぞれの高校に連絡して、ちゃんと補習をして卒業させる旨の確認を取る、とかでしょうか……?

【一体いつからこんな事態に?】
■「嘆く高3 一部の公立約10年前から」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20061026ur05.htm

県立高校76校のうち、3分の1を超える29校で履修漏れが見つかった岩手県。(略)同県教委が25日夕に開いた緊急記者会見では、「(履修漏れの)虚偽報告は、25日になって初めて知った」と説明。県教委には高校の教頭経験者らも勤務していることから、報道陣が「本当に聞いていなかったのか」と追及すると、教委側は「私どもとしては分からなかった。実態把握が不十分だった」と何度も繰り返した。
(上記記事より)

確かに、教育委員会には、高校の管理職だった方もおられるわけですよね。報道陣の方、鋭いつっこみです。

一方、予備校関係者は↓こんなコメントを。

次々と表面化した履修漏れについて、大手予備校「河合塾」の滝紀子・教育研究部長は「受験に不必要な科目を学習しない『裏カリキュラム』は、一部の公立高校で10年ほど前からみられた」と指摘する。また「最近は公立高校でも進学実績が求められる。大学入試と学習指導要領がかみ合っていない中で、学校側が現実的な対応をとってきた。受験を前にした時期に行う補習で身につくとは思えず、生徒が気の毒だ」と語る。
(上記記事より)

「気の毒だ」ではなくて、そんなに前から知ってたんなら指摘してよ、と思います。

なお、この記事には、以下のような興味深い記述もありました。

過去に履修漏れが発覚したケースでは、卒業式後も補習を行った高校もある。

兵庫県では2002年1月、県立高校の理数系クラスで受験対策として世界史の授業を実施せず、日本史の授業に充てていたことが発覚。受験まっただ中の3年生が、3月まで70時間分の補習を受けた。保護者からは「大切な時期に一体どうなっているんだ」と学校側に苦情があったという。同県ではこの年、ほかの県立高校58校でも、同様のカリキュラムを編成していたことが判明、卒業式後も補習を実施した。
(上記記事より)

驚いたことに、過去にもかつて、同様の事態が発覚したことがあったのですね。「世界史の授業を実施しない」という手口も、今回履修逃れが発覚した多くのケースと同じです。

……にもかかわらず、どうして今また、こんなに多くの高校生達が補習に追い込まれているのでしょうか。学校や教育委員会など、教育界のガバナンスには改善すべき点が多そうです。

ちなみに他の記事では、↓こう指摘されていました。

各地の高校で教えられていなかった必修教科は、地理歴史、公民、理科、保健体育、芸術、家庭、情報の7教科。国語、数学、外国語の3教科では履修漏れはなかった。

こうした必修逃れを始めた時期については、回答のあった273校のうち82%が「2003年度以降に始めた」とした。02年度から完全学校週5日制がスタートしており、高校側が授業時間の減少で学力低下に危機感を強めたことが、背景にあると見られる。(「41都道府県で8万人超が要補習、200回以上も5校」(読売オンライン)より)

完全学校週5日制の実施が、こうした不正の背景にあるという分析です。だからといってこれが不正をしていい理由になるとは思えませんが、原因の一端を担っているのも確かでしょう。

以上、キリがないので、今日ご紹介するのはこれくらいにしておきます。実際には他にも、山ほどの報道がありました。

今回の問題のことを「履修漏れ」と表現しているメディアが多いようです。
しかしこの問題は、(高校生ではなく)高校の管理者達が主導して行った大規模な不正であり、高校の「履修逃れ」問題という表現の方がより実態に近いようにマイスターは思います。(実際、一部の報道では、「履修逃れ」という言葉が使われています)

ただ、今回の「履修逃れ」の裏には、受験重視の教育をせざるを得ない高校の事情がある、という指摘も多いようです。以前の記事でも書きましたが、これは中等教育と高等教育の「接続」部分で起きている問題であるわけですから、大学も、色々と考えなければならないことはあると思います。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  •  関係者があまりに多いため一人一人は不正を働いたという意識が低いのではないでしょうか。教職員に自浄能力がなく生徒の訴えで判明したのも残念です。また、未履修生を卒業させていまっている事に驚きです。彼らには今からでも補修をするべきです。
     報道によると、ある高校では世界史の授業を1日7時間計10日間連続講義で単位認定するとされています。唖然としました。もしかしして200~300人の大講義ですか?世界史が10日間で習得できますか?無理ですよね。なのに単位与えるのですか?それも不正ですよね。さらに受験に必要ない授業はまとめて終わらせて良いという前例になります。この対応は今回の不正の原点である「受験に必要の無い科目は手を抜いても仕方が無い」というのと何も変わってませんよね。
     今回の事件を教訓に、背景にある大学入試の在り方にメスを入れる必要があるのではないでしょうか?