大学が導入に消極的な「飛び級」制度 年齢制限は何のため?

マイスターです。

学ぶための能力と、自ら学ぶ姿勢を持っている人なら、誰でも大学で勉強できるという社会であって欲しいと思っています、

……が、実際は、なかなか簡単には実現できません。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「飛び入学『メリットない』…導入断念の大学、過半数」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061004i313.htm
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優秀な高校2年生の大学入学を認める「飛び入学」の実施を検討していた全国29大学50学部のうち、少なくとも3大学5学部が導入しない方針を決め、15大学19学部が検討を中断したことが4日、文部科学省のアンケート調査で分かった。
(略)「導入への障壁」については、13学部が「少数の入学者のために特別なカリキュラムを編成できない」など指導上の問題を挙げた。また、飛び入学の条件とされる「特に優れた資質」の判定が困難など、「選抜方法が難しい」と答えた学部も13あった。ほかにも、「導入には課題が多い反面、対象となる学生が少なく、メリットが少ない」「様々な分野を高校で履修していないと入学後の修学に困難が生じる可能性がある」などの意見があった。
飛び入学は、1997年に数学と物理学で制度化され、2001年、全分野で実施できるようになった。最も早く導入した千葉大では98年度の導入以来、41人が入学。ほかにも5大学が導入しているが、このうち入学者が1人もいない大学も3大学ある。
(上記記事より)

このように日本では、飛び入学、つまり18歳未満の学生を受け入れることに消極的な大学が多いのです。

で、マイスターは、個人的には

「18歳という基準年齢は設けるとしても、それより早く学ぶ能力のある人は、人より早く入学&卒業してもらえばいいんじゃない?」

……という考えの持ち主ですので、こうしたニュースを、がっかりしながら読むわけです。

ただ、マイスターが思う「飛び級」というのは、現在、千葉大学などで運用されている「飛び級」とは少々異なっているかも知れません。

現在の日本の「飛び級制度」というのは、
「物理学や数学などの分野で人より優れた資質を持っている高校生について、その資質を伸ばすため、高校2年生の段階で特例的に受け入れる。」
というものですよね。
「わざわざ飛び級を認めるくらい」特に優れた資質が見つかったから、それを伸ばすために、他の部分にしわ寄せをさせてでも早く入学させよう、というものです。
ですから、入学後の飛び級生達のために、(しわ寄せ部分を補うための)特別なカリキュラムが用意されていたりします。

これはこれで、一つの意義があるのかも知れません。
しかしマイスターが考える「飛び級」というのは、こうではないんです。

特別な資質など、必要ありません。
「大学の勉学に耐えうる学力を身につけており、平均以上の成績で単位をとって卒業することが可能だと思われる人間であれば、自分の判断で早めに受験するのも自由だよ」
というのが、マイスターのイメージする飛び級です。
ですから正確には「飛び級の導入」ではないですね。「18歳以上でないと入学できないという年齢制限自体を、取っ払っちゃいませんか?」という発想です。

大学の学びというのは、基本的に「単位」で証明されるものです。
<単位を取っている = その授業の内容が身に付いている>
ってことです。
だから、例えば「15歳なんだけど優秀な成績で単位を取れる」なんて学生なら、何もわざわざ18歳まで待ってもらう必要はないんじゃないのかな?と考えるのです。

「特に優れた資質」の有無など測る必要はありません。大学1年生の授業でAをばりばり取れるくらいの学力と学習姿勢を持っていれば、何も無意味に、年齢で入学制限をする必要はないんじゃないのかな、っていうことです。
ですから、飛び級生のためだけに、特別なカリキュラムを用意する必要もありません。逆に、特別なカリキュラムなんてなくても十分に単位を取れる学生でなければ、入学を認めるのはおかしいです。
あくまでも、「他の学生と同じようにやっていける人なら、早く入っても良い」というのが、マイスターが考える飛び級です。
(詳しくは存じ上げませんが、アメリカの飛び入学生も、通過するカリキュラム自体は他の学生達と同じなのでは?)

もちろん、周りより若いために、学習や生活の上で特別な悩みを持つことはあるでしょう。ですから、そこをサポートするために、チューターやアドバイザーなどの支援スタッフを充実させることや、それを機能させる組織体制を整備させることは必要です。教員や先輩学生達からアドバイスをもらえるような機会を設ける、とかですね。
でも、これはなにも飛び級学生だけに言えることではないですよね。全員に共通して必要なものです。

きちんとGPA制度が機能し、厳格に学習状況を管理できる大学なら、上記のようなことは可能だと思います。
ちゃんとしたGPAというのは、例えば

○学期中のGPAが2.0を下回ったら、次学期は数科目しか履修を許可しない
 (逆に、3.5を上回ったら、次学期は通常より多い科目の履修を許可)
○連続でGPAが一定ラインを下回ったら、退学

……といったルールを備えているGPAのことです。
(本来のGPAはこういったシステムであると思うのですが、日本では成績をポイント化する試み、くらいにしか思われていないようです)

こういうシステムがしっかり機能していれば、18歳だろうと25歳だろうと、15歳だろうとシニアだろうと、誰が来ても怖くない……はずなんですよね。

15歳でもGPAの数値を高い状態で維持しばりばり単位を取っていく学生であれば、何も問題はありません。人より早く卒業していただいても良いくらいです。
逆に20歳以上でも、GPAの数値が低迷し、しょっちゅう履修制限がかかるような学生は問題です。5、6年かけて学ばせる必要があるかも知れません。

現在の多くの日本の大学はこういったシステムを持たないから、「18歳に満たない学生は、学力の上で不安が残るが、大丈夫か」といった結論の出ない議論に終始し、結局何も変えられずにきているのではないでしょうか。

中等教育までの学びとは異なり、高等教育というのは自分が、自分のペースで、自分のために受ける教育だろうとマイスターは思います。

「導入への障壁」については、13学部が「少数の入学者のために特別なカリキュラムを編成できない」など指導上の問題を挙げた。また、飛び入学の条件とされる「特に優れた資質」の判定が困難など、「選抜方法が難しい」と答えた学部も13あった。ほかにも、「導入には課題が多い反面、対象となる学生が少なく、メリットが少ない」「様々な分野を高校で履修していないと入学後の修学に困難が生じる可能性がある」などの意見があった。

高等教育の認識がものすごく硬直化しているから、こういった議論が交わされるんだろうな、と思います。「大学とは、(本人の能力にかかわらず)18歳で入学し、4年間で卒業していくものだ」という前提を、試しに疑ってみてはいかがでしょうか。

……などと考え出すと、学費のシステムとかGPAとか、他にも色々と変えなければならないことが多く出てくるのですが、長くなるので今日はここまでにします。

日本では、教員にすら「同じ年の人間は同じ能力」という前提が適用されています。

・教授は50代以上じゃなきゃダメ!? 公募の年齢制限
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50037994.html
・年齢で差別する大学
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50041107.html

でもマイスターは、少なくとも高等教育においては、こういった前提をそろそろ疑ってみた方が良いと思うのです。
今後増加すると思われる社会人学生やシニア学生、あるいは飛び級生のことを議論するにも、まずそこから考え直してみる必要があると考えます。

そんなわけで、冒頭でご紹介した記事のように、まだ飛び級が特別なものとして議論されているのは残念だと思う、マイスターでした。

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(過去の関連記事)
・飛び級制度と学力観
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50038115.html
・僕、9歳の大学生
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50056326.html
教育によって夢を実現していく、highly gifted な(アメリカの)子供達
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50240132.html

(参考)
■「Education at a Glance 2006」(OECD)
http://www.oecd.org/document/52/0,2340,en_2649_34515_37328564_1_1_1_1,00.html

4 件のコメント

  • 早期入学にしても、早期卒業にしても、マイスターさんのおっしゃるように、単純明快にしておけば問題はないと思います。
    なのに、入試の科目数や難易度と結びつけて議論したり、早期入学(早期卒業)をする人のために特別なサポート(カリキュラム)を用意してその実現を保証しないといけないだとか、ややこしい話がどこからともなく降ってきます。
    最低限として、普通の受験生、普通の学生として扱えばそれでいいと思うのです。特に優秀であれば、それもこれまでどおり、喜んで指導すればいいだけですよね。

  • だいぶ前の記事にコメント失礼します。
    25歳の社会人です。
    私は、飛び級をした人間です。
    といっても、私は大学を3年で終了し、大学院に進んだ形ですが・・・
    私は理系で、通常なら4年生から研究室に所属します。私は飛び級ということで、3年から研究室に所属して卒業研究を行いました。学力の面では困ることは全くなかったです。
    ただ1つだけ困ることがあったのが、人間関係です。1つ上だった人たちが同期になるわけですが、見えない壁がありました。いくつか事件があるのですが、必ず「○○さん」と呼ぶように言われたり、いつも「年下だから」と言われました。
    僕も積極的に仲良くなるように初めの時は努力しましたが、軽蔑・差別的なことを言われ続けて、大学院の研究室に行く気さえなくすこともありました。(僕の努力が足りなかったからかもしれません。)
    1番の事件は就職活動です。私の友達たちは大学4年生で、自分だけ大学院1年の時期でした。知り合いで就職する仲間がいなかったため、10月頃から平日は研究室に行き、土日に積極的に動いてました。そのためか、早く内定を頂けました。
    しかし、同期の人たちとは仲が悪いため、自分の就活状況など言っていませんでした。それが裏目にでたのか、早い内定を憎まれたのか分かりませんが、修士2年の4月に自分のパソコンを目の前で6階の窓から建物の外に投げ捨てられたり、実験してる物を床に叩きつけられたり壁に投げられたりと、イジメられました。
    この時期は研究室では修士2年が1番偉いため誰も止められません。
    (→下に続きます。)

  • (→上の続きです)
    私は普段怒ったりしない性格ですが、さすがにキレました。人生で初めてキレました。
    パソコンを投げ捨てた相手(リーダー的な存在)はある測定装置が故障すると研究が進まないのを知っていたので、真っ先にその装置を壊しました。
    修理費用が30万円だったため、教授が『何が起きたんだ?』ということになり、修士2年生4人全員が集められ、3時間にわたって怒られるはめとなりました。
    イジメはそれで終わりました。
    (教授は僕と同期が仲が悪いことは、その事件まで知りませんでした)
    高校→大学の飛び級もそうですが、
    大学→大学院の飛び級も何かアドバイザーみたいな相談できる人がほしいと思いました。
    高校→大学の飛び級は、4月に入学するのであれば、みんなが「友達になろうよ!!」って時なので周りと仲良くできると思います。
    ただ大学→大学院だとすでに仲良しな輪に年下が飛び込んできて仲良くするのは、いささか大変だと思います。
    チューターやアドバイザーなどを作って、私みたいな生徒を作ってほしくないなって思います。せっかく飛び級して人生を1年短縮できるのだから、周りとも仲良くやっていってほしいです。
    長々と書いてすみませんでした。
    失礼いたします。

  • 弊害をいえばきりがないと思います。
    僕が通ってた高校は田舎の進学校でしたが、先生が「東京の中高一貫校の生徒は中学の時から高校の勉強をする」との話をしたら、皆が口を揃えて「いいないいな」と言ってました。やる気のない生徒はともかく、やる気のある生徒が粗悪環境教育のもとで勉強するのはかわいそうです。
    勉強出来なくても立派な人は沢山いるといってた人がいましたが、それは例外です。大抵の立派な人は高い学歴を持ってます。
    狼に育てられた子供がまともでなかったのを考えると、日本もどんどん英才教育すべきです。