ソーシャル・アントレプレナーを目指す学生を支援するNPO、「ETIC」

マイスターです。

「俺の職場は大学キャンパス」は大学に関する話題を中心に扱うブログですが、その一方で「社会起業家」という生き方を、こっそり広めようとしたりもしています。

社会起業家というのは、狭義には「医療、福祉、教育、環境、文化などの社会サービスを事業として行う人」のことを指す言葉です。今では「起業家(アントレプレナー)の発想やスキルを用いて、社会の様々な問題を解決しようとする人」を意味する言葉として使われていると思います。「ソーシャル・アントレプレナー」とも言いますね。
日本では、町田洋次氏の「社会起業家―「よい社会」をつくる人たち」という本で、その概念が知られるようになったのではないかと思います。

これまでブログでも、社会起業的な取り組みを何度かご紹介してきました。

・カンボジアの問題に向き合う 「かものはしプロジェクト」の試み
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50217661.html
・『さあ、学校をはじめよう―子どもを幸福にする青年社長の教育改革600日』
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/25081586.html
・大学院で学ぶ「現職」議員達
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50243650.html

マイスターは学生の頃から、この社会起業家というモデルに強い関心を持っています。

研究者や官僚とは違って、「まず活動ありき」
実務家とは違って、損益バランスを見ながら自らの判断で経営方針を決定
しかし企業のビジネスマンとは違って、社会問題の解決を目標に設定する……。

そんな社会起業家というポジションは、言ってみれば社会の起爆剤。研究者や官僚や実務家やビジネスマン、さらには地域の住民達を巻き込んで、ダイナミックに社会に提案を行う、一種のプロデューサーなのではないかとマイスターは勝手に思っています。

そんな社会起業家のことをブログでご紹介するのは、第一に、「教育」の世界にも社会起業家が必要だと思っているから。そして第二に、これからの日本社会のあり方を考えると、大学で「社会起業家教育」を行うことが大切なんじゃないか、と考えているからです。

そんなわけで今日は、大学に縁が深そうな、あるNPOをご紹介します。

【教育関連団体】——————————————–

■NPO法人ETIC.(エティック)
http://www.etic.or.jp/
————————————————————

私たちは、起業家精神を持った若者が、それぞれの想いを持続的に発揮していける“イノベーターズ・コミュニティ”を作っていきたいと考えます。
日々、ひとつひとつの行動に妥協せずに、一人でチャレンジし続けることは、決して容易ではありません。
師匠や、多様な価値観を持った人たちと関係性を築き、志を持った仲間たちと切磋琢磨し合う中でこそ、互いの姿勢、情熱を学び合い、成長し続けていけると、私たちは考えました。
イノベーターズ・コミュニティから、起業家が生まれ、またその起業家たちの周囲に、新たなコミュニティが生まれていく。私たちは、そのような挑戦の連鎖を、大学に、地域に、そして日本中に広げていきたいと思っています。(「私たちの目指すもの」より)

この「ETIC.」という団体の目的は、webサイトによると「次の社会を創る起業家・経営者・リーダーを育成・輩出」することです。
マイスターなりに一言でまとめますと、ETIC.は「アントレプレナーの育成支援」を行うNPOです。
独自のコンテストやセミナーなどを企画するほか、時には大学や行政や省庁、企業などとも協力しながら、学生を中心とした若い世代の方々をアントレプレナーに育てるのが組織の目的なのですね。

アントレプレナーといっても、巨額の利益を追求するだけの起業家ではなく、どちらかというと社会的な意義を持つ事業を構想し実現できる「ソーシャル・アントレプレナー」育成を志向しているのが特徴です。
学生が社会問題を事業によって解決する(つまり社会起業家になる)、その手助けを行うのがETIC.だというわけです。

では、具体的な活動内容のうち、大学関係者の皆様に関わりがありそうなものをご紹介します。

【地域課題解決型MOTプログラムならびに課題探求能力育成型インターンシップの共同開発(高知大学)】

従来の大学教育でカバーできない分野のプログラムを共同開発。主に1年生を対象とした長期実践型インターンシップ(14単位)を実施。
「活動紹介」(NPO法人ETIC.)より)

■高知大学の「CBI(コラボレーションベースドインターンシップ)」
http://www.challenge-community.jp/soken_ikeda_01.html

こちらは高知大学のインターンシップ・プログラムの企画です。

ご存じの方もおられるかと思いますが、高知大学では最大6ヶ月のインターンシップを、最大14単位分の正式な授業としてカリキュラムに位置づけているのです。
(もちろん実際には14単位が一気にもらえるわけではありません。「CBI企画立案」、「CBI実習I~IV」、「CBI自己分析」、「キャリア開発講座」などいくつかの授業に分かれていて、これらを全部取ると14単位だという意味です)

正直、このプログラムには賛否両論あると思います。一歩間違えれば、「教育の丸投げでは?」と批判されかねませんからね。
ただ、サイトを見てみる限り、学内の実行体制を含め、内容はよく計画されているのではないかとマイスターは思います。普通のインターンシップとは目的も手法も異なるプログラムにしようという意図が、工夫として随所に表れています。

例えば、インターンシップに参加しようという学生は、実習でやってみたい課題を自ら発見して実習企画の立案を行い、プレゼンテーションをして企業から「選ばれ」なければなりません。そのための合宿もあるし、なかなかハードです。これだけやれば、相当に成長はするだろうなと思えるカリキュラムです。

この取り組み、文部科学省の現代GPプログラムに採択されてもいます。

■「コラボレーション型インターンシップ」(高知大学)
http://www.kochi-u.ac.jp/JA/GP/index.htm
■「平成16年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム選定取組の概要及び選定理由:課題探求能力育成型インターンシップの開発」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/needs/report/04091701/008/003.htm

で、このコラボレーション型インターンシップのカリキュラム開発に、NPO法人であるETIC.が関わっているのですね。こういう提案が得意なNPOなのです。

「NPOと組んでカリキュラム開発を行うなんて、想像したこともない」という方も、皆様の大学には大勢おられるのではないでしょうか。
個人的には、大学がこういった取り組みを行うのは良いことだと思います。

若者と社会との接点を設けるというのは今後、学校にとって非常に重要なテーマの一つになると思われます。しかしこの点において、大学関係者はまだまだ未熟です。学外と連携するための経験がまだあまりありませんし、ノウハウも蓄積されていません。かといって、何もしないわけにもいきません。
ですからこういった専門家の力を借りながらあれこれと試行錯誤を行っていくのは悪いことではない、と思うのですが、いかがでしょうか?

もう一点ご紹介を。

【チャレンジ・コミュニティ創成事業】
経済産業省(財団法人VEC)とタイアップ。地域のチャレンジ・プロデューサーが実践型インターンシップのスキームを用いて継続的な若手の人材育成を行っていく。
「活動紹介」(NPO法人ETIC.)より)

■challenge-producer.net
http://www.challenge-producer.net/

こちらは経済産業省と協力しての取り組み。各地域で、若者を社会起業家的な人材として継続的に育成していく仕組みを作るのが目的です。その核となる各地域のプロデューサーを、ETIC.では「チャレンジ・プロデューサー」と呼んでいるのですね。うん、なかなか良い言葉です。
プロデューサーとなる若者にとっても、そのプロデューサーに支援される学生にとっても、非常に意義のある取り組みではないかと思います。

で、マイスターが思うに、この発想って地方の大学にとってはなかなか魅力的、ではありませんか?

地方の大学というのは元々、「その地域の経済や社会発展に貢献する人材を育成すること」や、「地域産業を支える技術を研究すること」などを大きな目的の一つにしているはずです。
しかし大学によっては、地域におけるそういった役割が薄まり、大学の存在意義がわかりにくくなっているところもあるかと思います。
いくら学生を送り出しても、地元企業には根付かず、遠く離れた都市圏に就職してしまう……。そんな悩みを抱えている大学っておそらく、少なくないでしょう。

そこで、チャレンジ・プロデューサーです。
大学を卒業した意欲のある若者が、地元に残って、地域の社会問題に取り組む。そんな社会モデルを構築するために、大学とNPOが協力して、プロデューサー的な人材を育成するのです。ETIC.はおそらくそういったノウハウを持っていると思いますから、大学が本気になれば、ロールモデルとなる人を輩出できると思います。
大学の重要事業の一つとして継続的に取り組んでいけば、大学を中心にした地域活性化策になります。他大学との差別化にもなります。

例えば、医学部などは特に地方離れ・地元離れが深刻です。なかなか卒業生が大学周辺の地域に定着しません。
しかし学生のうちから地元の医療問題に取り組めるようなプログラムがあったなら、状況は若干変わるかも知れませんよね。

地方国立大学や公立大学の皆様、あるいは地元で長くやってきた私立大学の皆様にとっては、大学のミッションにも関わる話だと思うのですが、いかがでしょうか。

……と、全部挙げていくと長くなるので、ご紹介はここまでにしておきます。
こんな支援事業を行っているNPOがあるということは、大学関係者の皆様にも知っておいていただければと思います。

NPOと大学が連携して行うプロジェクト、いろいろなものが考えられそうですよね。
ETIC.のような団体の力を借りながら、皆様の大学でも試行錯誤してみていただければと思います。

以上、マイスターでした。

———————————————–
(おまけ)
チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える

社会起業家について知りたい方には、オススメです。