【履修逃れ校問題】 受験対策を重視し、必修科目を学ばせていなかった高校が発覚

マイスターです。

皆様もニュースでご覧になったと思いますが、いや、皆様も最初は驚かれたことと思います。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「必修履修せず197人卒業ピンチ 富山・高岡南高」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200610240180.html

■「岩手の4高校も必修履修させず 県教委には虚偽報告」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200610250211.html
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富山県立高岡南高校(篠田伸雅校長、高岡市戸出町)で、地理歴史教科を選択制としたため、3年生197人全員が卒業に必要な科目を履修していなかったことが24日、わかった。同校は県教委とともに卒業資格取得のための方策を協議している。
同校や県教委によると、学習指導要領では世界史、日本史、地理の3教科から2教科を選ぶことになっていて、世界史は必修となっている。しかし、同校では昨年春ごろ生徒から「受験に必要な教科だけにしたい」との声が上がり、昨年度は3教科から1教科だけの選択でも可能とするようにした。その結果、世界史を履修していないなど、3年生全員が卒業資格を取得していなかったという。
(「必修履修せず197人卒業ピンチ 富山・高岡南高」(Asahi.com)より)

まず朝に、上記の報道です。
朝のテレビニュースで高岡南高校のことを知ったときには、マイスターも「えぇっ!?」と驚きました。

ただ、わりと早い段階で、「富山以外でも、必要な科目を履修させないでいる高校が見つかった」という報道が出ましたよね。↓ 

…岩手県でも盛岡第一高(盛岡市)など県立4校で同様の事例があることが25日、明らかになった。一部の高校は入試対策のため4年前から必要な授業を行わず、県教委に虚偽の報告をしていたことを認めている。
(略)盛岡一高では約4年前からこのような形で授業を行っていたといい、鈴木文雄校長は「入試対策のためだった」と説明。1科目しか履修していないのに毎年、県教委には2科目を履修したと虚偽の報告をしていたという。今後は土日に補習を行うなどして対応する。
(「岩手の4高校も必修履修させず 県教委には虚偽報告」(Asahi.com)より)

例えば盛岡一高は、昨年は東北大学に47人が進学したという県立の名門進学校ですが、記事にある通り、入試対策のために虚偽の報告をしていたのですね。

このように、虚偽が発覚したいくつかの高校からは、

「受験対策を優先した結果、
 学習指導要領で定められている科目を(意図的に)学ばせなかった」

という構図が明確に見てとれます。

そんな動きを見て、おそらく多くの方々が、

「こりゃあ、すぐに全国的な実態調査が始まるぞ。
 そうしたらたぶん、何十校も、似たようなケースが見つかるぞ」

……と、直感したのではないでしょうか?
マイスターも、すぐ、そう思いました。

そして、そんな大方の予想通り、たった一日の間にその数は10県65校、生徒数にして1万2,000人という規模にふくれあがりました。
(2006年10月25日23時現在)

【教育関連ニュース】—————————————–

■「履修不足:10県65校、生徒数は1万2000人に」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061026k0000m040090000c.html

■「履修不足:文科省が緊急通達 27日までに報告求める」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20061026k0000m010092000c.html

■「履修不足:全国の多くの教委『把握せず』『調査せず』」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20061026k0000m040095000c.html

■「履修不足:『卒業できるの』『受験は?』揺れる生徒たち」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20061026k0000m040097000c.html

■「高岡南高校:必修『地・歴』未履修 卒業できない? 富山」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20061025k0000m040081000c.html
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この通り、わずかな間に、「国を挙げての大不祥事が発覚!」みたいな状態になってしまいました。

さて、言うまでもなく、一番の被害者は高校生達です。
一部の学校では、学習指導要領の規定を守っていなかったことについて、「生徒の強い希望があったため」と説明しています。
しかしそれは、もちろん、虚偽の報告をしていい理由にはなりません。

学校によるこの虚偽報告の結果、多くの高校生達が、卒業を危ぶむ立場に追い込まれてしまいました。
今から、休日などを使った過密スケジュールで集中授業を実施し、なんとか規定の単位を取らせようとしている高校もあるようです。しかし受験を控える3年生を中心に、高校生達からは怒りの声も出ているようです。そりゃそうです。入試対策のためどころか、かえって受験勉強を大きく妨害する結果になってしまったのですから。
でも、他に有効な対策はないような気もします。そうなったら、高校生達が本当に気の毒です。

文部科学省は、高校の必履修教科・科目の取り扱いの実態を緊急調査せよという通達を出したようです。報告期限は27日だそうですから、28日を過ぎたあたりで、全国での、虚偽報告をしていた高校の数が発表されることでしょう。
ひょっとするとこの調査の結果次第では、何か特別な「配慮」がなされるのかも知れません。(安倍首相は、今回の事件発覚について「子供たちの将来に支障をきたさないよう対応してもらいたい」と述べたとのことですし)

さて、正直、現時点でこれだけのルール違反が発覚しているとなると、もはやこれはシステムとしての問題でもあるように思います。
高校や教育委員会にはしっかり責任を取ってもらうべきですが、しかしそれだけではなく、「どうしてこういうことが起きたのか? 全体として、どこに問題があったのか?」ということも考えるべきでありましょう。

例えば毎日新聞では、↓以下のような意見を紹介しています。

こうした事態について、大手予備校の関係者は「週5日制になり授業時間数が減る中で、何とか大学受験の水準に合わせて、効率的な授業の進め方を各学校で行っている。高校での土曜日の午前中の授業がなくなった影響は大きい」と指摘。「現場の立場に立てば『苦肉の策』だったのだろう。現行の教育課程の内容と受験の現状との食い違いから生まれた問題」と分析している。
(「履修不足:10県65校、生徒数は1万2000人に」(MSN毎日インタラクティブ)より)

入試優先にした校長達や、監督を怠っていた教育委員会には責任があると思います。ただ他にも、

受験実績で高校を選ぶ保護者、
教育指導要領のあり方、
主要科目の試験だけで選抜する大学入試のあり方、
週5日制、

……などといった様々な要因が高校の教育に影響を与えているのは確かです。やはりこの機会に、中等教育と高等教育の接続の仕組み全体を、今一度見直して見るべきではないかなと個人的には思います。

今後も報道で、新たな事実が判明していくことでしょう。
教育に携わる私達は、ニュースから目が離せない数日間になると思います。

これからしばらくの間、全国いたる所の高校で、教員が高校生達に頭を下げる光景が見られるのでしょう。もしかしたら生徒や保護者の側には今後、裁判で学校や教育委員会を訴える方々も出てくるかも知れません。カリキュラムについて虚偽の報告を行うということは、それだけ重い行為なのです。そこは、教育に携わる人間はしっかり認識しておくべきだよな、と思います。

以上、マイスターでした。

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※個人的には、(この状況下では意地悪く聞こえてしまうかも知れませんが)世界史を学ぶことは、グローバル社会の住人になる基礎的な条件の一つであると考えております。おそらく学習指導要領で、世界史が必修になっているのも、そういう意図があってのことでしょう。

ですから、世界史を学ばずに中等教育を終了する方々がいるというのは、やはり問題であるように思います。受験が終わった後でも結構ですので、何らかの形で然るべき学習をしていただかないと、後々絶対にどこかで、本人達が不利益を被ることになるのではないかと、個人的には考えます。
簡単にはいかない問題ですが……うーん……。

1 個のコメント

  • はじめまして。
    入学試験とは学力を測る行為では全くなく、学力をネタに足切りの線引きを行う行為ですから、指導要領が狙った知識水準を越えた、ちょっとでも「その他大勢よりは多い」知識量を備えないと上位大学には入れませんよね。ですから教育という知識伝達のリソース配分がゆがんでしまう。東大、京大、早慶のような上位大学が「調査書に書かれた履修科目の試験を全部課す」あるいは「SATのような達成度評価試験の点数とAO面接で入学生を決める」という方式でも採用しない限り、是正されないでしょうね。しないとおもうけど。