海外に研究者を派遣する試み、海外から学生を集める試み

マイスターです。

最近、「海外」を強く意識するようになってきました。

高校生が、英語でスピーチしたり、海外から留学してきた大学生達と一緒にプロジェクトを行ったりしているのを、目の当たりにする機会がありました。
また、100%英語だけで進められるシンポジウムにも参加しました。

今からでも海外を相手にする経験を積んでおかないと間に合わないなぁ、という焦りを覚えました。(何に間に合わないのか、という疑問はこの際、横においておきましょう)

国際デザインワークショップに参加したり修士論文の調査をアメリカでやったりと、自分なりに努力はしてきたつもり……なのですが、いずれも短期間の出来事でしたので、度胸とボディランゲージでなんとか乗り切ってしまった感は否めません。中長期的に国際的な経験を積み上げていく必要性を痛感することが多い、今日この頃です。

語学力はもちろんですが、ビジネス交渉を行うために必要なのは語学だけではありませんよね。やはり、何事も体験です。

というわけで今日は、海外との人材交流に関する話題をお届けします。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「研究者の卵、海外の一流研究室で国際経験・文科省が派遣」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060826AT2G2600126082006.html

■「日本学術振興会 JSPS 若手研究者の海外での活躍・研鑽機会の拡大(PDF)」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu9-1/shiryo/06072804/003.pdf
————————————————————

文部科学省は来年度から、「研究者の卵」である理工系の大学院生らを、ノーベル賞級の成果をあげている海外の大学研究室などに派遣する事業を始める。年間約400人を選ぶ予定で、期間は1カ月から1年。日本の若手研究者は国際経験が乏しいと指摘されており、早い段階から海外で武者修行してもらい、研究開発の国際競争力の底上げを狙う。

新事業は「若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム」(仮称)。同省が所管する日本学術振興会が窓口になって実施する計画。大学院生の中でも若い修士課程を中心に対象とする考え。
(NIKKEI NET記事より)

若手研究者からポスドク、大学院生までの人材を、早期に海外に派遣しようという制度ですね。
「若手研究者がポストドクターの時期から国際経験を積み海外研究者と切磋琢磨」することが極めて重要だ、という第3期科学技術基本計画の指摘を受けてのプログラムだとのこと。プログラム実行にあたっては、日本学術振興会が審査などを行う機関になるそうです。

NIKKEI NETの記事では言及されておりませんが、これ、大学院専攻科レベルの「組織的な取組」を支援する、というのが特徴的なんです。
つまり、研究者が個人で申請するのではなくて、大学が組織として申請するのですね。

○若手研究者インターナショナル・トレーニングプログラム(ITP)(仮称)

・機関としての組織的な取組を支援
・大学院生~ポスドクの若手研究者を対象
・海外のパートナー機関における研究活動(共同研究、教育プログラムへの参加、インターンシップ等を含む)に参加
・2000万円×30件、5年間1件あたり10名
<1ヶ月~1年程度約300人>

「日本学術振興会 JSPS 若手研究者の海外での活躍・研鑽機会の拡大」(文部科学省)より)

上記の文科省サイトの資料を見ると、1件あたり10名の人材を派遣するということのように、読めます。
もし10人を5年間派遣するとしたら、支援額は1人あたり年間40万円ということになりますね。

10人もの研究者をノーベル賞級の研究機関にいっせいに派遣している大学って、なかなかすごいです。5年経って帰国した暁には、その大学の研究環境に多くの刺激を与えてくれるに違いありません。

ただ、そんなに大勢受け入れてくれる機関が果たして海外に30箇所もあるのか、という疑問はわきますが……欧米では研究者の人材流動性が高いから、案外、大丈夫なのかな?

次は、海外に研究者を送るという点は同じでも、目的が逆のパターンです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「途上国に『大学発 知のODA』、文科相懇談会が提言」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060830i303.htm?from=main3
————————————————————

 文部科学相の私的懇談会「国際教育協力懇談会」(座長=木村孟大学評価・学位授与機構長)は30日、開発途上国に対する日本の援助に、大学の研究成果や人材育成機能などを活用するよう提言した報告書「大学発 知のODA 知的国際貢献に向けて」をまとめた。

援助機関や大学が情報を共有し意見交換できる場を整備するため、各大学が独自に進める国際協力に関する情報を整理して一覧できるようにする「知の見本市機能」の創設を提言している。

感染症や環境問題、農業開発など途上国が抱える課題に対し、日本の大学の研究成果を有効に活用するため、専門的なアドバイスが必要と指摘。大学や民間組織のOBなどの人材を活用すべきだとしている。

また、国際協力機構(JICA)など援助機関と大学との連携を強化し、「開発途上国のニーズに柔軟かつ的確にこたえられるよう、知的ネットワークを形成する必要がある」とした。

文科省は関連経費として5億1000万円を来年度予算の概算要求に計上した。「知の見本市機能」創設後は、インターネット上で公表することを検討している。途上国の在日大使館関係者を招いたフォーラムも開催する予定だ。
(読売オンライン記事より)

たまたま昨日の記事が「見本市」についてのものでしたが、国際協力に役立つ「知の見本市機能」を構築するとのこと。悪くはありませんが、さらに言うと「見本市」を作って相手を待つだけにとどまらず、こちらから売り込んでいくことが肝要ではないかと思います。

そんなわけで、見本市の部分よりもどちらかというとマイスターは

感染症や環境問題、農業開発など途上国が抱える課題に対し、日本の大学の研究成果を有効に活用するため、専門的なアドバイスが必要と指摘。大学や民間組織のOBなどの人材を活用すべきだとしている。

の部分に興味を引かれます。

大学や企業を退職した人材の力を、社会のためにいかに活用するか。これは、今後の日本社会が抱える大きなテーマですよね。途上国への国際協力に役立ってもらうというのであれば、これは大きな価値がある取り組みになるのではないでしょうか。

ただしODAには、適切に計画しないとかえって別の問題を引き起こしたり、相手国の迷惑になってしまったり、という面もあります。「知のODA」ではそんなことが起こらないようにしたいものです。
一方的な押しつけにならないよう、相手国の大学と合同チームを組んでプロジェクトを進めるというのが良いかもしれません。いっそ双方の学生達も巻き込んでのコラボレーションにしてみてはいかがでしょうか。

最後にご紹介するのは、日本への留学生を増やすための動きです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「経産省がアジアの人材育成構想」(FujiSankei Business i)
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200608210020a.nwc
————————————————————

政府は来年度から、アジアの発展を担う優秀な若者を日本に留学生として受け入れ、現地企業に供給していく人財育成に乗り出す方針を固めた。年間60億円の国費を投じ、2000人の育成をめざす。

二階俊博経済産業相が23日からマレーシアのクアラルンプールで開かれるアジア各国の経済担当相会合で「アジア等人財資金構想」として正式に表明し、経済産業省が今月末、来年度予算を新規要求する。

同省によると、日本企業での活躍をめざすアジア各国の優秀な学生に対して2年間、日本での留学・研究費用を支給するとともに、インターンシップや産学協同プロジェクトへの参加を促進するなど、就職面でのサポートを強化する。このため、受け入れ大学に日本語教育、ビジネス研修の充実や産業連携教育プログラムの開発を要請。産業界には留学生を採用・活用していく国際人材マネジメントシステムの確立を求め、アジアの現地法人に登用することで日系企業の競争力強化も狙う。
(略)
北畑隆生経産事務次官は「アジアの若者を日本に引き戻し、優秀な人材を補強していかないと、人口が減少していく日本の経済成長はない。アジアの経済発展に貢献しながら、日本の成長にも役立ってほしい」と話している。
(FujiSankei Business i 記事より)

経済産業省の取り組み、という点がポイントです。
ですからホラ、「日本企業での活躍をめざすアジア各国の優秀な学生に対して」、という但し書きが付いてますよね。事務次官の話も、「日本の経済成長」を中心に紹介されています。

確かに今後の日本経済のあり方を考えたら、国費を使ってでもアジアの優秀な学生に来てもらった方が良いかもしれません。

年間60億円の国費を投じて2,000人の育成をめざす、とのことですから、単純に人数で割ったら、1人あたり300万円。小さい額ではありません。
しかし、日本企業が世界展開する際の、現地のリーダー層として活躍するかも知れない人材です。日本で学んだ各国の経済リーダー達が、世界経済の舞台に上る日のことを考えたら、安い投資といえるのかも知れませんね。
こういうことを、国家として戦略的に行うのは、悪いことではないと思います。

問題は、各国の優秀な学生が、日本の大学に満足してくれるかです。
そういう学生達は、アメリカやヨーロッパなどの大学と、日本の大学とを比較した上で進学先を選ぶはず。しかし残念ながら我が国の大学は、留学生のサポートという点では、欧米と比べて二歩も三歩も後れをとっています。客観的に見て、将来のキャリアのことを考えれば、日本の大学よりもアメリカの大学に進学したいというのが正直なところではないでしょうか。
(日本政府が経済的に援助するとは言っても、奨学金が充実している国と比べられたらやはり分が悪いですし)

受け入れ大学に日本語教育、ビジネス研修の充実や産業連携教育プログラムの開発を要請

……とありますが、単にこういう対策を打つだけでは勝てない気がします。

アジアの人材を預かるのであれば、私たち大学人としては、アメリカやヨーロッパ、あるいは中国や韓国の大学に、「学びの場」としての総合力で勝てる!……という状態を、目標にしたいものですね。
一朝一夕にはいかないと思いますが、避けては通れない道。経済産業省もバックアップしてくれるみたいですから、がんばりましょう。

以上、最近の、海外との人材交流に関する報道をまとめてご紹介しました。

国と国とのコミュニケーションは、ひとえに「人と人とのコミュニケーション」で成り立っていると言えるでしょう。それは簡単に実践できるものではありませんが、少しずつ積み上げていくしかありません。「戦略的に考えて、こつこつと実践」って感じでしょうか。

言うまでもなく大学は、その実践の舞台の一つとして、重要な役割を担っています。
期待に十分応えられる存在を目指そうではありませんか。

マイスターでした。

1 個のコメント

  • 欧米っていう枠の是非はともかく、アメリカの大学はまあ大学院生は受け入れてくれると思いますけど。ただ一組織でどんだけ送りつけられる人材用意できんのさ、っていうのは疑問としてありますけど。