南山大学に180億円の寄付者、現る!

マイスターです。

学生の減少による収入源に苦しむ大学関係者なら、一度は思ったことがあるはずです。

「どっかの富豪が、ポーンと大金を寄付してくれないかなぁ……」

・・・と。
(※「大金」の規模は、その学校の経営状況によって異なります)

昨今ではアメリカの大学のように、寄付を集めるためにあの手この手を尽くす大学の話も聞くようになってきました。大学の基金を創設するために、「目標、100億円!」みたいな目標額を掲げる大学も増えてきているかと思います。
目標を掲げ、数年かけて、こつこつと組織的に取り組んでいく。そうでもしなければ、大量の寄付金が集まるなんてことは、考えにくいですよね。

……なんて思っていたら、そんな小市民の常識を吹っ飛ばしてしまうような報道を見つけました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「南山学園にポンと180億 寄付者の希望で内容非開示」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006090801001971.html

■「名古屋の南山大どえりゃあ~寄付…180億ミステリー」(ZAKZAK)
http://www.zakzak.co.jp/top/2006_09/t2006090817.html
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名古屋の名門私立大、南山(なんざん)大学などを運営する「南山学園」(名古屋市昭和区)に昨年度、巨額な寄付が寄せられていたことが8日、分かった。その額、何と180億円相当。1件での寄付とみられ、大学関係者の間では「1件でのこんな巨額な寄付は聞いたことがない」と話題を振りまいている。

同日付の東京新聞が関係者の話として報じた。180億円相当は1件での寄付とみられるが、同学園では守秘義務の立場から、詳細は答えず、個人か団体かも公表していない。

南山学園の05年度の財務資料によると、寄付はキャッシュではなく有価証券とみられ、学園では08年度に新設する小学校から大学までの教育・研究活動の支援に充てる基金に組み込んだという。

他大学の高額寄付では、創立130周年に向けて130億円の基金を集める東大をみると、ベネッセ会長の16億5000万円が基金での最高額。京大では今年2月、任天堂の前社長から70億円の寄付を受け、京大病院の新病棟の建設費用に充てたことを公表している。

70億円でもケタ外れだが、180億円相当の株式をポンとプレゼントできる人物もしくは団体とは誰なのか、謎は深まるばかり。
(略)
南山学園では夕刊フジの取材に対し、「寄付があったことは事実だが、広報担当が不在のため、詳細は答えられない」とコメントしている。 
ZAKZAK記事より)

1件の寄付が

180億円相当ですかー!

東大が基金設立のために数年がかりで集めようとしている寄付額が130億円ですが、それを南山大学は、たったの1件で達成してしまったことになりますね。

このような巨額の寄付を大学にされた話題の人物は、南山大学の卒業生でいらっしゃるのか、はたまた地元の企業か。そのあたりは謎だそうです。
もし公表されていたら、名前のついた校舎やホール等がキャンパス内に建ったりしていたんじゃないかと思いますが、自ら非公開を望まれたとのことですから、いくら気になっても詮索はしないようにしましょうね。プライバシーは尊重されなければなりません。
(もし公表したら、他の大学から寄付金担当者が押し寄せるかもしれませんし)

さて、南山学園は、この巨額の寄付金をどのように活用されたのでしょうか。
↓こちらに、法人としての事業報告書が公開されております。

■「事業報告書」(学校法人南山学園)
http://www.nanzan.ac.jp/gakuen/jigyo.html

見てみると、「消費収支内訳表(PDF)」に、

<学校法人に対する寄付:¥18,306,204,00>

という数字がありました。この額のほとんどが、どうやら基本金に組み入れられているようです。

「財務の概要」には、↓このような記述があります。

なお、2005年度には学園および学園が設置する単位校が行う教育・研究活動を支援する目的で寄付があり、これを原資として第3号基本金「南山学園総合教育研究支援基金」を設定することができた。南山学園は、2007年度に学園創立75周年を迎えることとなり、2008年度には小学校開設を目指している。初等教育から高等教育に至る総合学園教育は南山学園創立時点からの希望であり、それが現実のものとなることは大変喜ばしいことである。
(「財務の概要(PDF)」より)

というわけで、やはり、基金の原資として活用するみたいです。確かにこれだけの額なら、プロに任せればそれなりの運用益が期待できるように思われます。せっかくの巨額寄付ですから、一時的な利用だけではなく、今後にもつなげられる有効な活用法に充てられるといいですよね。

今回の寄付が、南山大学からの何らかの直接的な働きかけの結果によるものなのか、それとも、まるで空から降ってきたかのように突然申し出られたものなのかは、不明です。

ただ、1件で180億円というのは、やはり異例なこと。あまりこの寄付を重くとらえすぎるのも、きっと健全ではないのでしょう。

・寄付金で大学を動かす?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50215612.html

↑以前の記事で、ハーバードの総長が辞任するのを受けて、オラクルからの約133億円の寄付経計画が撤回された、という出来事をご紹介しました。
ご存じの通りアメリカでは大学への寄付行為が活発で、日本もそういう方向に向かっていると思います。ただ、あまりに、特定の団体や個人からの寄付に依存した財務体質になってしまうと、大学の自立経営がゆらぎかねません。
株式会社と違って、大口株主が会社を乗っ取るようなことは、大学ではおきにくいと思いますが、大口寄付者が持つ影響力はゼロではないでしょう。
南山大学の皆様は、重々そのあたりはご承知のことと思いますが、我々大学関係者も、こうしたことを認識しておかないといけませんね。

考えてみると、寄付って、バランス取りが難しいです

例えば130億円を集めるとします。<13人から10億円ずつ集める>との、<100万人から13,000円ずつ集める>のでは、どちらも集まる額は同じです。ただ、寄付者1人が持つ影響力は全然違います。この額を集めるために必要なコストや時間も異なります。この寄付額を維持するために必要な手だても、違ってくると思います。

どういう状態がベストなのかは、その大学によって違うのでしょうね。
寄付戦略を立てるなら、大学のガバナンスなども考慮した上で、どういうバランスが最適なのか考えないといけません。片っ端からもらえればいい、というものでもなさそうです。寄付戦略って奥が深いですね。

以上、180億円もらえたという冒頭の記事を読みながら、そんなことを考えたマイスターでした。

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(おまけ)
寄付のことで思い出した話があるので、ご紹介します。

ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏が理事長を務める、平成基礎科学財団という団体があります。

■平成基礎科学財団
http://www.hfbs.or.jp/

小柴氏は、理念として

基礎科学というものの性質から、産業とか経済団体の寄附だけに頼らずに国民一人一人が自分たちの基礎科学を支えていただく、例えば、一人年に1円というレベルでという線で財団を運営していきたいと考えております。
(「理事長のごあいさつ」より)

…といったことを考えておられるようです。なるほど、確かに基礎科学のあるべき姿を考えると、毎年、広く国民一人一人から少しずつの寄付を集めるという理念設定は合っていると思います。

さて、実際にこの財団の賛助会員リストを見てみると、不思議な寄付があるのに気づきます。

「高貴な御二方」と言う名前で、寄付額が「2円」。

この寄付、「102004年度分迄払込済み」という注が付いております。つまり本当に1年に1人1円というペースで、ただし10万年先の分まで寄付をされたという意味です。

マイスターは、関係者から教えていただいたのですが、小柴氏の理念通りの寄付を実行されたこの「高貴な御二方」とは、天皇皇后両陛下なのだそうです。

小柴氏の寄付理念も見事ながら、それに応える形でこのような寄付をされた両陛下も実に粋でいらっしゃるなぁとマイスターは思ったわけです。寄付の記載ひとつでも、組織の考え方がこんな風にかっこよく表現できるのですね。