ニュースクリップ[-9/3] 「不正に対応態勢 大学・機関の1割だけ」ほか

マイスターです。

9月1日から本日まで、大学行政管理学会の定期総会・研究集会が、青山学院大学青山キャンパスで開催されていました。
大学職員の方々には、参加された方も多いことでしょう。

■「2006年度 定期総会・研究集会の開催について(ご案内)」(大学行政管理学会)
http://www.ne.jp/asahi/juam/office/2006soukai.html

マイスターも、2日目から参加しました。何しろ年に一度の貴重な機会。勉強させていただきました。

それでは、今週のニュースクリップです。

研究者の不正行為を防ぐための、組織的取り組み。
■「不正に対応態勢 大学・機関の1割だけ」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20060826k0000m040063000c.html

研究者の論文ねつ造や研究費の不正使用に対応する告発窓口など、適切な処理のための態勢を取っている大学や研究機関は、全体の1割程度にとどまることが、日本学術会議によるアンケートで25日、分かった。同会議では、遅れている態勢づくりを早急に進めるよう改めて求めていく。
(略)研究不正や研究費不正使用の疑いを告発する窓口や対応手続きを決めているのは167機関(12.6%)。「検討中」も138機関(10.4%)にとどまった。また、研究者が守るべき倫理綱領を制定しているのも177機関(13.3%)に過ぎず、「制定予定なし」の回答も548機関(41.4%)たった。
(上記記事より)

日本学術会議による調査結果です。不正告発の手だてがない機関がほとんどだというのは問題ですね。研究者の「性善説」を過信するのは、危険です。もしくは、大きな不正が明るみに出てからでないと、対応しないという姿勢なのでしょうか……。
いずれにしても不正を防ぐためには、組織的、制度的な手だてもやはり必要だと個人的には思います。

そこで、↓こんな報道をご紹介します。

■「事務、監査の予算倍増へ/研究不正防止で文科省」(さきがけon the web)
http://www.sakigake.jp/servlet/SKNEWS.NewsPack.npnews?newsid=2006082501003595&genre=science/environment

早稲田大の研究費不正受給問題などを受け文部科学省は25日までに、資金管理の一元化や、公認会計士の監査などに使える科学研究費補助金(科研費)の間接経費を本年度の約143億円から約311億円に倍増することを決めた。
早稲田の問題を受けて全国の大学を調査した結果、資金の不足から大学当局が十分な会計監査の体制を整備できていない実態が浮かび上がったための措置としている。
別の調査では、多くの大学で研究者自らが会計処理や予算獲得のための資料づくりに忙殺され、研究自体に支障が出ている現状も分かったため、研究者を補助する事務職員の確保にもこの経費を充てられるようにする。
(上記記事より)

あまり大きくは取り上げられていなかった報道ですが、実は結構、重要だと思います。科研費を、研究支援や会計監査のための予算に充てやすくなりました。
「研究者を補助する事務職員の確保にもこの経費を充てられるようにする」とのこと。科研費の申請書類を作成するのは結構大変で、毎年、その時期になると教員達は忙しそうですが、そういった補助業務を行うスタッフも、科研費を使って手配できるかも知れません。

研究者個人がすべての業務を担っている研究現場の現状が、組織だった研究実行チームでの活動へと、少しずつ変わっていくということでしょうか。そうすれば確かに、研究費流用などの不正行為も減らせるかも知れませんね。

なお、↓研究者個人の資質を高めるための取り組みもありましたので、こちらもあわせてご紹介します。

大学院で「不正をしない研究者をつくるための教育」を。
■「研究の不正防止へ、大学院に教育プログラム 早稲田大」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200608310382.html

学内で起きた研究費不正受給問題を受けて、早稲田大学は31日、不正を防ぐための教育プログラムを大学院に導入し、研究費の適正使用や、論文のデータ捏造(ねつぞう)や流用などの不正防止に関する教育を行うと発表した。講師陣や詳細な内容などを詰めるため、本格的に始めるのは08年4月以降になりそうだが、文部科学省によると、こうした試みは全国でも珍しい。
対象は、理工学術院修士課程の大学院生が中心。早大は教職員向けに研究倫理規定を作ることなどを決めているが、「研究者の卵」にも取り組みが必要と判断した。
(上記記事より)

研究費の流用など、研究者による不正行為が報道された早稲田大学が、上記のような教育プログラムを、理工系の大学院生を対象に始めるそうです。

最近では、大学で職業倫理教育を行うのが盛んのようです。工学系では技術者倫理、医学部では医療倫理などの授業が開講されていると聞きます。今回の早稲田大学の取り組みは、そういった倫理教育の「研究者版」という位置づけになるでしょうか。
「プロフェッショナル」の条件の一つは、高い倫理観を持っているかどうかです。プロ研究者にとっても、職業倫理は重要です。早稲田大学だけでなく、全国の大学院で、基礎科目の一つとしてこういった倫理教育に関する授業が開設されてもいいんじゃないかな、なんて思います。

医師臨床研修、大学病院より民間病院の方が人気。
■「研修医、大学病院に不満『雑用多い』・厚労省調査」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060901STXKE032831082006.html

2004年度から義務化された医師臨床研修の新制度では、大学病院よりも市中の民間病院などで研修した医師の方が満足度が高く、病院側の受け止め方も大学病院より市中病院の方が「新制度で病院がよくなった」と感じていることが31日、厚生労働省の調査で明らかになった。
新制度導入後、かつて研修医が集中していた大学病院での研修は減少。今回の調査結果でも、小さい病院ほど満足度が高く、大学病院の不人気が浮き彫りになった。
(略)2年目の研修医のうち、市中病院で研修する医師の66%が病院側の研修体制に「満足」と答え、「不満」は23%にとどまったのに対し、大学病院では「不満」(47%)が「満足」(39%)を上回った。
市中病院に満足の理由は「職場の雰囲気がよい」「症例が十分」「指導が熱心」、大学病院に不満の理由は「雑用が多い」「待遇が悪い」が多かった。1年目の研修医もほぼ同様の結果だった。
(上記記事より)

「研修医」の過酷な生活ぶりを描いて大ヒットした漫画に『ブラックジャックによろしく』という作品があります。何日も不眠不休で雑用にこきつかわれながら「月給」3万数千円で暮らす大学病院の研修医の実態を、データなどを元に描いた作品です。あまりの衝撃的な内容に、国会審議で取り上げられたりもしました。
その後、医師臨床研修が義務化されたり、研修医の待遇を改善させる動きが全国で出てきたりしている……ようですが、今回の報道を見る限り、依然として「雑用」が多いという不満が、大学病院の研修医からは多く聞かれているようですね。長年の「慣例」は、そう簡単には変わらないということでしょうか。医師を育成するための教育機関として、大学病院より、民間の病院の方が熱心だというのは、ちょっと恥ずかしいことだと思います。

この様子ですと、今後、研修医はどんどん民間病院を研修先に選択することになりそうな気がします。困るのは大学病院ですよね。予算など色々な制約はあるのでしょうが、どうにかしないと、研修医がいなくなっちゃいますよ。

キャンパス内に豪華な宮殿風トイレ!?
■「女子大にベルサイユ風トイレ シャンデリアに名画…」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0828/012.html

京都市上京区の平安女学院大の室町館に、シャンデリアや水晶が輝くトイレが完成した。来春の国際観光学部開設の記念事業でテーマは「世界文化の融合」。
床はイタリア製タイルで描いたペルシャ絨毯(じゅうたん)模様。和洋計四つの個室にゴッホやルノワールの模写画があり、扉や鏡はベルサイユ宮殿を意識して金色で飾った。
旅好きの山岡景一郎学長が企画した。「大学で一番豪華な施設。リラックスして創造力と美的感覚を磨いて欲しい」。男性も見学できるが、女性の同伴が必要だ。
(上記記事より)

すごい記念事業です。このトイレで創造力が磨かれるのかどうかマイスターにはわかりません。ただ、こういうニュースはメディアが報道ネタにしやすいです。プレスリリースを送れば、新聞・雑誌の記者や、テレビ局の取材陣がすぐ来るんじゃないでしょうか。「ネタになるイベントや設備」には利用価値があります。
ただ、男性記者にはちょっと入りづらいですけれど…。

国公立大学でもAO入試が増加中。
■「AO入試増、国公立53大学で」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060829i314.htm

文部科学省は29日、来春(2007年度)の国公立大入試の概要を発表した。
書類審査や面接、集団討論などで受験生を評価する「AO(アドミッション・オフィス)入試」を行う大学・学部は、今年度より8大学15学部増え、53大学136学部となり、初めて50大学を超えた。推薦入試を行う大学は4年ぶりに増加に転じ、143となる。
(上記記事より)

私大から導入が拡がっていったAO入試。国公立大学にも普及してきているようです。
ところで、私大が次々とAO入試を取り入れ始めていた頃、国立大学の関係者はしばしば「AO入試なんて邪道で、単なる青田刈りだ。本当の学力を測るためには、これまで通りの学力試験が最適だ」といった趣旨の発言をされていたように記憶しています。情勢はすっかり変わりましたね。
AO入試の様々なメリットが国公立大学にも理解されてきたということなのか、それとも受験生を減らした結果「国公立大学でもAO入試をやらざるを得なくなった」という認識で導入されておられるのかは、わかりません。認識は大学それぞれで違うのでしょうね。

AO入試と一口に言っても、実際には多様な方法があります。東工大のように、5時間連続で数学の超難問を解かせ、その結果だけで合否を決める(センター試験は不要)といったユニークなAO入試もあります。

■「平成19年度第1類(理学部)入学者選抜における特別入学資格試験(AO型)の実施について〔予告〕」(東京工業大学)
http://www.gakumu.titech.ac.jp/nyusi/etc/aogatanyuushi-yokokuH180314.html

その学部学科で優れたパフォーマンスを発揮する人材を採るために、特別にデザインされる入試がAO入試なんだと、マイスターは思っています。ですから個人的には、AO入試はちゃんと内容を設計した上で、多くの大学に積極的に導入してほしいなと考えています。

大学入学辞退者の返金問題、消費者契約法施行「前」のケースは?
■「大学入学辞退者の返金請求訴訟、10月に最高裁弁論」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060830AT1G3003M30082006.html

大学入試に合格後、入学を辞退した元受験生が、大学側に入学金や授業料の返還を求めた7件の訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は30日、原告、被告側双方の意見を聞く弁論を10月13日と16日に開くことを決めた。
2001年4月の消費者契約法施行後の受験については入学金を除く授業料などに限って返還を命じる判決が相次ぐ一方、施行前の入試では入学辞退の時期などによって下級審の判断は分かれており、最高裁として統一判断が示される見通し。
弁論が開かれるのは阪南、大阪医科、松蔭女子学院、大阪経済、中央、日本、芝浦工業の7大学を巡る訴訟。
(上記記事より)

複数の大学に合格した場合、「先に入学金や授業料を振り込んだけれど、結果的に入学しないことになった」という学校が出てきたりします。かつては受験生の家庭が泣き寝入りするしかありませんでしたが、最近では、「授業料」に関しては授業を受けていないわけですから、徴収することは適当ではないという判決が続いています。
しかしこれまでにそういった判決が下されたのは、いずれも2001年4月の「消費者契約法」施行後のケースだそうです。今回、最高裁で弁論が行われるのは、この法律が施行される「前」の事例についてです。
個人的には、行っていないサービスの対価を得るのは不当ですから返還すべきと思いますが、やはり法律に基づく判断が第一ですから、最高裁の判決を待ちましょう。

ただ、もし最高裁が「返還すべきである」という結論を下したら、いったいどれほどの学費返還騒ぎが、全国の大学で巻き起こるのでしょうかね。過去にさかのぼっていったら、非常に多くの該当者が出てくるはず。大学経営に深刻な影響を与えるのは確実であるように思われます。今のうちに、各大学は、どのくらいの影響があるのか試算しておいた方が良いのではないでしょうか。

アメリカの国内大学ランキング。
■「America’s Best Colleges 2007(英文)」(USNews.com)
http://www.usnews.com/usnews/edu/college/rankings/rankindex_brief.php
※全文を閲覧するためには、オンライン購入する必要有り

アメリカの国内大学ランキング、2007年度版です。こういったランキングは、あくまでも部分的、限定的な指標に基づくものですから、大学の実力すべてを表すものではありません。でも、限定的な評価だという前提で参考にする分には良いと思います。

同じ工学系でも、博士課程を持っている大学のランキングと、学士or修士課程までしかない大学とでランキングを分けているという点には、感心します。確かに、教育重視か研究重視かといった役割の違いもありますから、一緒くたに評価するのは不適切ですよね。こういう点は、日本も見習った方が良さそうです。

■「Best Undergraduate Engineering Programs:At schools whose highest degree is a doctorate」(usnews.com)
http://www.usnews.com/usnews/edu/college/rankings/brief/topprogs_withphd_brief.php
■「Best Undergraduate Engineering Programs:At schools whose highest degree is a bachelor’s or master’s」(usnews.com)
http://www.usnews.com/usnews/edu/college/rankings/brief/topprogs_nophd_brief.php

上記と直接関係はありませんが、9.11テロで留学生を減らしたアメリカが、どのようにそれを回復することに努めてきたか、ということを書いた記事がありましたので、ついでにリンクをご紹介しておきます。

■「US universities are working hard to boost enrolments from foreign graduate students.(英文)」(Nature methods)
http://www.nature.com/naturejobs/2006/060824/full/nj7105-953a.html

ブラジルで学部新設ラッシュ。
■「86学部設立要請:各州立大学から殺到」(サンパウロ新聞)
http://www.spshimbun.com.br/content.cfm?DA_N_ID=14&DO_N_ID=12594

州立大学からの学部新設の要請が多く、文部科学省はその整理に大忙しである。サンパウロ州は現在28学部に新設要請12学部、ミナス州は28学部に新設7学部、リオ州は13部に新設6部、ゴヤス州はゼロから新設12学部という調子である。
南部では南リオグランデ州が現在10学部に1学部新設、サンタカタリーナが4学部に2学部新設、パラナ州が19学部に1学部新設と極めて少数。また、中西部では南マットグロッソ州が3学部に新設1学部、マットグロッソ州は5学部に新設1学部。トカンチンス州では4学部に新設2学部。ゴヤス州では新設の12学部。首都では現1学部に新設1学部。トカンチンスでは4学部に新設2学部……
(上記記事より)

ブラジルに関する報道です。各州とも、現在の1.5倍とか2倍とか、すごい勢いで学部を新設してます。そんなに需要があるのでしょうか。「BRICs」の一角ですから、やはり工業発展を支える理工系学部なのかな? どんな学部が増えているのかも気になりますね。
それだけ供給不足であるなら、場合によっては日本の大学に留学生を呼び込むチャンスになるかも知れませんよ。

以上、本日のニュースクリップでした。

大学行政管理学会は、今年で設立10年目だそうです。聞いたところによると、年間に60回程度、全国のどこかで様々な規模の研究集会が行われているとのこと。毎週1回は開催されている計算ですね。

このような活発な活動ぶりは、大学に関わるいち職員としてとてもうれしいことです。そして同時に、10年より前にはこのような発表の場がなかったということ、過去の大学職員がどれほどフラストレーションをためていたかということに思い至るのです。職能と直結した学会の存在意義って、大きいですよね。

ところでマイスター、職場の名刺とは別に、「マイスター」という名前の名刺を作ったのですが、名刺印刷屋のおじさんおばさんがすっごいオマケをしてくれたおかげで、100枚発注したのに、200枚ももらえてしまいました(一体どんなオマケの仕方ですか!?)。名刺ができあがるのを待っている間の、店先でのトークが盛り上がったのが良かったのかも知れません。というわけで、本日の学会でも相当配りましたが、まだまだ残ってます。
この名刺を減らすためにも、積極的に多くの方々とお会いしていきたいなとマイスターは思っております。首都圏にお住まいの方や、東京に来られる用事のある方は、ぜひマイスターにメールをくださいませ。お酒でも飲みながら、色々とお話しさせていただければと思います!

今週も一週間、本ブログをごひいきにしていただき、ありがとうございました。
明日からも、どうぞよろしくお願いいたします。

マイスターでした。