いつか中国大陸を旅して回ってみたいマイスターです。
三国志や「項羽と劉邦」といった古代中国の話が好きなので、史跡を訪ね歩きたいです。そのときは、せっかく行くなら、多少は中国語を学んでおきたいところです。
もっとも読み書きに関しては、漢字という共通ツールがあるので、少し安心です。
以前、香港に行ったことがあるのですが、漢字のおかげで、看板に書いてある文字の意味が大体わかることに感動しました。
これがヨーロッパ旅行だと大変です。スペイン語やフランス語の案内表示は、マイスターにとっては意味不明です。「出口はこちら」という意味すら、読み取れません。
看板が読めるということだけで、中国の文明から多大な影響を受けているんだよなぁと実感できた、かつてのマイスター青年です。
さて、経済、政治(&軍事)の面で影響力を強めている中国。
最近では天然資源や各種エネルギー確保などでも、非常に強力な対外交渉を行っているようです。
ですが、かの国の戦略はそれだけではありません。
マイスターは、その国家の影響力を測る度合いとして、
「その国の言語がどのくらい世界で使われているか」
「その言葉を学んでいる人間が世界にどのくらいいるか」
という指標があるように思います。これには、あまり異論をもたれる方はいないのではないでしょうか。
この「中国語」の普及という点においても中国は、世界戦略と呼べるものをもっているようです。
その一つが、今回ご紹介する、「孔子学院」戦略です。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「中国語学校『孔子学院』、海外で100校の開設目指す」(人民報日文版)
http://j.people.com.cn/2004/11/16/jp20041116_45221.html
■「孔子学院/孔子ブランドで世界に中国語を広める」(現代中国ライブラリィ)
http://www.panda-mag.net/k2/koushi.htm
■「特集 世界に広がる中国語学習ブーム」(人民中国)
http://www.peoplechina.com.cn/maindoc/html/200507/teji-3.htm
■「Introduction to the “Confucius Institute” Project(英語)」(The Office of Chinese Language Council International)
http://english.hanban.edu.cn/market/HanBanE/412360.htm
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非母語話者向け中国語(普通話)教育の担当部門・国家対外漢語教学指導チーム弁公室は21日、韓国の首都ソウルに中国語スクール「孔子学院」の第1校を設立する。同弁公室は海外との提携により、世界各地で「孔子学院」100校の設置を目指す計画だ。
同弁公室の担当責任者によると、海外に設立される孔子学院は、現地の大学や教育機関との提携で運営され、主に現地の中国語学習者を募集する。
孔子学院はアジア、アフリカ、欧州などに設立される予定。同弁公室の担当責任者は、「孔子はすでに全世界にその名が通っている。孔子学院は、孔子の思想を教える教育プログラムを開設するのではなく、孔子の名を借りて全世界に中国語を広めることが目的」と話す。海外の孔子学院では、中国から派遣された教師が中国語教育を担当するという。(「中国語学校『孔子学院』、海外で100校の開設目指す」(人民報日文版)より
↑これは、2004年11月の記事です。
中国の「孔子学院」は、中国政府が世界展開する中国語スクールです。
ただの「町の語学学校」ではなく、各国の大学や教育機関と共同で設立・運営されるという点がポイント。大学キャンパス内に設立される例も少なくないようです。
大学には元々、語学を学ぶ人間が集中しています。それも単なる教養としてではなく、その国の文化や社会を学習・研究するためのツールとして身につけたいというニーズがあります。そんな大学キャンパス内に、中国政府のお墨付きで語学学校を設置するのです。運営には現地の大学の教員なども協力し、人材交流などの窓口としても機能するということですから、これは、とても賢いプロジェクトであるように思います。
孔子学院構想の内容も良くできていますが、それを展開するスピードの速さには、さらに目を見張るものがあります。
参考として以下、日本で現在展開されている孔子学院をご紹介しましょう。
【日本の孔子学院】
(参考 韓国・ソウルに最初の孔子学院が開校:2004年11月16日)
■立命館孔子学院:2005年6月28日
http://www.ritsumei.ac.jp/mng/cc/confucius/■桜美林大学孔子学院:2005年11月2日
http://kongzi.obirin.ac.jp/■北陸大学孔子学院:2006年2月15日
http://www.hokuriku-u.ac.jp/confucius/index.html■愛知大学孔子学院:2006年2月24日
http://www.aichi-u.ac.jp/ftpup/koushi/koshi_front.html■「『札幌大学孔子学院』の設立を目指し、意向書に調印」:2006年8月3日
http://www.sapporo-u.ac.jp/whats-new/060804_koshi_gakuin.html※日付は、孔子学院設立の調印日。
調印日の日付をご覧ください。すさまじい早さで次々に各地の孔子学院が展開されているのがおわかりでしょうか。
日本国内の動きだけでも相当なものですが、中国政府はこれを世界規模で同時に進めているのです。
…孔子学院を世界各国に100校創設し、今後数年間で海外における中国語学習者を現在の約2500万人から1億人にする計画。2006年7月現在、設立は36カ国・80校に上り、同年内に100校に達する見込みで、すでに海外での中国語学習者は3000万人を超えた。(「現代中国ライブラリィ」記事より)
2004年11月16日にソウルの1校目が開校してからわずか20ヶ月程度の間に、36カ国、80校が展開されています。1ヶ月につき4校が、世界のどこかで常に設立されているというハイペースぶりです。
またその中では、数々の興味深い試みも実行されているようです。↓
2006年4月6日、教育部と英国企業5社がロンドンの金融の中心シティに世界初の「ビジネス孔子学院」を設立する覚書に合意。中国国家対外漢語教学領導小組弁公室、香港上海銀行グループ(HSBC)、ブリティッシュ・ペトロリアム、デロイト・トウシュ会計事務所、スワイア社、スタンダード・チャータード銀行が共同出資。清華大学とロンドン政治経済学院(LSE)が運用を行う。英国経済界の中国に対する理解を促進するのが目的。
ネット孔子学院と修士課程も開校
インターネット、ラジオ、テレビなどのメディアを活用した「ネット孔子学院」「ラジオ孔子学院」「テレビ孔子学院」の開設もはかる。
2006年7月8日には、北京師範大学によりネット孔子学院が北京でオープン。また、同年7月には、各国から80校の代表が参加して孔子学院の代表者大会である「孔子学院大会」北京で開かれている。
また、2006年7月10日、初めての修士課程が設置。中国語教師を対象にしたニューヨーク孔子学院修士課程で、上海の華東師範大学で開講。
(「現代中国ライブラリィ」記事より)
まさに、国家の威信をかけての大プロジェクト!
ドイツの「ゲーテ・インスティトゥート」や、スペインの「セルバンテス協会」のように、国家が公式な語学学校や語学試験を展開する例は他にもあります。
しかし孔子学院ほど短期間に、かつ大規模に展開した例はないのではないでしょうか。
国際社会の中で中国の影響力が最も強まっている「今」のタイミングでスピード展開するからこそ、このプロジェクトは最大の成果をあげるのだと、マイスターは思います。
タイミングを逃すことなく、国家の世界戦略の中に「語学教育」を組み合わせるこの構想は、他の先進国の取り組みと比べても抜きんでたものがあるように思われます。どうやら中国のトップ達は、言語というツールが持つ力の大きさをよくわかっておいでのようです。
さて、この孔子学院プロジェクト、既に着々と成果を挙げているようです。
■「世界で中国語学習ブーム、中国語教師が人気職種に」(人民日報)
http://www.people.ne.jp/2006/09/18/jp20060918_63132.html
各国での「孔子学院」の開校と、世界的な「中国語ブーム」の高まりを受け、外国人を対象とした中国語教師が非常にホットな職業となっている。中国新聞社が報じた。
海外の中国語学習人口は概算ですでに3千万人を超えており、国家中国語国際普及指導チーム弁公室(国家漢弁)は2010年には1億人に達すると予測する。深刻な中国語教師不足が予想されることから、関係機関は現在、中国語教師の育成を計画的に強化している。
(略)
国家漢弁の担当者は「中国は中国語教師の育成強化、中国語教師や中国語教育ボランティアのさらなる派遣、孔子学院の開設加速などを通じて、海外の中国語学習者のニーズを満たしていく」としている。(上記記事より)
人民日報社の報道ですので、多少、自画自賛な面はあると思いますが、中国の経済的な台頭にあわせて中国語のニーズが高まっているのは確かです。記事にもありますが、その背景として、積極的な「孔子学院」の展開が功を奏した面はあるでしょう。
とりあえず、「世界に100カ所」という目標は、今年中に達成されそうだとのことです。
もちろん100校を超えても設立は続くかも知れません。「世界の主要都市に一つずつ」、くらいのことはやりそうな気がします。
インターネット上の「ネット孔子学院」のような活動も、積極的にPRしていくことでしょうし。
もちろん学校ですから、設立して終わり、と言うわけではありません。
今後は世界100カ所の孔子学院から、毎年、中国語を学んだ学生達が巣立ってくるわけです。各国で中国語を学んだ人々が、中国の人々や各組織と関係をつくり、ネットワークを形成していくことでしょう。
孔子学院戦略の本当の威力は、そこから発揮されるのかも知れません。
日本は、既に経済力では、中国に負けてしまうことが確定しているような状態です。
だからこそ、文化や学術研究の発信地としては、世界から注目されるポジションを確保していかなければならないのではないかと、個人的には思っています。
そんな日本の我々が、中国の孔子学院の取り組みから学ぶことは多そうです。
以上、マイスターでした。
孔子学院、日本に5つあるのですね。中国の方々は、どのようなきっかけで、それらの大学を学院設置大学として選んだのでしょうか?気になるところです。