出張!どこでもAO入試 あなたの高校に試験官を派遣します

かつて、大学院にAO入試で入ったマイスターです。

その大学院は、当時の自宅から片道で3時間離れた場所にありました。電車賃は、往復で\5,000くらいでした。確か、試験を受けるために始発に乗ったと思います。
AO入試は「学ぶ意欲を見る」入試だと聞いていたので、片道3時間かけてキャンパスに向かったこの意欲も加算してくれないかなぁ、などとしょうもないことを考えた記憶があります。

(結局、合格した後も2年間、自宅からその行程を通い続けました。それは意欲があったと言うより、単に下宿するお金がなかっただけですが)

今日は、AO入試についての報道をご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「AO入試:高校出向いて面接試験 静岡の大学が学生確保に」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20060819k0000e040073000c.html

■「【どこでもAO入試】(環境防災学部)」(富士常葉大学)
http://www.fuji-tokoha-u.ac.jp/topics/AOnituitesetumei.htm
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富士常葉(とこは)大(静岡県富士市)は、現在受け付け中の環境防災学部のアドミッション・オフィス(AO)入試で、面接官が受験生の高校に出向いて面接試験をする「どこでもAO入試」を導入した。少子化などで今年度の入学者が定員割れした私大が初めて4割を超え、各大学は学生の確保に躍起だ。文部科学省は「試験として機能していれば問題はないが、面接官が個別に(受験生のところへ)行くのは、聞いたことがない」と話している。

同大入試広報課によると、「どこでもAO入試」はインターネットでエントリーする。その後、電子メールやファクスなどで受験生の意思を確認しながら、面接日時を決定。受験生の正式出願を受けて、在籍(出身)高校で面接試験を実施する。遠隔地で同大キャンパスを訪問しづらい受験生が対象だ。

AO入試のエントリーは7月上旬から受け付けており、これまでにエントリーのあった約20人のうち富山県と沖縄県の高校生2人が「どこでもAO入試」を利用する可能性があるという。同課は「環境防災は特殊な分野なので、高校生の理解・認知が得られにくい。この学部を地域だけでなく、全国にアピールしたかった」と説明する。
(MSN毎日インタラクティブ記事より)

筆記試験を遠隔地で行う「サテライト入試」はもはや一般的ですが、AO入試も地元で受けられるようになったのですね。

しかも、あらかじめ大学側で会場を設定してのサテライト入試と違って、「希望者がもしいたら、そちらに伺います」という、デリバリー方式です。
大学入試もついにデリバリーの時代になりました。

上記の記事には、続きとして↓こんな記述もあります。

07年には大学、短大への進学希望者数と総定員が同じになる「大学全入時代」を控え、学生集めに苦労している大学は多い。大手予備校は「必ずどこかがやると思った。今後はほかの大学もやるのではないか。高校生が大学側を呼びつけているわけで、これまでの主、客が完全に逆転している」と指摘する。
(MSN毎日インタラクティブ記事より)

少子化により受験生を集めるのが困難になり、大学はどこも、入学機会を増やす方向に動いています。入学試験メニューの多様化(複雑化)や、サテライト入試の実施などはすべてそんな改革の一つですよね。
また、「試験を受けにくい」という要素があるなら、少しでもその「受けにくい」要素を撤廃しよう、というのも最近の流れの一つです。

今回の、「どこでもAO入試」は、そんな最近の入試の傾向を素直に突き詰めた結果なのではないかな、と思います。

さて。

この報道を見て、「そこまでする必要はないのでは…」とか、「大学の威厳が失われる」とかいった感想を持たれる方も、ひょっとするとおられるかもしれません。
実際、上記の記事でも予備校関係者が「高校生が大学側を呼びつけている」「これまでの主、客が完全に逆転している」といったコメントを寄せているようです。従来の大学入試の常識を覆すような今回のケースを、受け入れられない教職員の方って、少なくないような気がします。

でも個人的な考えを言うと、マイスターは、この取り組みはそんなに悪くないと思います。

「地理的な条件で受験できない方がいるから、受けやすくしてあげよう」ということですから、サテライト入試とあんまり変わらないというのがマイスターの認識です。こちらが指定した会場を使うか、あちらが指定した会場を使うかという違いだけで、別に入試問題が簡単になるとかではありませんからね。
むしろ、受験生が集まらないからといって受験科目を安易に減らしたり、指定校推薦を乱発したりする大学の姿勢の方がよっぽど問題です。それに比べれば、この「どこでもAO入試」は、サービスの一環だと言える範囲ですから、マイスターは容認できます。

「1人のために入試スタッフが向かう」という点も、前代未聞ではありますが、採算がとれていれば別に良いのではと思います。
無理して「サテライト入試」を全国の主要都市で実施し、スタッフを何十人も出張させておきながら、サテライト会場からの入学者はほんのわずかでした、という大学だってあると思います。それを考えれば、スタッフ二人で出張して、一人高校生が確実に入学してくれたら、コストパフォーマンスはそう悪くないと思います。学生一人分の入学金だけで、スタッフ二人の往復交通費とホテル代くらい、あっさり返せるのですからね。

また、今回の「どこでもAO入試」は、「環境防災学部」に限定して実施すると報じられています。環境防災学部は、全国でも非常に珍しい着眼点の学部です。正直言って、この学部にどうしても行きたいという受験生は限られていますから、学生募集戦略上、どうしても受験対象者は全国に拡げざるを得ません。
そんな学部の性質から考えても、「出張AO入試」のシステムは合理的です。

記事の中で予備校の方が「必ずどこかがやると思った。今後はほかの大学もやるのではないか。」とおっしゃっていますが、マイスターもそう思います。

さらに付け加えますと……試験日は、一応「9月30日」に固定されていますが、マイスターはそのうち、「どこでも」に加えて、「いつでも」を実行する事例も出てくると思います。

テーマを事前に選んでの論文や面接によるAO入試なら、筆記試験と違って、別に試験日をそろえる必要はありません。「10月1日から30日まで、いつでも」みたいな期限設定を設けるとか、究極的には、「年中いつでも受けに来てください」みたいなことだってあり得ます。いつかはそういう大学が出てくるだろうと、マイスターは思います。

もちろん、入試業務ばっかりで大学の教職員が疲弊してしまうという状況は考え物です。でも、できる限りの範囲の中で工夫をしながら勝負するということなら、マイスターは良いことだと思います。
今回の富士常葉大学の事例は、これからの取り組みですから、うまくいくかどうかはまだわかりません。単なる青田買いの延長として実行してしまったら、いい成果は出ないでしょう。ただ上述したように、富士常葉大学は「特殊な学問内容に対して、興味を持ってくれる学生に受けて欲しい!」という理由あっての取り組みみたいですから、やり方次第で、結構うまく機能させられるような気がします。

ただ、大学によってそのへんの事情は違います。学部構成によっても地域によっても、学風によっても違います。同じ環境の大学はありません。ですから、どの大学でも同じ仕組みが成立するかどうかはわかりません。
それぞれの大学で、それぞれにあった入試のあり方を考えていくというのが重要なことです。大学業界は他校の取り組みをよく参考にしますが、他校の取り組みをそのまま真似してうまくいくことは、そうそうありません。そこだけは、注意しなければなりませんよね。今回の「どこでも入試」も同じだと思います。
「これは青田買いにいいぞ!」なんて考えて、安易に形だけ真似したら、いい結果にはつながらないと思います。

結局、試行錯誤しながら、自校にあったやり方を模索するしかないのですよね。

以上、マイスターでした。

2 件のコメント


  • ちょっと前から拝読しております。
    この入試の形はもう少し進化させたらアドミッションズ・オフィスのスタッフが学生をスカウトして回る形になりそうですね。
    もしAOがそれだけの権限を持つようになれば、そのスタッフは選考について教育評価や測定の高い専門性や大学の学問に関する広い教養が要求されるようになるような気がします。アメリカあたりではそうなってるのかもしれませんが。

  • 高校でもまだAO入試に対する反応はまちまちらしいです。
    この入試スタイルの発展で、自己表現と基礎学力のバランスが取れた人たちがふえたら良いですね。